テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2016年07月号

面白い動画をつくればたくさんの人が見るはずだ、という大きな誤解〜”バイラル”の終焉〜

2016年07月22日 15:05 by sakaiosamu
2016年07月22日 15:05 by sakaiosamu

7月12日の記事「テレビCM制作2位と3位の経営統合には、映像業界の課題が集約されている」は、地味な記事のつもりで書いたのだが意外に多くの人に読んでもらえたようだ。そこで、その時気になっていたことを、続編記事として書いておきたい。

CM制作大手である、AOI Pro.とTYOが経営統合を発表したわけだが、そのリリースの中に個人的に気になった箇所がある。両社が共同で配信したリリース文書の初めのほうでTYOの現況を語る部分だ。そこにこうあった。

「従来の広告映像制作事業とのシナジーが大きいPR事業も新たに開始予定であります。」(AOI Pro.リリースサイトより)

私は4月に、あるCM制作会社に頼まれて社内レクチャーを行った際、「今後ネットでの動画広告を制作するにおいてPR会社との協業が必要になるでしょう」という話をした。さすがTYOはすでにその動きをしているのだと感心した。

そもそもネットが登場して以来、広告制作に携わる者なら何度となく「ネットで動画流せますよね、面白い動画作るとバズるんですよね」という依頼を受けてきただろう。そんな調子のいい期待を受けて何千もの動画が制作され、藻くずのようにネットの海に沈んでいった。

ここ数年は「バイラルマーケティング」だなどと言われて、ネットで動画を流そうという企業の動きはさらに活発化したようだ。いまや検索よりソーシャルの時代で、「いいね!」がたくさんつけばメディアコストをかけなくても動画が”バイラル”する。そんな謳い文句に惑わされ、「面白いの作ってバイラルさせてください!」と代理店や制作会社に依頼する案件が続発した。

もちろんそれらのほとんどは不発に終わった。理由ははっきりしていて、動画がバズるのはそれが面白いかどうかではなく、ほとんど”偶然”だからだ。

また幸運にも”偶然”が働いて何百万回も再生されても、果たしてどういう効果があったと言えるか不明だった。「あの○○○って動画面白いよねー!」「うんびっくりした!・・・でもあれ何の動画だっけ?」「さあ・・・?」なんてことがよくあった。企業や商品を押し出すとバズらないと言われているため、商品訴求を控えめにした動画が多いのだ。

そもそも、バイラル動画制作に用意される予算は、数百万円だ。それ以外にお金もエネルギーも使わない。依頼する側からすると、”ネットはお金かからないんでしょ?”という気持ちだろうが、確かに動画を置くだけならお金はかからないが、コストが低い分、リーチも低いのだ。ネットには魔法があるかのように錯覚するのはもうやめたほうがいい。

そろそろ、ただバイラル動画を低コストで制作して宝くじの当選を願うようにバイラルを期待するのはやめにしなければならない。

だからテレビCMがやはり重要だということでもあるのだが、ネットも使いようということでもある。

考えを整理するには、ファネルをどう構築するかを考えることだと思う。(ここから先は登録読者のみ)

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