テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2023年12月号

新聞協会の横槍とNHK自身の体たらくで、NHKのネットニュースがなくなる〜国民の権利侵害だ!〜

2023年12月08日 13:03 by sakaiosamu
2023年12月08日 13:03 by sakaiosamu

NHK NEWS WEBがなくなる?

先週の土曜日(12月2日)、こんな記事を新潮が出していた。

記事の本筋とは別に、後半のベテラン記者のコメントが気になった。

うちはネットの記事配信にこの数年力を入れてきましたが、民業圧迫との批判を受け、近くすべて廃止になる。NHK NEWS WEBというサイトなんて月間で4億PVも取れる日本最大のウェブメディアにまで育ったのにです。せっかくこれからはデジタルだって頑張っていたのに、ふざけんなって気持ちになるでしょう。

「暇空茜」にNHKの取材メモを流出させた犯人は子会社の30代派遣「テロップ係」だった 「年間100人くらい辞める、終わっている会社なので」より

この部分に反応する人は多く、こんなTogetterがまとめられた。

NHKのニュースサイトが廃止されることに多くの人が驚いている。ジャーナリスト江川紹子氏もXでこんな投稿をしていた。

私は己のライターとしての力のなさに打ちひしがれた。この件は9月に東洋経済オンラインでとっくに書いているのに、届かなかったんだなあと反省した。

新聞業界の恐るべき政治力が国民の知る権利を侵す

NHKのニュースサイトがなくなる。そう聞くとすぐにリベラル系の方々が「政権の差金に違いない!」と権力の介入と決めつけてくる。そうではない。もう安倍政権の時代ではないのだ。いや、安倍政権時代も実はリベラル系の人が思うほどには介入できていないのだが、その話は別に書こう。
政権の差金ではないなら誰の横槍か?上の記事を読んでほしい。日本新聞協会がNHKに難癖をつけてきたからだ。

その前にはMediaBorderでこんな記事も書いている。新聞業界のおそるべき政治力と粘着力にはおののくしかない。

新聞業界の恐るべき政治力と、その無意味な使われ方

 社会の公器たる新聞がこぞって、NHKのネットニュース配信は自分たちのデジタル版の邪魔だと、国民の知る権利を侵してきたのだ。1万円くらい賭けてもいいが、NHKがネットニュースをやめても、新聞のデジタル版が伸びることは絶対にない。競合関係にはないのだ。新聞の課題は全く別のところにあり、簡単にいうとデジタルをわかろうとしていないからだ。

本当の問題は、NHKの内部の風通しの悪さ

だが、NHKのネットニュース廃止の本当の原因は新聞協会でさえない。NHKの上層部の先見性のなさと、その下の中間管理職の無責任さにある。その割を食っているのがNHKの現場で働く人々であり、その成果を享受できるはずの私たち国民なのだ。いったいそれでいいのだろうか?

様々な情報収集から見えてきた構図はこんなことだ。会長副会長理事ら上層部はネットニュースに関して具体的な指示は出してこない。だが新聞協会に総務省有識者会議で釘を刺され「放送と同等」(曖昧な言葉だが副会長が会議で言った)ではないネットニュースは廃止することになった。実際にはその実施はまだ先でいいはずだが、管理職が忖度して先んじて「放送と同等」ではないサイトの閉鎖を説明もなく指示している。現場は理不尽さに苦悩しながら廃止の準備をしている。
この内情は、はたから見ても不可解だ。新聞協会の非難を逃れるために上層部が廃止の号令をかけているならまだわかるが、そうでもないらしいのだ。もやもやと「廃止しなければいけない」という空気が漂う中、明確な方針は示されないのにただ廃止の指示は出ている。ちょっとおかしい。組織として機能不全に陥っていないか?
上層部も上層部だが、その下のレイヤーの中間管理職がはっきりしない方針を元にとにかく「廃止」に動いている。受信料を払っている国民の側からすると、法律で最終的に決まったわけでもないのに現在提供しているサービスを止めるとは何事かと言いたい。国民を見ているのか?国民より上層部への忖度や新聞協会のいちゃもんを優先させているのだ。
受信料を払っている人なら、クレームをつける権利は十分にある。我々がはっきり声を出さないと、不利益を被るだけだとぜひご理解いただきたい。

一人歩きしていた「放送と同等」の言葉

この問題を誰かに訴えられないか。自民党の情報通信戦略調査会の事務局長・大岡敏孝議員とお会いする予定があったので、NHKの機能不全を知ってもらおうと考えた。大岡議員にコンタクトして自民党で短い講演をした話は前にここでも書いた。

自民党の調査会に呼ばれてしゃべった件について

 大岡議員ならこの理不尽さを理解してくれるはず。そう思って上記のような話をすると、意外な反応が返ってきた。
「おかしいですねえ。”放送と同等”というのは確かに6月ごろまで井上副会長は言ってましたが、私たちからは”むしろネットでは放送以上の情報発信をするべきだ。そうしないとネットでの受信料を払ってはもらえない。NHKが有料ニュースの領域を開拓することで民放もそこに乗っかれるかもしれない”とお伝えしました。井上副会長は賛同してくださり、最近はもう”放送と同等”とは言ってないはずですが。」
私は大いに驚いた。事態をおかしくしているのは、まさにこの「放送と同等」という言葉だ。副会長がそこにはもうこだわってないのが本当だとすると、ニュースサイトが廃止に向かっているのは何なのだろう?
以下は私の推測だ。副会長はもうネットニュースを「放送と同等」にする必要はないと考えるようになったが、その転換を組織内で表明できずにいる。そのため何の明確な指示も出していないがその下のレイヤーの人々の中では「放送と同等」の言葉が生きていて、上層部から指示は出てきてないが先回りしてNEWS WEBや防災アプリの廃止を進めている。勘違いと風通しの悪さがとんでもないバッドスパイラルを生み出しているのかもしれない。
重ねて言うがNEWS WEBの廃止は、受信料を払っている国民にとっては知る手段の一つを失うことでしかない。組織の機能不全が国民の権利を損なってしまうようでは、公共メディアもへったくれもないだろう。
以上はあくまで私の推測だが、もともと風通しが悪い組織なのは間違いない。これを読んだ関係者の皆さんはすぐに情報収集するべきではないか。勘違いと先回りが重なりまくって、あとあと国民の信頼を大きく失うようなことになりかねない。大変な失態をいまならまだ防げるはずだ。いますぐ動くべきだ。

公共放送WGは「新聞協会 vs NHK」の場でいいのか?

この混乱の源は、総務省の有識者会議「公共放送ワーキンググループ(WG)」にある。新聞協会が横槍を入れてくるのはこの会議だ。
だが毎回傍聴していると奇妙だし辟易としてしまう。いつの間にか「新聞協会・民放連 vs NHK」の場になっている。民放連は「オブザーバー」だが新聞協会はどんな立場で毎回参加するのか不明だ。両団体がとにかく反対論を唱えてまったく建設的な議論の場ではない。しかもNHK自身は両団体と対決しない。有識者のみなさんが議論のおかしな点を突いてくる形で、「両団体 vs 有識者」になっているようにも見える。
12月5日の「公共放送WG」ではこんなことがあって笑えた。

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