映像新聞という業界紙に、こんな見出しの記事が載った。
「再編?動画配信市場 起きなかった有料へのシフト」
おや?とひっかかった。「再編」のほうはまだしも、有料へのシフトが「起きなかった」とはどういうことだろう?さらに細かくつっこむと、AbemaTVがまだ赤字であることを持ち出したうえで、「VOD事業の難しさ」を示しているとある。AbemaTVがVOD事業ではないのは誰でも知っていることで、こうした言葉の使い方も乱暴で、雑な記事だと感じた。
そこで本稿では、この記事への反論をしながら、動画配信市場の状況を書いておきたいと思う。ほんとうは、日本でのNetflixスタートからまる二年になる9月1日に書くつもりだったのだが、前倒ししてしまう。映像新聞には寄稿することもあるのだが、だからこそ誤った点は指摘しておきたい。
2016年の有料動画配信市場は、16%増の1630億円
まず動画配信市場の成長については2つの推測値が出ている。ひとつは、GEM Partnersの調査結果。こちらのリリースを読むと早い。
→[動画配信(VOD)市場に関する調査結果] 2016年の市場規模は前年の16.0%増 定額制動画配信市場では上位3社が48.3%のシェアを占める
GEM Partnersは映画業界を中心に映像市場について調査分析を行う会社で、代表の梅津文氏は私もよく知っている。非常に精密な調査を行いロジカルに分析する会社だ。2016年の動画配信市場は、彼らの推測によれば16%伸びて1,636億円になったという。
一方、デジタルコンテンツ協会も毎年春、動画配信市場を発表してきた。今年発表した2016年の動画配信市場は1,630億円だった。やはり16%の伸びだ。
同協会の調査は、様々な事業社にヒアリングしたり、公式発表の数値をもとにまとめたものだ。少なくとも動画配信市場の規模をきちんとした調査などをもとに発表しているのは、この2者しかない。
そして二つの推測値はほぼ同じ、1,630億円で16%成長だった。信頼に足る数字と言っていいだろう。
16%も成長している市場なのに、「起こっていない」というのはどうだろう。ここでいう動画配信市場とはもちろん個別課金やSVODの話で、YouTubeの広告収入のような無料モデルは入っていない。あくまで「お金を取る」スタイルのサービスの話だ。
それからもうひとつ、記事の中にSVODサービスへのアクセスが増えていない、という箇所があった。これも引っかかる。お金を払う人が増えているのに、アクセス数が増えていないということはあるだろうか?
この点について、フラー社にデータ提供をお願いしたところ、Amazonプライムビデオ、Hulu、Netflix、DAZNの4つのサービスについて2015年夏以降の利用者数の月別データを出してくれた。
着実に増えている動画配信のアクティブ利用数
まず、このグラフを見る際に注意するべき点がいくつかある。フラー社のデータ取得は、ユーザー許諾の上でAndroidスマートフォンにインストールされたアプリを通してのものだ。従ってデータはAndoroidに限られる。iOSのスマホは入っていない点に注意が必要だ。さらに動画配信はPCそしてテレビでも使われているがそこは入っていない。だからこのデータを持って動画配信の“すべて”が語れるわけではないことを重々理解していただきたい。そういったことの誤解を避ける意味でも、このグラフでは縦軸の目盛りの数値は省いている。「DAZNは実際は○○万人なんだ!」と誤った受け取られ方を避けるためだ。
そのうえでここから読みとれる「事実」としては、動画配信ユーザーは着々と増えている、ということだ。先述の2016年の16%成長のあと、2017年に入ってからも、着実にアクティブユーザー数は伸びている。
もちろんこのグラフをもってして「有料シフトは起こっているのだ」と声高に主張するのも早計だ。とくに地上波の視聴者が有料シフトを引き起こしているかどうかは、すべてのデバイスのデータを把握しないといけないし、仮にそれができたとしても、視聴率に影響するほどアクティブな利用になっているとは言えないだろうと私も感じている。
ただ、このグラフを見ると「有料シフトは起きなかった」というのはおかしいとわかる。起きなかったと過去形で語る段階ではないのだ。徐々に確実に伸びている中、「有料シフトはこれからはっきり顕在化する可能性が高い」というのが正しい判断ではないだろうか。過去形ではなく、動画配信市場は現在進行形で語るべき状況なのだ。
ところでこのグラフは、全体の伸びを示すこと以外に、いろいろ深堀りしたい箇所がある。そこで、別にもらった所持ユーザー数(アクティブとは別の、インストールしている数)のデータと併せて確認してみたい。
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