テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2016年01月号

『シドニアの騎士』はNetflixを武器に世界と戦う!〜ポリゴン・ピクチュアズCEO・塩田周三氏インタビュー〜

2016年01月27日 11:22 by sakaiosamu

Netflixを取材していると必ず出てくるキーワードがある。『シドニアの騎士』という、日本のアニメーション作品だ。Netflixの日本でのサービス開始のずっと前から、配信されていた唯一の日本のコンテンツだ。


(c)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

制作はポリゴン・ピクチュアズ。映像業界にいた人ならその名を聞いたことがあるだろう。80年代にいちはやくCGによる映像制作をはじめて、独自の存在となった。90年代には資生堂のテレビCM用に開発したイワトビペンギンのキャラクターが大人気となったことでいわゆる”ブレイク”した。映像制作という事業はテレビ局や大手代理店から受託で引き受け、自転車操業でやらざるをえないのだが、彼らは自社でキャラクターを開発し、受託じゃなくても高収益を生み出せるモデルを開拓した。いわば映像制作界のヒーローでありモデルとなったのだ。

創業者・河原敏文氏は時の人となったが、ポリゴンはその後事業を広げすぎて一気に凋落してしまう。その言わば敗戦処理を引き受け、焼け跡から会社を建て直してまったく新しい路線を開拓したのが現CEOの塩田周三氏だ。

筆者はそうした90年代の伝説を業界の遠くから聞いていたので、そのポリゴン・ピクチュアズがまたNetflixの話題の渦中に登場しているのが感慨深い。Netflixと初めて仕事をした日本企業として、お話をうかがってみた。さぞかし戦略的に動いた結果だろうと想像していたのだが、実際にはCG制作会社として七転八倒した末にたどり着いた新たな出発点だったことがわかる。だがその先には、日本の映像制作業界全体のモデルとなる道筋が見えてきそうだ。誰にも見えなかった未来の入口はどう切り開かれたのか、じっくり読んでほしい。

まず聞いてみたのは、「ポリゴン・ピクチュアズがめざすものは何か」という質問だ。何か確固たる理念がないと、世界市場を相手にするようなことはできないのではと感じていたからだ。

「ポリゴン・ピクチュアズが32年間存在してきた中で、河原敏文という男が言っていた"誰もやっていないことを圧倒的なクオリティで世界に向けて発信していく"という言葉を、ぼくが社長になってステートメントとして決めました。何をめざすかと聞かれれば、それなのだと思います。誰もやっていないこととは何か。圧倒的なクオリティとは何か。それらは時代によって変わってくるので、その時々でポリゴンはどういう立ち位置であるべきかを検証しながらやってきて、その結果いまがあるということでしょうね」

塩田氏の話からはつねに、創業者・河原氏へのリスペクトがにじみでる。誰もやっていないこと、圧倒的なクオリティ、世界に向けて発信する、それぞれがとんでもないことだが、塩田氏は河原氏が去ったあともずっとこれを大事にしてきたのだ。ポリゴンのWEBサイトにはこの言葉がステートメントとして掲げられている。強烈な理念が、創業者が去ったあとも受け継がれているからこそ、ポリゴン・ピクチュアズはパイオニアであり続けているのだろう。

「そういう理念がありつつ、あとはノリというか流れといいますか、いまは日本のコンテンツを多くやっていますがそれもパッと出てきたような話で、結果的にそうなっただけなんですよ」

ポリゴン・ピクチュアズは、2000年代にはアメリカからCGアニメーションの制作案件を受注してきた。

「確かにアメリカの案件をやってきましたが、そこも”流れ”なんです。ポリゴンは90年代半ばにイワトビペンギンで当たってイケイケになって、ソニー、ナムコとの合弁でDPS(ドリーム・ピクチュアズ・スタジオ)を作りました。ところがCG業界でさーっと潮が引いてしまい”CGなんて見たくもない”なんて言う人もいた。でも制作ラインはつくってしまったのでなんとかしなくてはいけない。2000年代になると今度はアメリカでCGの需要が出てきて、テレビでもCG作品を作るようになった。そこで向こうに営業に行って"生き残るために"制作案件をとってきたらうまくいきはじめたということなんです。」

当時の業界では、ポリゴンは次々に海外の案件が来てすごいと噂されていたのだが、”あくまで成り行きだった”という話は、面白い。

「大型のテレビシリーズ案件も取れて評判が評判を呼び、2009年以降は一気に仕事が増えました。『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』『トランスフォーマー プライム』『トロン:ライジング』と、ボーイズアクションが盛り上がりを見せた時期で高額予算がつきました。ところが、アメリカのアニメはあくまで子ども向けで、『トロン:ライジング』なんかは小さい子にはお話が難しすぎたんですね。視聴数もさほど伸びず、おもちゃも思ったほど売れない。そのうち、コメディにアメリカのテレビが振れていってCGでわざわざつくる必要ないよねとなって、ぼくらの仕事がなくなってきました。ただぼくらは『トロン:ライジング』でCGだけどアニメ調で作る手法を開発し、その斬新さが評判を呼びました。」

「その頃ちょうどGONZOから守屋秀樹という男がうちに来て、彼は日本のアニメ制作の仕組みや人脈をよくわかっている。アニメ調のCGなら日本のアニメの表現もできるんじゃないかという彼の発案ですね。動いてみたところ講談社が検討してくれ、いくつか出てきた題材のひとつが『シドニアの騎士』でした。アメリカでの依頼がしぼみつつあったタイミングで守屋が来てくれて新しい流れができたので、ちょうどよかったわけです。」

確かに成り行きだ。だがそれも「誰もやってないことを圧倒的なクオリティで」取り組んできたからだと言える。『シドニアの騎士』は見てもらうとわかるが、一見日本のセルアニメの画風なのだが、動きは明らかに3Dで新鮮な印象を受ける。アメリカ向けに開発した手法があったからこそ、日本に新たな活路が見いだせたのだ。

ではその『シドニアの騎士』がNetflixで配信されることになったのはどういう経緯だろう。(ここから先は登録読者のみ)

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