テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2015年11月号

民放大会シンポジウム再録・その1「水曜どうでしょうとライオン熊本女子駅伝の意外な関係」

2016年01月05日 01:36 by sakaiosamu

シンポジウム終了後に、パネリスト揃いぶみ。左端が筆者、そして影山貴彦氏(同志社女子大教授)、中村大亮氏(ライオン宣伝部)、脇浜紀子氏(讀賣テレビ)、藤村忠寿氏(北海道テレビ)

民放大会のテレビシンポジウムでコーディネーターを、というご相談をいただいたのは今年の4月だった。シンポジウムを担当するMBS毎日放送の方が筆者の記事を読んで、ぜひこの人に!と思われたそうだ。ちなみにその記事とは放送業界の雑誌「GALAC」に書いたもので、ブログにもそのまま掲載させてもらっている。

→大阪というカウンターカルチャー〜GALAC5月号「テレビのイノベーションは大阪から始まる」より

この記事はかなり思い入れを込めて書いたので、それに目を留めて指名してくださったとはなんと光栄なことか。一も二もなくお引き受けした。

パネリストは一人だけお声がけしていて、それは同志社女子大の影山貴彦教授だという。影山氏はMBS毎日放送のプロデューサーから学問の世界に転じられた方。これも筆者にとって嬉しい話だった。影山氏は3月にNHK文研のシンポジウムを聴講し、名刺交換していた。何かでご一緒する機会があればと思っていたので、神様が仕組んだようないい流れだ。

→テレビの中心が東京とは限らない時代になってきた〜NHK文研フォーラム「テレビ視聴の東西差を探る」より〜

民放大会は基本、東京で開催されるのだが10年に一度、大阪で開催される。(ちなみに大阪開催から5年置いて名古屋でも開催されるそうだ)その10年に一度に当たるので関西キー局で各催しの担当を分担し、MBSはテレビシンポジウムを担当することになったという。

そんな流れだと、シンポジウムのテーマもローカル局の番組づくりをテーマにしたくなる。そこに新しさを見出せないか。そこにローカル局の今後を見通せないか。という思いで他のパネリストもとんとんと自然に決まっていった。

讀賣テレビでアナウンサーとして活躍しながら、研究者としての顔も持ち今年1月に『「ローカルテレビ」の再構築』(日本評論社)を出版した脇浜紀子氏。ライオン宣伝部でクロスメディアな仕掛けの実績がありローカル局ともユニークな広告展開の事例を持つ中村大亮氏。そして北海道テレビ『水曜どうでしょう』を、ディレクターとして全国区の人気番組に育てた藤村忠寿氏。ある意味、筆者のネットワークを駆使してお願いした、素晴らしいパネリスト陣に揃ってもらった。

この5人で繰り広げたディスカッションの中身を、簡単ながらこの記事でお伝えしたい。初めて参加した民放大会の式典も含めて、いい経験になった。”放送業界”の気風を垣間見た1日だった。(ここから先は登録読者のみ)

このシンポジウムのタイトルは「ローカルコンテンツとテレビのこれから」とした。今後テレビは難しい時代になりそうだが、そんな中で果敢に自社制作に取り組むべきではないか。そんな思いを込めたタイトルだ。

実際、あるローカル局に勤める友人は筆者に言う。「ローカル局はキー局から来る番組をそのまんま流してた方が楽なんだ。自社制作で番組作ったら経費がかかってその分だけ損をする」そう自嘲的に言いながら、彼の局は積極的に番組を自社制作している。「馬鹿でしょ?でもうちはね、そういう局なのよ」と蔑むように言いながら、心のうちの誇らしさも伝わってくる。

これまでは「損をする」ものだったかもしれない。だがこれからは「得をする」ことにならないか?いやぜひそうなってほしい。そうなるはずだ。そんな思いでこのタイトルにした。

それからもうひとつ、掲げたキーワードがこれだ。

"きずな"と言うと、ただ情緒的でぼんやりした概念として受け取られてしまうかもしれない。だがマーケティング界で "engagement" という言葉が重要視されるように、とくにローカル局の番組にとって視聴者との"きずな”を結べているかどうかが、今後は収益を左右するのではという問題提議のつもりだ。

シンポジウムではまず筆者からVOD市場の活性ぶりを概説。テレビはもはや放送だけでなくスマホやテレビ受像機での配信も自分たちの領域ととらえるべきと話をした。これは日頃Media Borderで扱っている内容なのでここでは飛ばそう。

そしてまず、藤村氏に『水曜どうでしょう』について話をしてもらった。この番組では視聴率を気にしない、という話。藤村氏は最初はスポット担当だったので視聴率の大事さを痛感していた。制作に移り『水どう』をはじめると視聴率は上がっていき、23時台なのに18%をとるヒット番組になった。そこで思い切ってゴールデン、19時に放送すればもっと上がるはずだとやってみたら、意に反して12%しか取れない。この時から、視聴率とは別のところに答えを求めるようになった。

一方番組には当初からハガキが大量に届いた。「視聴者はテレビに何か言いたい」と受け止めた彼はハガキにていねいに目を通した。ネットの時代になり、掲示板を開設したらファンが盛んに書き込んでくる。藤村氏はそのひとつひとつにコメントを返したという。中には番組と関係なく人生相談のような書き込みもあったが、それにもコメントを返す。「そういうのが好きだったんでしょうね、自分は」そんなファンとの密接な関係がやがて番組をDVDにした際の大きなセールスにつながっていった。『水どう』のDVDは去年までで400万枚売れて金額は160億円に達している。

今年は「行商に出た」と言う。それは、「水曜どうでしょうキャラバン」のことで、スタッフと一緒にトラックで東北の各所に乗り込んだ。行く先々で数百名から千人を超えるファンが集まってくれて、一緒に盛り上がった。「行商」というのは、「水曜どうでしょう」グッズを売るのが目的のひとつだからだ。

番組だけでなく、ネットやキャラバンを通してファンとの間に”きずな”を堅く結び、それがDVDやグッズのセールスにつながる。こんな言い方は生々しいかもしれないが、”きずな”はお金になるのだと言えるだろう。

続いてライオンの中村氏にあらかじめ作成してもらったスライドで2つの事例を発表してもらった。まずRKK熊本放送の女子駅伝。ラテ兼営局であるRKKが40年以上取り組んできた催しで、ライオンも長年冠スポンサーとしてバックアップしてきた。この番組でソーシャルメディアを絡めた取り組みをやりたいと相談し、RKKも局をあげて取り組んでくれている。大会告知が始まってから当日までFacebookページを運営し、さらにYouTubeやUstreamも駆使して当日まで盛り上げていった。全国ネットの番組ではなかなかできない地域に密着したコミュニケーションになり、ライオンとしても熊本での親密さが増した。大会当日、中村氏がタクシーで「駅伝の会場まで」と告げると運転手が「ライオンの駅伝ね」と言ってくれて大いに感動したという。

もうひとつは、テレビ新広島との取り組み。同局の月〜金午前の人気番組「ひろしま満点ママ」とタイアップし、出演者とスタッフでドラマを制作した。放送ではなく番組のFacebookページ上で視聴する仕組み。ふだん見ている番組の出演者が演じる温かいドラマを広島のファンにネットだけで視聴してもらい、かえってプレミアム感を醸成できた。ドラマに続いて、ライオンの研究者”マイスター”たちがドラマに出てきた歯磨きや洗濯などに絡めて、暮らしのコツを伝授する構造だ。

この2つの事例について中村氏がまとめとして見せたスライドがこれ。

「視聴質の深化」つまり、視聴者との関係を密接にすること。そして「点から線へ」番組放送時以外にも視聴者との接点を持つこと。これらが大切だという話は、考えてみると藤村氏が『水曜どうでしょう』で積み重ねた努力とどこか似ていないだろうか。掲示板で視聴者とやりとりしたり、キャラバンと称してファンたちに実際に会いに行ったりすることは、熊本や広島でライオン社が試みたことと非常に近い。

藤村氏はこれを受けて、視聴者との”きずな”とは、”ふところ”でもある、と言った。冗談めかしているが、まさに視聴者との”きずな”を深めることが販売につながったり、スポンサーにとってブランディングになったりする、ということだ。視聴者との”きずな”はテレビ放送にとって新たな収入にもつながるのだと言えるだろう。

さてここまで長くなってしまったので、続きは次回にお送りしよう。楽しみにお待ちいただきたい。


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