テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2017年08月号

お盆休みに読みたいメディア関係の本5冊

2017年08月10日 17:36 by sakaiosamu
2017年08月10日 17:36 by sakaiosamu

11日からしばらくお盆で夏休みという方も多いだろう。そこで今回はそのお休み中に読むといいMediaBorderおすすめの書籍を紹介したい。それぞれの書籍タイトルをクリックすると、Amazonの該当ページに飛ぶのですぐ購入もしてもらえる。

「テレビ番組海外展開60年史」(大場吾郎著:人文書院)

番組の海外展開はテレビ草創期から動きがあった!

 まずは佛教大学の大場吾郎教授による分厚い書籍から紹介したい。タイトル通り、日本のテレビ番組の輸出についての歴史を追ったものだ。まず意外なのは、60年代、テレビ放送が始まって間もなく、すでに番組の海外展開が意識されていたことだ。この問題が決して最近のものではないことがわかる。70年代80年代には徐々に具体化し、90年代にはかなり海外展開はなされていた。それが2000年代に入ると急速に失墜し、アジア市場は韓流に奪われた。逆に言うと、90年代の勢いが続けば状況は違ったのかもしれない。

大場氏は、そうした事実を3年以上かけて関係各社の社史を読み込んだり、当時を知る人びとに丹念に聞き取りをしてまわったという。この分野の他にはない資料として貴重な書籍となった。そしてまた、日本のコンテンツが海外に勇躍できる可能性も示してくれたと思う。決してそれを煽るような書かれ方ではないが、行間にそんな思いが読みとれるように感じた。テレビに限らず、コンテンツの海外輸出に興味ある方にはおすすめしたい。

「信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体」(平和博著:朝日新書)

フェイクニュースが発生するプロセスを克明に

続いて、朝日新聞の平和博氏による、フェイクニュースを主題にした新書を紹介したい。平氏は朝日新聞で「デジタルウォッチャー」の肩書きを持ち、海外の最新動向を常に追っている。昨年にわかに巻き起こったフェイクニュースの嵐も、当初から冷静に観察していた。本の中で、その発生プロセスとメカニズムを克明に説明している。知れば知るほど、フェイクニュースを防ぐことはほとんど無理ではないかと感じてしまう。自分のいいように物事を解釈し、何でもないはずの事件や起こってもいない事件が伝えられ、ネットで増幅されていく。

どうしようもないように思ってしまうが、平氏は読者の側としてできる対処・対策についても丁寧に解説している。日本でも問題になったし、まだまだ油断してはならない状況だ。民主主義が機能していくためにも、我々としてうまく対処していかねばならない。本書はこの点も強く訴えかけている。メディアに仕事で関わる者でなくても、情報の受け手として読んでおきたい一冊だ。

「急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。」(小霜和也著:宣伝会議)

デジタル広告にやっとクリエイティブが持ち込まれた

コピーライター・小霜和也氏による、デジタル広告におけるクリエイティブの考え方を書いた本。だが結果的に、クリエイティブのことだけでなく、デジタル領域でのメディアの使い方も含めた、広告コミュニケーションの全体像をどう作るかについて書かれている。

そもそも日本のデジタル広告は、広告に求められる多様な役割の中の「刈り取り」つまり販売促進的なことしか求められてこなかった。またこれまでマス媒体で仕事をしてきた人材が本格的にデジタルに取組んでいなかった。マス中心にやって来た人からすると、デジタルはわかりにくいものだったのだ。だがこの本を読むと、実はマス広告の考え方をデジタルでも応用できることがわかる。マス広告で当たり前のようにやって来た、認知や商品理解などはデジタルでも役割を担わせることはできるのだ。デジタルだけで、認知から理解、興味促進、そして購入まで一気通貫させることも十分可能。そのことを、具体的な事例を題材に解説している。広告関係者は、読むと具体的に役立つと思う。

「SMAPはなぜ解散したのか」(松谷創一郎著:ソフトバンク新書)

「公開処刑」で露呈した日本の芸能界の課題

松谷創一郎氏は、希有な論客だ。私よりひと回りもお若いのだが、日本のメディア業界・コンテンツ業界のビジネス構造をよくご存知だ。主にサブカルチャーを扱うが、実際には幅広い領域に知見を持ち、なぜそこまで知っているか不思議なくらいよく知っている。その松谷氏はSMAP解散にまつわる出来事を何度かYahoo!ニュースなどで記事として書いてきた。この本は、その総まとめとも言える内容で、日本のメディア業界の今後についての強い危機感が感じられる。

MediaBorder読者には、それぞれの視点でこの問題を見つめてきた方も多いだろう。だからこそ、松谷氏の視点はまた違ったものかもしれないし、だからこそ参考になるのではないかと思う。とくに、アメリカと韓国の芸能界と日本のそれを対比して書かれた部分は重要だ。日本の常識にはそれなりの歴史と理があると思うが、どこまで普遍性があるのかは考えてみるべきかもしれない。業界全体が大きく変化する中、「芸能界」もまた変わるべき点があるはずで、その意味で貴重な書だと思う。

「たけし、さんま、所の「すごい」仕事現場」(吉川圭三著:小学館新書)

名物プロデューサーが披露する天才たちの仕事ぶり

ハード目な本が続いたので、最後にもう少し読みやすく入りやすいものを紹介したい。吉川圭三氏は日本テレビで「世界まる見え!テレビ特捜部」「恋の空騒ぎ」などのヒット番組を手がけた名物プロデューサーだ。その吉川氏が、番組づくりを通じて接した三人の天才たちについて書いたのがこの本。テレビを通じてよく知っているつもりの三人の、仕事をともにしたからこそ知っている意外な側面を余すことなく書き記している。

吉川氏はこのたび日本テレビを退職され、出向していたドワンゴを本拠地とし、ドキュメンタリーの制作と配信に注力されるようだ。この本は、そのテレビマン生活の節目として上梓されたのだと思う。MediaBorderでは二年前に吉川氏にインタビューし、こんな記事にまとめた。

「テレビマンは絶望せよ〜日テレからドワンゴに来た吉川圭三がニコニコドキュメンタリーに注ぐ情熱」

この時も熱い言葉がほとばしるように出てきて、ほぼそのまま記事にしたらものすごく多くに読まれた。テレビマンとしての節目とはいえ、おそらく吉川氏の中ではずっとつながっていて、同じことを続けているだけなのだろうと思う。そんな吉川氏の思いがなにより面白い本となった。

 

以上5冊を紹介したが、いずれも面識のある方々で、私も貴重な人脈をつくれたものだなあと感じている。そのうち、MediaBorderに寄稿もお願いするかもしれないので、お楽しみに。

 

 

 

 

 

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