筆者は毎月Facebook上で「メディア酔談」と題したライブ配信を行っている。昨年NHKを辞めて大阪日日新聞論説委員となった相澤冬樹氏は「安倍官邸vs NHK」という強烈なタイトルの本を出版したジャーナリストで、筆者とは高校の同級生だ。高校時代はともに学校新聞を作った仲で、フリーランス的にも活動する相澤氏とメディアについて飲みながら好き勝手に喋るのが「メディア酔談」。高円寺ヒマナイヌスタジオの小洒落た雰囲気での配信が気に入っている。毎回ゲストを呼ぶのだが、昨日10月1日の回ではやはり昨年NHKを辞めた相澤氏の同期、河内雅幸氏をお招きした。河内氏は制作畑でキャリアの後半は企画開発の部署にいて、「ブラタモリ」「ケータイ大喜利」「東京カワイイTV」などの人気番組を世に送り出している。
辞めたのでNHKにまったく気を遣う必要もない、と言う河内氏とともに、「NHKがヤバい!」というテーマでかなり掘り下げたことを喋ってもらった。
じっくり話を聞きたいという方は、アーカイブになっているので番組をご覧いただきたい。→10月1日メディア酔談「NHKがヤバい!」
本稿では、メディア酔談の解説的な内容も含めながら、番組を見なくてもその趣旨がわかるように書いていく。「NHKがヤバい!」とは要するに、何がどうヤバいのかを噛み砕いてお伝えする。
きっかけは毎日新聞のスクープ
メディア酔談でなぜ「NHKがヤバい!」をテーマにしたのか。もちろん先週の毎日新聞のスクープがあったからだ。
「NHK報道巡り異例「注意」 経営委、郵政抗議受け かんぽ不正、続編延期」(毎日新聞、9月26日)
よくぞすっぱ抜いてくれた!という内容だ。日本郵政のかんぽ不正セールスについてのNHKの番組に、日本郵政上層部がクレームをつけたというものだ。報道にクレームをつけること自体は責められるようなことではないが、クレームの相手がNHKの上田会長だったこと、会長の反応がよくないと今度はNHK経営委員長にクレームをつけたこと、さらに経営委員長が上田会長を厳重注意していたことは大問題だ。結果的に、経営委員会が番組内容に介入しており、放送法に反することが起こったと言える。
そもそも経営委員会とはどんな役割なのか。そして会長との関係はどうなっているのか。
NHKのホームページにはわかりやすい図がある。
経営委員会とは、一般企業の取締役会の役割を担う。NHKに必要な議決を行い会長の任免権を持つ。つまり会長を中心とする業務の執行部門の監督役だ。一般企業の取締役会も本来的には社長を任免し業務執行を監督するものなので、ほぼ同じ機能ということだ。
一般企業の取締役は多くの場合、社員が出世して任命されるので結果的に社長に従属的になりがちだが、本来は社長を監督する。NHKの経営委員はプロパーの人ではなく外部の人間が任命されるので、会長ら執行部を監督する役割がより強い。そして経営委員は衆参両院の同意を得た上で内閣総理大臣が任命する。
会長を監督し任免権も持つ経営委員会は首相が任命する。そこがNHKのガバナンスの最大のポイントだ。この点はもっと世間で認識されるべきだろう。
NHKがヤバい!そもそもヤバさの根源はそこにある。
河内氏の話では、そんな経営委員も昔は大学教授が名誉職的に任命されて実際には執行部への監督権を発揮するようなことはなかったそうだ。ところが2000年代半ばにNHKに不祥事が続いたあと2007年に富士フイルム会長だった古森重隆氏が経営委員長に就任し、執行部の経営計画を突きかえすなど監督権を強く発動した。当時の会長はプロパーのハシゲンさんこと橋本元一氏で、古森氏と対決した。この古森氏を経営委員長に据えたのが第一次安倍政権だったのだ。
つまりそれまで形だけの存在だった経営委員会を、NHKを抑制するパワーとして”使える”経験を安倍首相はしていた。その延長線上にいまの政権とNHKの関係があると言えるのだ。そしてNHKがヤバいと言うのはそれだけではない。
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