テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2023年08月号

NHKは「公共メディアへ」の進化を投げ出してしまったも同然だ

2023年08月16日 15:07 by sakaiosamu
2023年08月16日 15:07 by sakaiosamu

NHKが「公共メディア」と言い出したのは8年も前

NHKは2015年に発表した「経営計画 2015-2017年度」で「公共メディア」の言葉を使い公共放送から公共メディアを目指すことを宣言した。

「NHK経営計画2015-2017年度」表紙

ビジョンについて語る冒頭部分の最後にこう書かれている。
「公共放送から、放送と通信の融合時代にふさわしい”公共メディア”への進化を見据えて、挑戦と改革を続けます。」
これを読んで私は「公共メディア」を、電波を使っていたこれまでの「公共放送」から、通信との融合による新しい伝え方を駆使した新たなメディアの形を示すものだとイメージした。
2015年にタイムマシンで戻ってこの文章の作成者に、あるいはこの文書を読んだ視聴者に、「2023年には放送と同じ内容をネットでも同時に配信し、見逃し視聴もできるようになっています。今後はネットだけ利用したい人も料金を払えば利用できるようになりそうです」と教えてあげたらどう思うだろう。
放送通信融合の時代にふさわしい”公共メディア”って、なーんだそんなもんなんだとがっかりするのではないか。放送と同じ内容をそのままネットで流すだけが公共メディアだったの?少なくとも2015年に書かれた経営計画の文章はもっとスケールの大きな、単純に映像を送り届けること以上を想定していたはずだ。

NHK上層部はNHKプラス以外やる気なし

このところ、どうやらはっきりしてきたのは、現在のNHKの中枢にいる人々は、「公共メディア」をその程度のものと認識していたらしいことだ。これは進化よりむしろ、後退を意味する。
私は東洋経済オンラインに6月13日に書いた記事で、その詳細を示した。

 

総務省の有識者会議「公共放送ワーキンググループ(以下WG)」でNHKの井上副会長が「放送と同様の効用」という分かりにくい言葉を使って、有識者たちを悩ませてしまった。ただぼんやりと伝わってくるのは、要するに放送している内容と同じものをネットでも配信する、と言っていることだった。
2015年に「公共メディア」の言葉をNHKが使ったときは、ネットだからできる表現を駆使し、ネットならではの双方性も生かした、放送の枠を超えた新しいメディアの姿だったはずだ。だが井上副会長はそんな夢物語を踏み潰すような、素っ気ないプレゼンをした。放送が最上の形態なのだから、「同様の効用」をもたらせばいいのだ。示されたのは、どう見てもそんな20世紀的なメディアの在り方だった。

NHKプラスだけではインフォメーションヘルスを守れない

そもそも「公共放送 WG」は、放送全体の今後を議論する「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」の分科会であり、この親会の方がスタートした時の大きなテーマとして「インフォメーションヘルス」があった。
フェイクニュースやフィルターバブルが問題になってきた今、ネットでもきちんとした情報空間を構築する必要がある、そのためには既存の放送局がネットでどう情報発信するかが課題だ。
そのために放送と同じ内容をネットでも配信するのは基本の基本でまず手をつけるべきだが、それ以上になにができるか、新しい手法を見出すことも重要な課題のはずだ。
「放送と同様の効用」で、特に若い世代にとって事足りるだろうか。そもそも若い世代ほどNHKの番組を放送で見ていない。民放も見ていないがその比ではないくらい見ていないのだ。
民放のドラマやバラエティは若い人を意識した物が増えている中、TVerでどんどん見られるようになってきた。だがNHKはTVerと同じように配信するだけでは到底無理だろう。「自分達のコンテンツ」とまったく思われていないからだ。
NHKも最近は必死に、若い人に見てもらう工夫をしてはいるが、正直うまくいってるようには見えない。瞬間風速的に「光秀のスマホ」のようなヒットコンテンツは出るものの、影響力は小さい。

立ちはだかる「テキストニュースへのクレーム」

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