テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2020年08月号

米子のケーブル局、中海テレビはなぜギャラクシー賞大賞を受賞したか〜GALAC2018年6月号の記事より〜

2020年08月03日 11:23 by sakaiosamu
2020年08月03日 11:23 by sakaiosamu


中海テレビのギャラクシー賞大賞受賞を伝えるGALAC(2020年8月号)

8月19日に「地域とテレビの未来ウェビナー」第2弾として鳥取県米子市のケーブルテレビ局、中海テレビをフィーチャーする。同局の放送事業本部長、三浦健吾氏にその報道姿勢や電力にまで広がる事業全体についてお話しいただく。それに対し質問者の役割でNHK報道局の熊田安伸氏にも登壇いただきディスカッションしてもらう企画だ。

これについては7月末の記事でご紹介した。MediaBorder読者向けの割引プランもあるのでチェックしてほしい。

この中海テレビを私は2年前に訪問し、いたく感銘を受けた。今回のウェビナーでフィーチャーするのも、いつかこのケーブル局を多くの人に知ってもらう機会を作りたいと考えていて、たまたま今年のギャラクシー賞で報道活動部門の大賞をとったのでいいタイミングだと考えたからだ。

中海テレビがどれだけユニークで注目すべき存在か、2年前に取材してすぐGALAC6月号に私の連載枠で書いている。GALAC編集部にも許諾をもらえたので、ここでその時の記事をMediaBorderに掲載したい。読んでもらえれば、中海テレビがどれだけ注目すべき存在かが伝わると思う。ギャラクシー賞を受賞した背景もわかるはずだ。ぜひじっくり読んでいただきたい。

--------------GALAC2018年6月号「MediaExplosion」より------------

あなたの局は、市民に「必要」と思われているか

 前回、いまのテレビ報道には問題がないかと訴え、これからは「市民が話す広場」の役割をめざすべきだと思う、ということを書いた。そんなテレビ局は存在しないのだろうか。と、思っていたらある人が「ありますよ」と言う。紹介してもらい、私は4月はじめに米子に飛んだ。中海(ちゅうかい)ケーブルテレビを訪ねるためだ。

 何人かのメディア研究者の友人に中海ケーブルに行くことを話すと、一様に「ああ、あそこは本当にすごいよ!」と言う。頭の中で「すごいケーブルテレビ」のイメージがぐんぐん膨らんだのだが、到着するとこぢんまりした社屋が建っていた。うーむ、みんなが言うほどすごいのか?

 だが社長の加藤典裕氏にじっくりお話をお聞きして現場のみなさんにもヒアリングし、生放送中のスタジオにもおじゃまして、みんなの言う通り、いやそれ以上だと納得した。興奮したと言ってもいいだろう。

 中海ケーブルは米子市・境港市と周辺の5町村をエリアとし、カバーする9万7千世帯の56%にあたる約5万5千世帯がテレビサービスに加入している。正直、さほど大きな規模ではない。だが6つものコミュニティチャンネルを使って多彩な独自番組を放送する。

 制作部に6名、報道部に14名が所属する。報道部はもちろん地域のニュースを、ビデオジャーナリストのスタイルで取材する。報道部があるケーブルテレビはおそらく他にない。これが最大の特長だろう。


ウェビナーに登壇する三浦健吾氏。当時は放送事業本部副部長だった

その報道姿勢は、まさに私がイメージしたあるべき姿だった。基本的には事件事故・災害を取材するのだが、その中で疑問に感じたこと、地域の課題として見えてきた事柄は、その問題点を明らかにすべく何回も取材し放送する。地上波もやってることだと思うだろうが、アプローチの姿勢がまったく違う。

 「地域のためにやっている」と自らの姿勢を、上田和泉記者は語る。それは社員全員が持つ理念だと言う。取材で見えてきた地域の課題についても、人びとが「どうなりたいか」を探っていく。ニュースを通じて問題提起をし、訴えることで人びとの行動を変えることを意識している。決して悪者を探して暴くような姿勢ではない。行政のここに不備がある!と欠陥をほじくり出すようなことはしない。行政をただ批判することからは何も生まれないからだそうだ。解決に至ることを目標にはっきり置いている。言ってみれば「ファシリテーター」の態度なのだと私は受けとめた。

 例えば、ある道路のある範囲だけ交通事故が多く、数年間で死者が10人以上出ていた。調べると、その道路は数年前に片側1車線だったのを2車線に拡幅していた。ところが街灯や信号はあまり増えていない。そのほうが住民のためには良いとの判断だったが、お年寄りの多い住民は交通量の変化についていけてなかったのだ。現場に通い、何度も報じて特集や特番も組むことで、徐々に行政も住民も動いた。その結果、街灯と横断歩道、信号機が新たに設置された。事故はもちろん、大きく減ったという。

 社会問題を発見し、究明するべく何度も報じる。「解決するまで報じる。住民を動かす」という姿勢を上田記者は胸を張って語ってくれた。そこまで働きかけるのは報道の姿勢としてどうなのか、という議論はあるだろう。だが前回挙げた“ソリューション・ジャーナリズム”のひとつの例ではないかと私は受けとめた。そこには、地域の人びとと共に生きる放送メディアが具現化されている。


創業者の一人、高橋孝之氏。豪快に笑うエネルギッシュな方だった。

 翌日、この放送局を立ち上げた中心人物であり、理念を掲げ番組制作を長らく率いてきた中海テレビの副会長、高橋孝之氏にもお会いした。70才を越えるお年だが、年齢をものともしないエネルギーあふれる話しぶりに圧倒された。

 制作スタッフが守る理念は高橋氏が見出したものだが、局を立ち上げた1980年代にこのような考え方をなぜ持ち得たのかは不思議でならない。ただ、中海ケーブルテレビは170者(個人・企業・自治体)の地元の有志の均等出資で創業した株式会社だ。最初から“市民テレビ“としてスタートしたことは、ひとつのポイントだろう。

 また高橋氏は類いまれなアイデアマンで「理念を立てて仕組みを作る」のが信条だと言う。ベンチャー精神あふれるパワフルな事業家なら日本中に大勢いるだろうが、「理念と仕組み」の大切さを身体でわかっているのが高橋氏の希少性かもしれない。報道の姿勢も、地域放送局に何が必要か、理念を追究した結果なのだろう。

 お話を聞いている側から、次々に今後やりたいことのビジョンを語る。まだまだやりたいことがどんどん湧いてくる様子だ。

 中海ケーブルテレビのニュースは、翌日まで何度もリピートすることもあり、エリアの人びとによく見られているという。東京の事故より、県庁所在地・鳥取市の事件より、身近な小学校の入学式の方がずっとニュースだ。それが見られるのは中海ケーブルだけなのだ。だからこの地域の人びとにとって中海ケーブルは必要なテレビ局だ。そこには、メディア運営の重要なヒントがある。

 似ていると思い出したのが、鹿児島の南日本放送だ。やはり地域密着、人びとのための放送をめざし自社制作番組に力を注いでいる。「ふるさとたっぷりMBC」をスローガンに掲げ、地域の人びとと喜怒哀楽をともにする姿勢を打ち出している。鹿児島県民に必要とされるテレビ局だ。共通する理念があると思った。

 どう生き残るか。そんな議論をはじめているローカル局は多いだろう。環境が変わったとしても、地域で愛されること、必要とされることが生き残りの条件だとあらためて認識した。

市民と一緒に暮らすテレビは、必ず残る

---------------------(ここまで)----------------------

読めば伝わる、と思ったがまだまだ伝え切れてない気もする。ただ、ローカル局がいま命題として意識する「地域との結びつきを深める」ことを、開局当初から理念として持っていることはおわかりいただけたと思う。ここから先はぜひウェビナーに参加して確かめてもらいたい。申し込みはこちらから↓


Peatix申し込みサイト

MediaBorder有料登録者には割引プランを用意してあるので、希望者は境治宛てにメールを。sakai@oszero.jp

 

 

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