テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2016年07月号

テレビCM制作2位と3位の経営統合には、映像業界の課題が集約されている

2016年07月12日 12:23 by sakaiosamu

7月11日、筆者はあるニュースに衝撃を受けた。

⇒テレビCM制作2、3位統合 AOIプロとTYO 業界首位に(日本経済新聞 7月11日14:00)

筆者はもともと広告制作に従事してきたし、一時期は映像製作会社に在籍していた。広告制作業界の視点で見るとこのニュースは非常にエポックメイキングだ。だがテレビ放送界やIT業界の読者からすると、このニュースがどういう意義を持つかはなかなかピンと来ないだろう。そこでこの記事では、広告制作、とくにテレビCM制作界をざっと概観しながら、2位と3位が経営統合する意義を解説してみたい。そこには、映像業界の課題が凝縮されているので、いろいろ参考にしてもらえると思う。

まずテレビCMの制作会社はどういう業態かを説明しておこう。広告の仕事では、企業が電通や博報堂などの広告代理店に全体のプランニングからそれを具体化する制作物の企画、制作、そしてメディアのバイイングまでを依頼する。コンペになることが多く、どんなCMにするか、それを流すCM枠はどうプランすればいいかなどをプレゼンテーションする。

CM制作会社はその段階から代理店に呼ばれ、プレゼンテーション作業をサポートする。CMの企画案を大量に出したり、それを絵コンテにする作業、場合によっては既存映像や絵コンテを動かして編集し、ビデオコンテの形にまとめる。実際にプレゼンを行うのは代理店の制作スタッフだ。クリエイティブディレクターが中心になってプレゼンする。

コンペに勝利し受託が成立すれば、CM制作会社が実作業を請け負う。そこでようやく制作会社にとってのビジネスになるのだ。獲得できない場合は代理店が実費を払ってくれることも多いが、それでは利益にはならない。プレゼンに勝利して初めてまっとうな売上が立つので、提案作業には心血を注ぐことになる。

CM制作会社と代理店の制作セクションの関係はシンプルな受発注の関係だ。90年代までは比較的代理店への出入りもしやすかったので、制作会社のプロデューサーたちは担当する代理店に日参し、クリエイターたちと関係を築いて案件を獲得しようと躍起になったものだ。「めしでも行きましょう」の挨拶が飛び交い、西麻布や青山のオツな店に誘うのが日常風景だった。

2000年頃までは、はじけたはずのバブルがまだ続いていたかのように、そんなお気楽な日常が続いていた。そして実際、広告業界全体はまだ緩やかながら成長しており、中でもテレビ広告費ははっきり伸びていた。

この図は、電通が毎年発表する日本の広告費のメディア別の数字を、テレビ・新聞・インターネットの3種類だけを取り出してグラフ化したものだ。新聞広告費がバブル以降ずるずる下がる一方なのに対し、テレビ広告費は2000年まで上がり続けているのがわかるだろう。

2000年代になるとテレビCM業界は「あれ?」という空気に包まれる。”伸びない”のだ。だからと言って急減するわけでもなく、いままでのようにはいかないがダメになるわけでもない、微妙な状況だった。その間に、電通・博報堂・ADKは一斉に上場企業となり、コンプライアンスが厳しくなった。気軽に入れなくもなり、徐々に昔のいい加減でお気楽な業界のムードがどこか身動きしにくくなっていった。

そこにリーマンショックがやって来た。すべての業界が体験したように、売上利益の水準が格段に落ちた。もはやいい加減でお気楽なCM業界の空気は消滅し、売上は伸びず利益率は低い、厳しい業界になっていった。その激変ぶりは放送業界もIT業界も同じだろう。ただテレビCM業界は、それまで他より大きなお金が回っていたぶん、ギャップは大きい。

今回の経営統合も、そんな流れの中で起こった転機だといえる。(ここから先は登録読者のみ)

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