テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2016年03月号

フジテレビについてみんなが悪口を言うのは、大好きだからだと思う〜新潮新書『フジテレビはなぜ凋落したのか』〜

2016年04月01日 09:07 by sakaiosamu
2016年04月01日 09:07 by sakaiosamu

すでに読んだ方も多いと思う。新潮新書の今月刊『フジテレビはなぜ凋落したのか』は、いまあちこちの書店で平積みされている。

86年にフジテレビに入社し、主に報道畑と情報畑を歩んできて09年に退社し、いまは大学で教鞭をとる吉野嘉高氏の著作だ。

本稿はこの書籍について"書評"を述べようというものではない。ただ、少し感想を書くと、フジテレビ凋落の原因を、大学教授が客観的資料を元に論理的に探るものではない。むしろ、大学教授のわりには思いきり主観的、印象的な内容だなと感じてしまう。中にいた人間として、全盛期を振り返りながら思い入れたっぷりに語っている。というより、思い入れがあちこちにこぼれてくる。簡単に言うと、凋落の原因は成功体験から抜け出せないからだ、ということを長々と語っている。

だがこの本は、そこが何と言っても面白い。おれがあんなに好きだったフジテレビが、おれをここまで育ててくれたフジテレビが、なんでこんなになっちまったんだ。そういう”愛”で埋め尽くされた本だ。もといた人間が、一生懸命昔を思い出し、足りない部分は調べ上げ、お前いったいなにやってんだと叱咤激励する、そういう内容なのだ。書いてあることが当たってるかどうか、分析として正しいかどうか、そんな話ではなく、吉野氏のフジテレビへの愛をビンビンに感じて受けとめるための本だと思う。

考えてみれば、みんなフジテレビのことを気にしてる。ためしに、Googleで「フジテレビ」と検索してみると、出てくる出てくる。3月だけでも、数十本もの記事が出てきて、どれもこれも、フジテレビの悪口だ。春の編成は早くも失敗の烙印を押され、カトパンの退社がいかに打撃か、社員がいかにダメになったかなどが書かれている。

これは何なのか。みんなそんなにフジテレビが嫌いなのか。いや、逆なのだ。みんなフジテレビが大好きなのだ。中にいた吉野氏ほどではないにしても、みんなそれぞれに吉野氏を自分の中に持っていて、だからこそ、なんだこのていたらくは。おれが若かった頃はお前、あんなにやんちゃでいい加減で先行っちゃってて、だからすげえカッコよかったのに、なにやってるんだ。そんな気持ちなのだと思う。

 少なくとも35才くらい以上の業界の人間は、フジテレビが大好きだった。ものすごく影響されて大人になった。それなのに、という気持ちが、悪口を書かせるのだ。

かくいう私も、今年の初めにこんな記事をブログに書いている。

 「フジテレビはもう、視聴率なんか諦めればいいのに」

我ながら、なんてひどい見出しだろうと思う。だがもちろん、言いたいことのニュアンスは少し違う。この言い方はそのまま受けとめると「どうせ視聴率狙ってもとれないんだから諦めろよ」といや〜なことを言っているように思うだろう。だが記事の中身で言っているのは、フジテレビの新しさや洗練はテレビでは求められなくなっているのだから、そことはちがうところに活路を見出せばいいのに、とかなり前向きなことを言ったのだった。少しわかりやすく、図を描いてみたのだが・・・(ここから先は登録読者のみ)

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