テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2018年08月号

朝倉ウィークでの経験を60市町村へ!KBCの地域戦略の中身を聞く

2019年03月07日 16:58 by sakaiosamu


※朝倉ウィークちらし

前の記事で、KBCの中期経営計画について和氣社長の話をまとめた。(読んでない方は→前回記事「地域戦略に大胆にシフトしたKBC九州朝日放送」からお読みください)読んだ方が気になるのは、そこで出てきた「地域戦略」の具体だろう。それを担うのが、地域共創ゼネラルプロデューサーの大迫順平氏だ。地域戦略の第一弾として取組んだ「KBC朝倉ウィーク」について聞いてみた。

水害から一年後の朝倉の姿を全県民に

「KBC朝倉ウィーク」は、今年の6月2日から8日まで「朝倉Wish」のタイトルで開催された。福岡県朝倉市は、2017年の水害で大きな被害に見舞われた地域だ。一年経って復興がどれくらい進んでいるか、人びとの声とともに県内に届けるキャンペーン。

この企画を、KBCのテレビとラジオで連携して放送した。言わばKBCの社内総出でひとつの地域にフォーカスして番組を展開したのだ。中期経営計画の「地域戦略」の最初の具現化だ。前の記事で和氣社長が語った「ラジオはテレビと連携して地域メディアを担う」新方針もさっそくここで形になっている。

6月2日のラジオでの生放送を皮切りに、毎日ラジオで生リポートを展開し、テレビでも人気番組「アサデス。」や「ドォーモ」で朝倉特集の回を放送した。この一週間はKBCのテレビかラジオで何らか、朝倉発で番組を届けたのだ。また防災をテーマにしたシンポジウムも開催された。テレビとラジオ、公開生放送、イベントなどあわせて50の話題を届けることができたという。 

朝倉ウィークでわかったこと、学んだこと

この朝倉ウィークで生まれたことの価値を、大迫氏が説明してくれた。

「この活動の収穫は3つあります。KBCへの信頼、取材ネットワーク、そして営業への布石。朝倉市にフォーカスしたからこそ得られたものがあるのです」


※4月から地域共創ゼネラルプロデューサーとして駆け回る大迫順平氏

「KBCへの信頼」は、催しに関わった朝倉市の人びと、市役所や観光協会、地元企業などのキーマンが具体的な言葉で示してくれたという。福岡のテレビ局といっても、朝倉市の人びとからすると県庁所在地から放送する遠い存在だったのが、自分たちと一緒に放送してくれたのだ。信頼だけでなく、親密さも増しただろう。

「取材ネットワーク」とは、朝倉で誰に何を聞けるのかがわかったわけで、今後の報道に役立ちそうだ。そして「営業への布石」とは、朝倉の地元企業にはどんな会社があるのか、フェイストゥフェイスで把握できたということだ。明日から即何かの取引が起こるわけではないだろうが、近い将来互いに何かのニーズが起こるかもしれない。実際の営業活動の手前のつながりが得られたということだ。

 大迫氏の話からは、その3つの収穫を力強く実感できたことが伝わってきた。

 「より重要なのは、朝倉でやってみたことで、課題や改善点も見えてきたことです」とさらに大迫氏は語る。「地域戦略」を具体化する上での課題が実際に目に見えたことが大きいというのだ。浮かび上がった課題を丁寧に書き出して、社内資料を作成して共有しているという。「地域に根ざした放送」と口で言うのは簡単だが、実際にやるとなると想定しなかった難しさが出てくる。朝倉での体験を活かせるかどうかが、今後につながる。


※KBC社内資料より、課題を洗い出し共有するために作成された

来年は、60市町村で○○ウィークを展開する

そして実は、KBCでは来年、福岡中で同様の取り組みを展開するのだという。福岡県には全部で60の市町村があるが、そのひとつひとつの市や村で「○○ウィーク」を展開するそうだ。ええ?!60回も○○ウィークを?それは画期的だ!福岡県在住の人でも、行ったことのない市町村なんてたくさんあるはずだ。それぞれの市町村をフィーチャーすることで、県内で互いに知ることができる。また、とくに福岡市から遠い地域では、自分たちの町から県内に放送されるなんてと、喜んでくれるにちがいない。

だがしかし、朝倉ウィークをやるだけでも大変だったろうし、各地から放送する中ではトラブルや事故も起こりかねない。きっとスタッフは朝倉でやっただけでも神経も肉体もすり減らしたことだろう。それを60市町村でやるなんて、という気持ちになりそうだ。

「確かに60市町村は大変だと思います。でもそれをやり遂げた時、得られるものがあるのだと思うのです。」

和氣社長に聞いた5カ年計画もかなり大胆な改革だと思ったが、その具体である60市町村発の放送は前人未到に思える。しかもキー局が予算をかけて特番を作るような派手さに比べると、圧倒的に地味で地道な作業だ。

ただ、確かに大きな収穫ももたらしそうだ。何より、最終的には福岡県の人びとの信頼と親密さを獲得できると思う。「KBCは私たちのメディアだ」そうはっきり認識してもらえるだろう。

福岡県内の自治体と防災パートナーシップ締結へ

今回の地域戦略でもうひとつ注力しているのが「防災」への取り組み。これも60市町村応援プロジェクトの一環だ。一年前の九州北部豪雨を教訓に、福岡県内のすべての自治体と防災パートナーシップに関する協定の締結を目標に据えた。

「この夏も豪雨被害が相次ぎましたが、一人でも大勢の命を守るべく、各自治体と関係を強化しています」と大迫氏は熱っぽく語る。

4月から動き始め、現在、柳川市、八女市、糸島市の3市と締結し、朝倉市、春日市、大牟田市の3市とも近日中に締結することになっているという。

本誌では放送改革論議を何回か取り上げてきた。Society5.0とは科学技術の進化とセットで「社会課題の解決」も目標として出てくる。筆者は、KBCの取り組みは地味で地道だが、社会課題の解決のための方向転換だと受けとめた。Society5.0の具現はいま、福岡で起ころうとしているのではないか。

だからKBCの試みは、ローカル局のみならずすべての放送局が進むべき道のひとつだと思う。もはや、キー局に頼ってる場合でもないし、キー局も同じ課題を背負いつつある。何しろ、その地域の人びとに見放されたら、メディアは命を絶たれるのだから。メディアは、人びとのために生まれたはずなのだから。

 

 

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