テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2022年11月号

説明なく勝手に進んだ「Netflix広告プラン騒動」これまでのあらすじ

2022年11月22日 10:36 by sakaiosamu
2022年11月22日 10:36 by sakaiosamu

スタート直前に判明したNetflixの強引さ

11月4日にスタートしたNetflix広告プラン。MediaBorder読者なら大まかな状況はご存知だろう。同プランを強引に推し進めるNetflixと日本のテレビ局で揉めて騒動になった。「これまでのあらすじ」を私の目線でおさらいしておこう。

騒動の噂が聞こえてきたのは10月31日だった。11月4日にスタートする、ほんの数日前に一気に騒動が巻き起こったのだ。

Netflixのサイトには同プランについて「一部のコンテンツはライセンスの関係で配信されない」と記されており、日本の各テレビ局は自分たちの番組は配信されないと思い込んでいた。何しろそれまで、広告プランについての説明はNetflix側からまったくなかったのだ。

10月末になると「日本のテレビ番組や映画にも広告がつくらしい」との情報が伝わってきて、寝耳に水と各局の配信担当者の間で騒ぎになった。一部の局はNetflixに強く抗議し、コンテンツ撤収も辞さない構えで広告をつけないよう迫ったが、何の返答も寄越さない。実は契約では「配信権」とあるだけで有料か無料か広告つきかなどの区別はないらしいのだ。だがそれはNetflixが有料課金モデルつまりSVOD事業者だから区別する必要がなかったから。しかも彼らは大っぴらに広告モデルを蔑み全否定していた。これは法律論より仁義と礼儀の問題だ。ビジネスパートナーとしてあり得ない姿勢だろう。

情報を探ってみたが、日本のテレビ局の多くは怒っているし、映画会社も憤っていた様子だ。ただ提供しているコンテンツの数によって強く出るかどうかは悩ましいようだ。

そうやって調べ回っていると、山本一郎氏がプレジデントオンラインに爆速記事を出した。

揉め事を伝えるだけでなく、最後の方では放送業界を俯瞰した危機感も書かれており、その早さと深さに恐れ入った。この話題を世に出す一番手は諦めたが、私は4日の広告プランスタートを受けて翌週に東洋経済オンラインに出すべくさらに情報収集を進めた。

そのうち、「山本氏の記事が英訳されアメリカ本国の関係者が読んだらしい」と伝わってきた。どうやらそれが影響したようで、それまで無視していたNetflix側が一部の局に連絡してきた。その局の番組には広告はつけないと言ってきたという。一本の記事が事態を解決したのか、と思ったがそう単純ではなかった。

はじまった広告つきプランと、無闇な賞賛

広告プランのスタートは3日との説もあったが正確には太平洋標準時の3日午前9時で、日本では4日の午前2時前後のスタートだったようだ。午前2時半ごろにアクセスするとNetflixの登録サイトに「広告つきベーシック」が選択肢に加わっていたのだ。

画像

元々のアカウントとは別のメールアドレスで、「広告つきベーシック」に加入してみた。果たして日本のテレビ番組に広告はついているか・・・一通り見てわかったのは、撤退覚悟で抗議した局のもの以外、ほとんどに広告がついていたことだった。Netflixが山本氏の記事で態度を軟化させた効果はすべてには及ばなかったようだ。強気で抗議しないと、広告は取り下げないのか。

さらに驚いたのが、NHKのドラマにも広告がついていたことだ。「みなさまのNHK」の朝ドラは受信料で制作された国民の資産と言っていいと思うが、「半分、青い。」がCMつきで配信されているのはいささかショックだった。

この一大事を業界内外に伝えるべく、私は記事にまとめてYahoo!ニュース個人で公開した。

だがこの記事は空振り。4日の夜の公開でタイミングが悪かったせいもあり、ほとんど読まれずに終わった。

翌5日付で東洋経済オンラインにコンサルタント鈴木貴博氏によるこんな記事が出た。

この鈴木氏は10月にもNetflix広告プランを「破壊的」と評するピントのずれた記事を書いているのだが、ここでは「日本のTV崩壊」とまで言っている。しかも「地上波の人気コンテンツには広告は入っていない」と事実誤認をしてしまっている。たまたま彼が確認したのがアニメ番組で、アニメの場合は局ではなく製作委員会が権利を持つことが多いのを知らないのだろう。さらに前の記事でも書いていた、有料課金より広告モデルの方が市場が大きいから伸びるとの自分の思い込みをまた書いている。Netflix広告モデルの契約数が日本の世帯数に迫らない限り、ここに書いているほどは伸びないだろう。この記事はバズったというほどではないが「TV崩壊」に反応する一部の人々の間で読まれていた。「テレビなんか終われ」などのコメントつきで。

私も、元々週明けに書くつもりだった東洋経済オンラインに寄稿した。鈴木氏の記事を読んでしまったので多分にそれへの反論になっている。もちろん名前は出していないが。

ここに書いたようにNetflixの広告つきプランには課題があまりにも多い。それなのに拙速でスタートさせてしまったので、課題解決は難しいのではないか。

となると、日本のテレビ局も決裂するより配信権の価格を上げるのが得策かもしれない。交渉するNetflix日本法人の連中は、広告面を増やせとの本国からの指示で仕方なく強引な態度をとっており、価格が上がっても広告をつけたがる可能性は高い。

なぜかNHKの対応だけがスクープ扱い

さてここまでが騒動のあらすじ、だったはずなのだが、鎮まりかけた騒動に翌週になってわざわざ火をつけに行ったメディアがある。共同通信だ。

16日午前のこの記事は「今さら感」がある。前の週に終わった話であり、あとは個別の局がどう交渉するかでしかない状況だった。ちなみに、Netflixは逆に態度を硬化させているとの噂だ。もはや強気の交渉にさえ応じないようだ。

そんな中、NHKの番組にもCMがついていることはもはや皆が知るところだったし、NHKが交渉することもわかっていた。そんな今さらな記事だが、共同通信がこうして短い記事を配信すると「スクープ感」が出てくるから不思議だ。さらにYahoo!ニュースがこれをヤフトピに入れてしまい、ますます大きなスクープに見えてしまった。

共同通信がすでに関係者が知っていることを短い記事で配信することで、そうでもないことがスクープに見えることはよくある。それをまたヤフトピに載ったりするので大したことない話が一大スクープと化してしまう。やれやれだ。

さらに共同通信はNHK批判を煽るのが実にうまい。この記事にも当然ながらNHKへの様々な悪口がくっついて広がった。それにしてもなぜNHKだけを記事にするのか。民放各局も同様の交渉をしているのになぜそちらは記事にしないのだろう。きっと他局のことも知っているのにNHKを槍玉に挙げたいので他局は書かないのだろうと想像した。

だが、他局のことは知らなかったようだ。

先の記事は16日の11時に配信されたものだが、こちらの記事は同じ日の15:46になっている。他局のことは知らなかったし調べてもなかったのだろうか。だとしたら取材不足も甚だしい。いい加減なものだと思った。

放り出すお偉いさん、クレーム言うお偉いさん

前週にはNHKの番組が広告つきで配信されていることが既に話題になっており、11日には寺田総務大臣(当時)のコメントが記事になった。

総務大臣として管轄するNHKの番組に広告がついている事について「説明責任を果たす必要がある」と述べた。つまり、自分でなんとかしろという事だろう。いささか無責任にも思えるが、ご自分の進退で頭がいっぱいだったのかもしれない。

続いて18日には、民放連の遠藤会長が会見でこの件にコメントした。

「大変唐突で進め方が非常に強引だった印象。事前に十分な説明がなかった」と、Netflix側にクレームをつける姿勢。当然のコメントで、民放側が明確に態度を示した初めてのニュースだった。

以上が「Netflix広告つき騒動」の先週までの顛末だ。そしてこの後を追って行ってもあまり収穫はなさそうだ。あとは各局との交渉次第だし、そもそも広告つきプランは伸びないと見込めるからだ。ぜひ先の東洋経済オンラインに寄稿した私の記事を読んでもらいたい。

うなだれる巨人たちとFASTへの期待

ではここから学ぶべきことがあるとしたら何だろう。

この続きは1ヶ月無料のお試し購読すると
読むことができます。

関連記事

2023年、MediaBorder的10大ニュース(後編)

2023年12月号

2023年、MediaBorder的10大ニュース(前編)

2023年12月号

新聞協会の横槍とNHK自身の体たらくで、NHKのネットニュースがなくなる〜国民の権利侵害だ!〜

2023年12月号

読者コメント

コメントはまだありません。記者に感想や質問を送ってみましょう。

バックナンバー(もっと見る)