テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2015年11月号

テレビは危機だが、日テレは絶好調〜在京キー局の決算から見える「新しい傾向」〜

2016年01月05日 01:34 by sakaiosamu

先週、フジテレビが赤字になったと一部で話題になっていた。おや?早めに情報が出たのかなと思っていたら、11月6日に在京キー局の決算発表があったようだ。いつも半期決算は11月15日前後だったと思ったが、今年から早まったのだろうか。

今年になって、とくに4月以降、テレビ局の数字が黄色信号だとちらほら聞こえてきた。今年度第一四半期の数字が出た時点でグラフにしたりしていたのだが、3か月分だけだと”傾向”とは言いづらいと思い、半期の数字を待っていた。もう出ているのならとあらためて数字をグラフにしてみた。

筆者が確認したかったのはまず視聴率。我々には見ることのできない数字だが、キー局の決算資料に出ているので、何よりそれを見たかった。

それと業績だが、いま各局はホールディングス制になったので決算短信に出てくる数字はグループ内のいろんな数字が入ってくる。局によってグループの組成が全然ちがうので、比べにくい。そこで決算資料に出てくる放送事業の数字をグラフにしてみている。各局の”放送収入”として出てくる数字で、映画だのイベントだのは除いた、純粋な放送事業の数字だ。これを視聴率と照らし合わせることで、テレビ局の”現状”が見えてくるというものだ。

さっそく、下のグラフを見てもらおう。これはHUTのゴールデンとプライムの数字を2010年度から最新の2015年度までグラフにしたものだ。各年度の半期決算資料から拾っているので、同じ時期の数字の比較になっている。

ひと目でギョッとしてしまうだろう。ただし、このグラフはギョッとさせるために目盛りを設定している。単位は%で、いちばん低い目盛りはゼロではなく59%だ。プライムで言うと2013年度の62.0%が今年は59.5%に下がっているが、たった2.5%ではある。

とは言え、東日本大震災で落ち込んでその後持ち直したのが、この2年間だだ下がりなのがよくわかる。しかも去年ガクンと下がった上に今年はさらにガガガと加速するように下降している。

これはどうやら今年の4月以降続いている傾向らしい。その理由について、確たることはまだ誰も言えないだろう。筆者はこの解釈について持論があるが、それも確固たるデータがあってのことではなく、自分の実感を背景にしたものだが。

さて今度は各局別の視聴率をグラフにしてみよう。これがまた驚くべきものになっている。(ここから先は登録読者のみ)

このグラフはかなりショッキングだと思う。各局のプライムの数字だけをグラフにしたものだ。フジテレビの視聴率が落ちていることは、わかってはいることだが、こうしてグラフにして見るとここまではっきりしたものだとはと驚いてしまう。2010年度に12.5%だったのが、2015年度は9.0%だ。5年間で3.5%のダウンは歴史的と言っていい変化だろう。

次に驚くのが、日テレだ。頭一つ抜けて高いところで安定してきている。一時期勢いがあったテレ朝ともすでに大きく差がついている。そしてTBSが奮闘してフジを抜いてしまった。最近独自性を放っていたと思われていたNHKが意外に漸減でフジと並んで9%だ。逆に言うとフジテレビはNHKと同じ視聴率になったのだ。隔世の感がある。

これと先ほどのグラフを合わせると、なんだHUTの落ちはフジテレビだけの話ではないかと言いたくなる。だが、そこにこそ最大の問題があると筆者は思う。フジテレビのダウンを、他の局がすくえてない、ともとれるからだ。大げさに言うと、フジテレビ離れがそのままテレビ離れにつながっている。

さて、ここまでは視聴率のグラフだ。次に放送収入のグラフも見てもらおう。先に述べたとおり、ここでは企業グループの収益ではなく、また局全体の数字でもなく、決算資料の中で「放送収入」などと表記されている数字だ。タイムとスポットに分けられるがここではその合計額を見ていく。

キー局5局の、各年度の半期での放送収入にあたる数字を合計し、それをさっきのゴールデン・プライムの視聴率のグラフと重ね合わせてみた。

青と緑の線は、さっきのグラフそのまま。そこに紫の線で、放送収入の合計値(単位:百万円)のグラフが重なっている。

これを見ると、一見相関性がなく、重ねる意味がわからないかもしれない。2013年度は視聴率が上がったのに収入は下がり、翌年度は逆に視聴率が下がったのに収入は上がっている。

そして最新の2015年度は視聴率も収入も下がっている。

相関性がなさそうだし、ここから一概には何も言えない。だがここで強調したいのは、今年度は「視聴率も収入も共に下がっている」という点だ。そこに筆者は「新しい傾向」が出ていると思うのだ。放送収入は結局、景気にもっとも左右されるので、視聴率とは相関性がなかった。だが今年は両方下がった。そこには重要な意味があると筆者は考えている。

もうひとつグラフを見てもらいたい。今度は放送収入を局別にグラフにしたものだ。テレビ局に所属する読者も多いので少々えぐいグラフに映るかもしれない。それから失礼なことに、テレビ東京のデータは省いている。4局の微妙な差を見てもらうために、水準が違うテレビ東京はグラフから抜いてしまった。申し訳ないが、冷静にグラフを見てもらえればと思う。

フジテレビが下り坂なのは視聴率と連動している。見て欲しいのはそこではなく、他の3局だ。日テレは上がっている。この数年間でぐいぐい上昇している。しかも去年から今年はまた上がっている。視聴率は横ばいなのに、放送収入は上がっているのだ。それから黄色のTBSと緑のテレビ朝日、この2局はわずかだが下がっている。視聴率の方はテレビ朝日は横ばい、TBSなんか上がっていたのに、両局とも放送収入が下がってしまった。

「新しい傾向」がやはり生じているのだ。これまでテレビ局の放送収入は、長期的には視聴率の推移に影響を受けこの10年間は漸減傾向だったり、短期的には景気に大きく左右されてきた。そしてそれは、大きくはすべての局に同様の傾向をもたらしてきた。ところが、今年起こっているのは、簡単に言うと日テレ以外収入ダウンだ。「勝ち負け」めいたことになっている。

これがなぜなのか、明確に説明はしにくい。だが筆者が感じているところでは、広告主が考えはじめている。テレビCM出稿について、いままでよりずっと、思慮深くなっていると思う。

決してテレビCMの効果を疑っているのではない。むしろ、認知を図りリーチをとるには最適だと考えている。だが、いままでのように野放図には出稿しなくなっているのだ。どういう時にはテレビCMがよくて、どういう時にはむしろネットを使うべきか、よく考えるようになっている。テレビCMを出稿する際も、データをよくよく見て、最適の手法を見いだそうとしている。

例えばいま、ゲームのCMが大量に流れているが、よくよく見ると、去年と今年では企業が入れ替わっている。去年までは国内のゲーム事業者が死ぬほどCM出稿をしていたが、今年彼らはテレビCMを控え、代わりに海外のゲーム事業者がCM展開をしている。

ある企業は30代がメインターゲットで、これまではスポットを展開してきたがタイムのみに切り替えた。担当者が筆者に言うには「スポットだと費用がF3に回されることになるから」だそうだ。スポットはGRPを基準に買うことになるが、GRPとは世帯視聴率で、世帯視聴率はF3に大きく左右される、そのことを言っているのだ。

枠を選び、局を選ぶようになってきた。それが各局の放送収入の違いになっているのではないだろうか。

この「新しい傾向」については、今年もっと追ってみたいと思う。2015年は、いろんな意味でテレビのターニングポイントになりそうだ。


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