テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2015年11月号

民放大会シンポジウム再録・その2「地域の人々はテレビを頼りにしている、世代交代が求められてる」

2016年01月05日 01:37 by sakaiosamu
2016年01月05日 01:37 by sakaiosamu

民放大会のテレビシンポジウム、続きを書き進めよう・・・と、その前に、午後に開催された民放大会の本体部分、式典について少し触れたい。

と言っても、民放連のWEBサイトに大まかにまとめてあるのでそちらを見てもらうのがいいだろう。

→民放連WEBサイト「第63回民間放送全国大会(大阪)を開催」

民間放送連盟大会、ではなく、民間放送全国大会、というのが正式名称。だから略して「民放大会」と呼ばれるのだ。

式典はまず挨拶が続く。最初に民放連の井上弘会長がスピーチするのだがこれがけっこう濃い内容で、かなり大事なメッセージが詰まっていた。これもWEBサイトできちんと全文掲載されているので読んでもらうといい。

→民放連WEBサイト「第63回民間放送全国大会(大阪)/井上会長あいさつ」

いまのテレビ局が直面する課題や悩みを、変にオブラートに包まずにはっきり言葉にしている。その場には来賓としてNHK籾井会長もいたのだが、ネットでの同時再送信について「丁寧に議論されることを期待」すると明確に述べた。年に一度の大会だから穏便に柔らかく語ろうなどという甘い雰囲気はなく、いまの民放の課題に真摯に率直に臨もうという強い意志を感じた。

その後、安倍首相のビデオによるあいさつに続いて、高市早苗総務大臣のあいさつを副大臣が代理で述べ、 NHK籾井会長のあいさつで「式典」部分の前半は終了。今大会の委員長である望月大会委員長(讀賣テレビ社長)が大会宣言を読み上げた。

ド派手な舞台と演出には、ほんとうに度肝を抜かれた

その後は、表彰式が続いた。これがまた驚きだった。年末のレコード大賞かとおぼしきセットと演出で、日本民間放送連盟賞がラジオとテレビの各部門ごとに華々しく発表され、受賞者が表彰される。それがもう、次から次へと発表され、そのたんびに派手な音楽が流れるので、血圧の高い時間が連続していく。息つく間もない感じで、民放大会の重要性が徐々にわかってきた。

続いて日本放送文化大賞の発表に続く。正直言って、さっきまでの賞と何が違うのかわからない。だが明らかに違うのは、さっきまでは最優秀賞はあらかじめ決まっていたのに対し、文化大賞は優秀賞までは決まっていて壇上に数名並ぶのだけど、グランプリと準グランプリはその場で発表される。候補作のスタッフとしては壇上に上がってドキドキだろう。

グランプリの作品名が読み上げられると、受賞者はものすごく驚いている。マイクを向けられ、感極まってうまくしゃべれない。その様子が、見ているこちらも感極まってきて涙がにじんでしまう。

ローカル局で日々、いい番組を作ろうと頑張っていたら候補に上がり、それだけで光栄に思っていたら自分がグランプリだと盛大に発表される。こんなに嬉しいことはないだろう。放送マンでよかった。地道に頑張ってきてよかった。そんな気持ちだろう。

そういう励みを、日本中の放送人に与えられるのなら、民放大会の意義は十分に重みがある。

そしてどうせなら、グランプリの番組を誰でも見聞きできればと思う。radikoがあり、TVerもはじまったのだから、これが今年の民放のグランプリなんですと、日本中の視聴者・聴取者にオープンにしてあげればいいと思うのだが、どうだろうか。

さて話を前回の記事に続いて、午前中のシンポジウムに戻そう。『水曜どうでしょう』藤村氏とライオン中村氏の話まで終わった。その続きだ。

進行役を務めた筆者。こう見えて、いささか緊張している。

中村氏の発表に続いて、私から「注目すべきローカル番組」を4つ挙げていった。ビデオリサーチ社が発行する「Synapse」という雑誌があり、その中でローカル番組に取材する連載企画がある。同社に協力を得て、その連載に出てきた中からとくに視聴率の高いものを4つとりあげたのだ。

青森放送「RABニュースレーダー」、岩手めんこいテレビ「山・海・漬(さんかいづけ)」、南海放送「もぎたてテレビ」、南日本放送「てゲてゲ」。この4つはいずれも平均視聴率が10%を軽く超え、「ニュースレーダー」に至っては平均で21%台だという。そしてどの番組も、地域の情報にしっかり根ざして制作されている。

とはいえ、筆者が資料を読み上げるだけではどうも、どんな番組なのか、なぜそんなに視聴率が高いのか見えてこない。会場には各放送局の方々が来ているわけで、直接聞いてみようと、元アナウンサーのキャリアを発揮してもらい、脇浜氏に会場インタビューをしてもらった。

どんなインタビューだったかをここで再録するのはやめておくが、とにかくよくわかったのは、地域にいかに密着するか。例えば「RABニュースレーダー」では天気予報に7分30秒かける。青森県は農業や漁業に携わる人が多いので、事細かに天気を知りたい。そこで40市町村の天気をすべて伝えるのだそうだ。地域のニーズに応える、わかりやすい姿だと思う。

印象に残ったのは、南日本放送「てゲてゲ」はラジオ番組にルーツがあることだ。ラジオ感覚のテレビ番組。これは、ソーシャルメディアが出てきて、テレビ番組のソーシャルなあり方としてよく言われたことでもある。実際、Twitterの活用も「てゲてゲ」ではよくやっているそうだ。ローカル局の番組が地域に根ざそうとすると自然にラジオ的になりソーシャル感覚になる、ということかもしれない。

続いてのコーナーでは、インタビューで活躍してくれた讀売テレビ脇浜氏がスライドで発表した。 「地域情報源として期待される民放」のタイトルで、彼女が研究目的で行った調査からダイジェスト的に披露してくれたもので、結果はほんとうにタイトル通り。関東・中京・関西広域圏のいくつかの都市に、金沢・広島・福岡の3都市を加えた都市圏の住民が自分の地域の情報をどのメディアから知っているか、知りたいと思っているかを聞いている。例えば「よく利用する地域情報の情報源」を聞いた結果、1位が地上波民放テレビで2位が新聞、3位が自治体の広報誌だった。NHKが上位にきそうで実は4位だったという。

さらに絞り込んで、映像メディアの中で地域情報をどのメディアを利用して得ているかを分野ごとにも聞いたところ、このグラフのような結果になった。

※画像クリックで拡大表示

・総務省情報通信政策研究所の助成を受けて「地域メディアの利用満足度と地域ネットワークの利用に関するウェブ・アンケート調査」2012年3月実施。
・関東広域圏から東京・世田谷区(5)/茨城・水戸市/埼玉・さいたま市/神奈川・横浜市の4都市、中京広域圏から愛知・名古屋市/岐阜・岐阜市/三重・津市の3都市、関西広域圏から大阪・大阪市/兵庫・神戸市/奈良・奈良市の3都市、県域圏から石川・金沢市/広島・広島市/福岡・福岡市の3都市、あわせて13地域を選んだ。
・サンプル数は世帯分布をある程度反映する形で割り付け、1,504の有効回答があった。

「生活・娯楽・文化情報」であれ、「交通・安全情報」であれ「気象・災害情報」も「政治・行政・教育情報」も、民放ネットがいちばん高い。つまり日常的な情報も娯楽的な情報も、緊急時の情報でも、身近な情報は民放テレビを頼りにしているのだということがよくわかる。もちろん、NHK一局で他の民放全部と張り合っているとも言えるので、NHKはやはり強いということだろう。だがとにかく民放は頼られている。地域情報について当てにしてくれていることがよくわかる結果だ。

キー局から来る電波を受け取って番組をそのまま垂れ流すだけではいけない。そのことがこのデータから伝わってくる。頼りにしてくれているのだから、それに応えるべきなのだ。今後はますます、そんな決意が求められるようになると思う。

※なお、この調査の詳細は菅谷実著『地域メディア力』第4章と、脇浜紀子著『「ローカルテレビ」の再構築』第4章に記述があるので興味あればあたってみてほしい。

クライマックスで、ここまでツッコミ役として盛り上げてくれた影山氏に「世代交代の必要性」のテーマで語ってもらった。テレビの現場では、より若い世代の力を活かすべきではないか。でもいまの若者は自分を前に出すのが得意ではない。「おれを乗り越えてこい」という気持ちで接すると引っ込んでしまい本領が発揮できなくなる。上の人間がとやかく言わず、ただ場を与えてあげることが必要ではないか。

そんな話を「マイインターン」という映画を題材にしながら話してくれた。この映画は、ネットベンチャーを起ち上げた若きCEOアン・ハサウェイのもとに、高齢者をインターンに迎えるプログラムによってロバート・デ・ニーロが送り込まれるという設定。公私で悩むアン・ハサウェイをデ・ニーロがあれこれ口出しせず、ただ大事なところで絶妙な支えとなる言葉を言う素敵な物語だ。筆者も最近見て、こんな年寄りになりたいものだと感じたところだ。

影山氏の世代交代の話は、場が場だけにそうした柔らかいトーンで語られたが、もっと深いメッセージも含まれていた。いまの若者が押し付けに弱いから、ということとは別に、いまのテレビ界にはいろんな意味で世代交代が必要だという影山氏の深く複雑な思いが込められていた。そのことはまた別の場で述べたいと思う。

影山氏の話を受けて、私からは世代交代は「視聴者とのきずな」の意味でも必要ではないかと話をした。若者のテレビ離れというが、若者ときずなをつくるのは若いテレビマンのはずだ。若者にテレビを面白がってもらうには、テレビの作り手も若い世代を取り込まなければいけないのではないか、とこのところ感じていることを述べた。

こんな風にそれぞれのパネリストに話をしてもらったら105分の持ち時間はあっという間だった。だが四人とも私が提示した「きずな」の意味を真芯から受けとめてくれて、まっすぐ打ち返してくれた。それが縒り合わさることで、広がりと深みのあるメッセージとなって、その場に集った全国の民放の皆さんに何かが届いていたはずだと勝手に考えている。

それから、このメンバーでのこのセッションは民放大会のクローズドな場だけではもったいないなあとも思った。もしどなたか、再演してくれとお望みの方がいれば、私が喜び勇んでコーディネートするがどうだろうか。きっとパネリストの4人の皆さんも、身を乗り出してくれると思う。

そんな方がいたらご連絡を。ただし、このメンバーを揃えるには交通費がけっこうかかってしまうのだが。



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