テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2016年01月号

メディアにもブランディングが必要になる〜朝日新聞・デジタルウォッチャー平和博氏に聞くメディアの最前線・その1〜

2016年01月14日 12:55 by sakaiosamu

Media Border読者諸氏の中には「新聞紙学的」というブログを目にした人も多いだろう。少なくとも、同ブログがハフィントンポストに転載された記事を読んだことはあるのではないだろうか。

ブログの著者は、平和博氏。朝日新聞の記者で、名刺には”デジタルウォッチャー”という肩書が刷られている。これについて聞くと、勝手につけていいよ、と上から言われたんでと、笑いながら教えてくれた。記事審査室という、朝日と他紙の記事を読んで社内向けのレポートを書く仕事をしていて、デジタル関係の各社と海外の取組みも社内に紹介していたのでつけた肩書だそうだ。だから朝日新聞の中ではデジタルの最新事情に詳しい人というポジションになっているようだ。

筆者もブログ「クリエイティブビジネス論」を運営し、ハフィントンポストに転載されている。新聞メディアの立場から似たようなことをやっているなと、同世代らしいことも含めて気になっていた。海外、とくにアメリカの、デジタルメディア事情のかなり新しいところをレポートしてくれる。映像メディアにとっても参考になる情報も多い。

ある催しでお会いして、名刺交換したのが約一年前。またお会いする機会があったらと思っていたら年賀の挨拶をやり取りできたので、この機にお話を聞いてみようと考えた。きっと、テレビ放送界にも有益なお話が聞けるだろう。アポをもらったらタイムリーに「新聞紙学的」にこんな記事が出た。

→新聞紙学的「動画にも”分散型メディア”の波、米ハフィントン・ポストが「ライブ」終了」

これは”分散型メディア”をキーワードに、テレビにとっても参考になる話が聞けそうだ。期待しながらお会いしたら、期待以上のインタビューになった。上の記事もそうだが、平さんの話は、新聞とジャーナリズムを軸にしながら、その奥にはテレビメディアともつながるテーマが潜んでいた。

平氏は、言葉をきちんと選びながら喋る。ひとつひとつの言葉を、考えて、噛みしめて、確かめるように口にしていくのだ。だから通常の文章の読み方より、少しゆっくり受けとめてもらったほうが実際に近いかもしれない。文章中の「、」は、実際には「・・・」くらいの感覚だと思ったほうがリアルだと思う。それは決して”スローモー”ということではなく、むしろひと言ごとに頭にしっかり入ってくる感じだ。この記事では、平氏の話をできるだけそのまま、丸ごと文章化したいと思う。非常に長くなってしまうので、2回に分けてお届けしよう。

平さんは朝日新聞で”デジタルウォッチャー”をやってらして、ブログ「新聞紙学的」もその一貫なのでしょうか?

平:いえ、あれはまったくの趣味でして。ブログはもう5年前からやってるんですが、新聞紙学的としたのは2012年頃だったと思います。 最初は会社としてのブログを持ち回りで書いてたんです。それが終了した時、せっかくだから自分でやってみようかなと始めたのが「新聞紙学的」の原形ですね。

基本的には週末の時間を使って、最大の目的は自分の勉強です。とくに海外の動きをウォッチして、その中で自分がどんなビジョンを描けるかなということで続けてきました。

2003〜05年春までシリコンバレーに駐在していまして、その頃にソーシャルメディアの第一次ブームがアメリカで始まった。その少し前からブログもはじまっていて、それがどうやらジャーナリズムを大きく変えるぞという”うねり”が出てきたんですね。シリコンバレーのジャーナリストが書いた、ブログが起こした変化を描いた本を、翻訳して出版したんですよ。

それがまさにいまブログの原点みたいな感じで。ネットがメディアやジャーナリズムをどう変えてしまったのかをその時から問題意識として持っていて、その関心の中で勉強は続けていこうというのが「新聞紙学的」の最大の目的ですね。

平さんはぼくと同世代かなと思いますけど・・・

平:そんな気がしてましたけど、私は62年生まれです。

じゃあまったく同い年ですね。この年でデジタルに強い人をやっているのも我ながら不思議だなあと思うのですが、平さんのきっかけはやはりシリコンバレー駐在ですか?

平:それもありますが・・・80年代にニューメディアブームってありましたよね。その頃から、パソコン通信で速報ニュースをチェックしたり興味ありました。ちょうど端境期ではあったんですけど、例えば入社一年目は原稿用紙に書いてたんですがだんだんワープロになり、過去記事の検索もパソコン通信のデータベースでできるようになったり、これは仕事のやり方が変わるなというのがその頃からあって。

パソコン通信を頻繁に使ってきたのでそれが90年代になってインターネットに変わる時もわりとシームレスでした。新しもの好きなんでしょうね。95年ぐらいには取材でかなりWEBは使ってましたし。ニュースグループからネタを取ってきたりとかメールで取材依頼したりとか。 fj(ニュースグループのカテゴリーのひとつ)とかから、ネタを取ってきたりしていましたね。 だからいまの動きは90年代からほぼ話題になってたようなことが、スケールがでかくなって起こっている気がします。当時見えていたことの射程かなという感覚でしょうか。

朝日新聞は会社としてデジタルに積極的に取り組んでらっしゃって、何年か前の新年の社長挨拶で「これからは紙にこだわってる記者は仕事がなくなる」と言っていてすごく驚いた記憶があります。社内の空気もネットに積極的なんでしょうか?

平:かなりそれは共有できてるんじゃないかと思います。ソーシャルメディアを読者とのつながりづくりや取材にも使っていこうと、ソーシャルメディアエディターの肩書きを持つ人間もいますし。

ソーシャルメディアエディターというのは?

平:社内体制をバックアップしていく役割です。いろんな使い方を提示していくとか、やっちゃいけないことを教育していくとか。ソーシャルメディア施策の推進と社内研修などをやってますね。

日本もさることながらアメリカのメディア、新聞なんかはもうかなり紙の落ち込みが激しくて、そうすると、今後もし伸びるとしたらもうネットしかない、紙が驚くほど伸びることはもう考えにくい。本気で取り組まないとという危機感は欧米ではかなり本格的になっています。アメリカではとくに新聞社が潰れちゃったりとかシビアな現実があるので。

日本はまだそこまで壊滅的な打撃は受けていないから、余力があるうちにそちらに移行するという判断を会社としてしているんだと思います。

新聞はこれからどうなるのでしょうか?デジタル化するのだという答えがありつつ、日本の中で言うとどれくらいのペースで進んでいくと思われますか?

平:これはなんとも難しいですねえ。まだやっぱり収入の大半が紙からのものなので、もう紙の時代じゃないとは言いづらい。もろとも落ち込むわけには行かないので、紙は紙でしっかりつくろう、と。アメリカと比べると加速度的には行かないと思うし。そして社員の意識改革が絡んでくると・・・これがいちばん時間がかかるんじゃないかと思います。

あれ?でも外からみると朝日新聞の意識改革は済んでいるように見えるのですが。他の新聞と比べるとずっと進んでいますよね?

平:まあ比較問題でネットやソーシャルに積極的でないところと比べると進んでいるかもしれないですし、twitterの公式アカウントの数などでは先行できてるとは思います。でも、マインド、頭の中身ですね。ネットネイティブなYahoo!さんやGoogleさんでメディアのことをやっている人たちと比べると、ネットへの意識やスピード感ではまだまだでしょう。腹の底からネットに没入してるかというとそこまでではない。 ゆっくりとではあるけれども、徐々にそっちに行く感じかなと。

アメリカの新聞社はすでにデジタルベースの意識になってるんでしょうか?

平:ニューヨーク・タイムズ(以下NYT)が、去年の春ごろだと思いますが一面会議をやめて、まずデジタルのことを決めてからそのあとで紙のことを議論する大転換をしました。これはインパクト大きかったですね。NYTはいよいよ動きはじめたなと。(ここから先は登録読者のみ)
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