テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2023年10月号

テレビ局はジャニーズ性加害問題に、会社として姿勢を示さねば危機に陥る

2023年10月10日 14:05 by sakaiosamu
2023年10月10日 14:05 by sakaiosamu

いち早く「クロ現」で自己検証したNHK

ジャニー喜多川氏の性加害問題について「メディアの沈黙」という課題を、大手マスコミは問われている。特にテレビ局には「責任があった」と言わざるを得ない。私はここで責任を追及したいと言うより、ここで「各局がどう出るか」が気になっていた。ただでさえマスゴミ呼ばわりされてきて、ここへ来て「全世代の放送離れ」が顕著な今、対処を誤ると経営的な危機になりかねないからだ。視聴者とスポンサーがいないと成り立たないビジネスが、今後も継続できるかの瀬戸際といっても決して大袈裟ではないと思う。
すでにNHKは「クローズアップ現代」で、かなり自らに切り込んだ番組を9月11日、最初の会見後に放送していた。その内容は見逃し配信は終了しているものの、テキストで読むことができる。

「紅白歌合戦」も統括していた部門の当時の部長へのインタビューをしていた。ただ、この部長は紅白をめぐる不祥事を受け、美術担当だったのが急きょ部長に任じられた人物。芸能事務所との交渉の表に立ってきた人ではないのが物足りなく感じた。もっと聞くべき人がいたのではないか?
ただ、いち早く「メディアの沈黙」に切り込み、様々な社内の声も拾って画期的だった。この段階の自己検証としてはまずまずだったと思う。さらに今後にも期待したい。

会社としての反省をきっちり表明した日本テレビ

そして先週、10月2日の2回目の会見の直後、10月4日に日本テレビが夕方の「news every.」の枠で、藤井貴彦アナウンサーの進行で日本テレビの自己検証番組を放送した。この内容にはびっくりした。ここでここまでやるのかと、感心せざるを得なかった。
いまも映像も含めて視聴できるので見てもらうといいと思う。実直に「会社として」検証し反省していることがよく伝わる内容だった。

メディア論とジェンダー研究が専門の東京大学教授・田中東子氏とともにスタジオに座るのは報道局長の伊佐治健氏。この時点で、会社としての本気度が伝わる。
さらに途中でコンテンツ戦略局長(以前で言う編成局長)である森實陽三氏も画面に登場した。つまり、「news every.」の放送枠を使って、これは日本テレビが会社として自己検証をし、その結果を伝えていることがわかる。
内容は、上記リンクから映像を見てもらうといい。驚くほど率直に、ジャニーズ事務所に忖度していたことが語られる。
構成も良くできていて、何についてどう社内で調査し、その結果こんな声が集まった、とわかりやすく伝えている。かなり練りに練ったものだと感じた。その分、しっかりしたシナリオ通りに、時に棒読みに思えなくもない場面もあった。
だがそんな細かいツッコミどころも、藤井アナがこれまで培ってきた「誠実さ」という実績が包み込んでいた。
夜のニュースの有働由美子氏ではなく、社員である藤井アナが進行しているのも当然とは言え、考えられていると受け止めた。

後出しジャンケンで勝てなかったTBS

こうなると他の局がどうするか、俄然注目してしまう。そう思っていたら、その週の土曜日、7日17時30分からの「報道特集」がやはり自己検証を行うと知った。この日は外せない私用でリアルタイムで見られなかったが、翌日日曜日の夜に録画してあったものを見た。だがあまりの違いに愕然とした。がっかりしたと言っていい。
関係者には耳が痛いかもしれないが、はっきり書いておきたい。言い訳がましい、その一言だ。自分たちが悪かったと言うより、仕方なかったと言いたいのかと感じた。また、ある知人の言葉を借りると、頭が高い。反省して頭を下げるべきところなのに、逆に上から目線をバリバリに感じた。
NHK「クロ現」や日本テレビ「news every.」同様、社内の声を集め、またOBに出演もさせているが、全然違うのだ。何が違うか、決定的なポイントを指摘すると、自分たちを蚊帳の外に置いている。当事者性の欠如と言っていい。
「私たち」ではなく「テレビ局」に責任があると言いたげで、一般論に流し込んでしまっている。最後に各キャスターがカッコいい一言を言うのだが、そのカッコ悪さに気づかないのかと悲しくなった。
そしてこの日の放送はTVerで見逃し配信されているのだが、前半の広告業界批判の部分しか配信されていない。なぜかいつも前半しか配信しないので、そのルールに則っているのだろうが、この回は例外的に後半こそ配信すべきだと、そこにも気づかないのかとため息が出た。自己検証の検証さえできない。
先にNHKと日テレがいい模範を示してくれていたのに、後から放送してこれなのかと、それなりに「報道特集」を評価してきた者として、本当に情けなくなった。今からでも後半を配信した方がいい。TVerでなくても、YouTubeでもいいのですぐに配信すべきだ。
「報道特集」はいい意味でも悪い意味でもこれまでのテレビ報道の典型的な番組だ。それがこうなるのは、テレビ報道が大きく変わらねばならない時が来たからだろう。「拍手をしている場合ではありません」と誰かを批判している場合ではありません。

単独の番組で自己検証する段階は終わった

当然だが、NHKと日テレもあれで「ミソギが済んだ」わけではない。ジャニーズ事務所の今回の問題は、テレビ局の社会的な役割の根本的見直しを迫るものだ。数回に分けて検証を重ねるべきだと思う。
そして「報道特集」の最大の誤りでもあるのだが、そもそも一つの番組だけで自己検証すべきではなかったのだ。もっと前ならまだしも、「メディアの沈黙」がはっきり指摘され、ジャニー喜多川の性加害を隠してしまっていた企業として、襟を正すべき時なのだ。ひとつの番組や報道部門の問題ではもはやない。会社としての検証を行い、社長自らアナウンスすべきタイミングが来ている。
TBSの批判ばかりしたが、自己検証をまだほとんどできていない局もある。それも含めて、テレビ業界全体が自分たちのしでかしてきたことを、きちんと検証し、こう変わると宣言しなければならない。そのタイムリミットはもう近づいている。間に合わないと、視聴者からも企業からも見限られてしまいかねない。一刻も早く取り組むべきだと思う。

●お知らせ
10月19日(木)にSSKセミナー「キー局のメディア戦略2023」が開催されます。MediaBorder購読者には割引があるのでこちらをお読みください↓

SSKセミナー「キー局のメディア戦略2023」10月19日開催、今年は会場参加もあり!

関連記事

悪いネットメディアといいネットメディアの区別がよくわからなくなってきた

2024年04月号

NHKの受信料運営はもはや時間の問題で行き詰まる

2024年04月号

NHKも新聞も、自分で自分の首を絞めている

2024年04月号

読者コメント

コメントはまだありません。記者に感想や質問を送ってみましょう。

バックナンバー(もっと見る)