テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2023年11月号

「楽しくなければテレビじゃない」を見直す時が来ている〜テレビ局自己検証番組を見て〜

2023年11月30日 09:55 by sakaiosamu
2023年11月30日 09:55 by sakaiosamu

ジャニーズ事務所問題、”会社として”の検証番組

10月に、テレビ局のジャニーズ事務所問題の自己検証番組を取り上げた。

テレビ局はジャニーズ性加害問題に、会社として姿勢を示さねば危機に陥る(10月10日MediaBorder)

その後、テレビ朝日が11月12日(日)午前10時から1時間、TBSが25日(日)午前5時25分から35分間、”会社として”の自己検証番組を放送した。TBSは上の記事で書いたように10月に「報道特集」として、つまり報道番組としての自己検証を放送している。
まず感想を書いておくと、両者とも似たようなもので、及第点ではあるのだろうけれども特筆すべき点はほとんどなかった。会社としてやっておかなきゃいけないこととして、それはそれは真剣に検証したのはよくわかったが、今後への明確な指針が伝わるものでもなかった。テレビ局は変わるぞ!とはさほど思えない。
ひとつ言うとしたら、ジャニーズ事務所には本当に忖度してたのだなあとあらためて感じたことだ。TBSの検証の中で「草なぎくん泥酔裸事件」の時の話が出てきた。知らなかったが、草なぎくんを乗せた車は警察を出た後、赤坂のTBS社屋内にやってきたそうだ。報道記者が取材しようとするのを編成の人物が止めたというのだ。不満ながら記者は突撃を諦めた。
ここには、報道より編成が強く、編成はそこまでしてジャニーズ事務所との関係を守ったことが明らかになっている。
その前には稲垣吾郎が交通事故を起こした事件があり、各社が「稲垣メンバー」と報じた。なんだそれ、という表現が平気でニュースの中で罷り通ったのだ。この件は、なぜそう報じたのかはっきりしなかった。
とにかく、テレビ局がどれだけジャニーズ事務所に忖度してきたかがよくわかった。両社の番組とも、今後こうしたことが起きない方向性や提言は示されたが、具体的にどうするかは課題として残った。

楽しくなければテレビじゃないからタレントが大事

さて、具体的にどうするのだろう?テレビ局は力のあるタレント事務所にどう対峙していくのか。首相が怪しいことをしたら追及するが、ジャニーズ事務所ははっきり編成が守っていた。これからは違うの?どうするの?
報道としての矜持よりジャニーズ事務所を優先するのは当たり前だ。そっちの方がお金になるのだから。報道なんて全番組の中では小さい。
これまではそうだった。だからある意味、テレビ局にはそもそも報道機関として欠陥があったのだ。政治権力には猛烈に批判しても、芸能権力にはてんで弱かった。屈していた。おかしなことが通っていた。
問題は、これからだ。これからも芸能権力と報道の自由とを天秤にかけたら、後者は前者に譲るのだろうか。
これを考える上で、私が俎上に乗せたいのが「楽しくなければテレビじゃない」というスローガンだ。これは80年代にフジテレビで生まれたもので、この局の当時の強さ、その後の圧倒的パワーを象徴している。
70年代までのテレビはもう少しマジメだった。テレビを見てると白痴になるとか、まっとうな表現の場ではない電気紙芝居だとか言われていたのを必死でちゃんとしたものにしようとしてきた。そんな頑張りをひっぱったのがTBSだった。「私は貝になりたい」でテレビドラマを映画に引けを取らない存在に押し上げたり、「ザ・ベストテン」で音楽番組をギリギリに挑むライブ表現に持っていった。
そんなTBSの努力をまたひっくり返したのがフジテレビだった。「楽しけりゃいいじゃん、楽しくなくてどうするんだよ」視聴者の側もそんな開き直った姿勢を評価し、テレビはバラエティを中心に回るようになった。「楽しさ」こそがテレビのエッセンスであり、アイデンティティとなった。ジャニーズ事務所のタレントたちが音楽番組からバラエティやライトな情報番組にどんどん進出していったことと呼応していたように思う。
だからジャニーズ事務所は「楽しくなければテレビじゃない」の精神を支える最も重要なタレントたちになっていったのだ。

楽しくなければのビジネスモデルは崩壊しかけている

だが、これからも楽しくなければテレビじゃないのだろうか。もしそうなら、相変わらず編成に報道が屈する構造のままになるだろう。
だが現実を見てもらいたい。ゴールデンタイムの視聴率は30%にまで下がり、おそらく近いうちにそれさえ切るだろう。それに伴い、屋台骨の放送収入はずるずる下がっている。
夜のリラックスタイムに7割の人はもう楽しいテレビを見なくなった。別の楽しさを求めたり、楽しさを求めなくなった。少なくとも、今のテレビの楽しさは楽しくなくなってきたのだ。
ただ、日本のテレビは大切な財産を残せたと思う。それは「楽しく伝える」術だ。どんな事柄でも楽しく見せるノウハウができた。いろんなことに活かせるはずだ。
InterBEEではケーブルテレビで活動する元地上波番組の制作者たちのセッションがあった。12月15日までアーカイブ配信しているのでぜひ見てもらいたい。

なんと元日本テレビT部長こと土屋敏男氏も登壇し、愛知県豊田市のひまわりネットワークというケーブルテレビ局で番組作りをしている話をしている。
「進め!豊田少年家族」という、「電波少年」のセルフパロディのような番組だが、それも「見てもらう」ための仕掛けなのだ。

できれば#1から見てもらいたいが、上の#12だけでも面白い。

ちゃんとしたことを楽しく伝える社会的役割

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