「バズワード」という言い方がある。バズっている言葉。つまり、多くの人が拡散されたのを受け止めその人がまた拡散させる、そういう言葉という意味になる。まあ、一時的にばあーっとみんなが”あまりよく意味もわからず”口にし、いつのまにか忘れ去られる、という少々揶揄的に使われる言い方だと思ってよさそうだ。
放送業界における「同時配信」がいま、バズワード化している気がする。もちろん私も、揶揄的に使って書いているのだ。
この「同時配信」という言葉は、つい昨年前半までは「同時再送信」と表記されていた。
「同時再送信」が議論になりはじめたのは、2015年の放送法改正でNHKがそれまで事実上禁じられていたのが、条件付きで可能になったことからだ。改正前からすでに、以下のような記事も出てくすぶりはじめていた。
→「ネットで攻めたいNHK 身構える民放各社 」(日経産業新聞 2014年11月13日)
人々のテレビ離れで将来の受信料収入に不安を持つNHKがネットに本格進出しようとしているのを、民放側が警戒しているという記事だ。放送法は改正され、NHKは災害などの特別な場合などに限って、放送と同じ番組をネットでも同時に再送信できるようになった。これを「同時再送信」と呼んでいたわけだ。
「同時再送信」の議論は、2015年に総務省の主催でスタートした「放送を巡る諸課題に関する検討会」でも「諸課題」のひとつとして粛々とした議論が続けられた。
一方NHKが次に進みたいのは、災害の時に限らず常時行うことだろう。そのための実証実験を2015年に行なった。
NHKの実証実験は2016年秋にも再び行われることになっていた。その直前の10月19日に、朝日新聞一面に「テレビ、ネットと同時配信へ 法改正で19年にも全面解禁」という見出しが躍った。驚いた私はYahoo!にこんな記事を書いた。
→「テレビのネット同時配信は、すでに解禁されている~朝日報道の不可解~」
その趣旨は、同時配信は民放は規制されておらず、現に部分的に行われてもいるのに、朝日の記事はいま民放も禁止されており、それが法改正でできるようになると誤解を与えるのではないか、というものだ。
この朝日報道の不可解さはいまも感じるところだが、とにかくこの記事は大きな影響をもたらしたと思う。急に「同時配信」がホットな話題になったのだ。
ここで面白いのが、それまでNHKが「同時再送信」と言っていたのを朝日新聞が「同時配信」と表記し、以降はそっちが言葉として使われるようになったことだ。確かに「再送信」は一般にはわかりにくい言い方で、「同時配信」のほうがわかりやすいだろう。朝日新聞のあの記事の大きな功績と言えるかもしれない。もちろんこれも、揶揄的に言っているのだが。(ここから先は登録読者のみ)
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