テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2023年07月号

メディアはイマであり、テレビはまあまあどうでもいいイマが強みだった

2023年07月18日 08:42 by sakaiosamu
2023年07月18日 08:42 by sakaiosamu

LiveParkがローカル局と楽天をむすぶ「のぞいてニッポン」を開設

7月14日、「のぞいてニッポン」という新しいWEBメディアの発表会を取材しに行った。もっとも、すでにいくつかの記事で伝えられているし、メディアそのものもオープンしているので、それらを見た方がよくわかるだろう。

さらに、参加しているローカル局がそれぞれニュースとして発信し、自社のYouTubeチャンネルやニュースサイトに置かれているのも、このプロジェクトらしい伝わり方だ。

「のぞいてニッポン」の企画意図上大事なのは、楽天サイト上にあるけれども、このサイト自体がトラフィックを集めることが最大の目的であることだ。楽天としては、これによりECの”いつもの人々”とは違う層を呼び寄せたいのだ。
そしてローカル局としては、自分たちのコンテンツの再利用で二次的な価値を付加したいということだろう。
説明を聞きながら正直、「そんなサイトに人が来るものかなあ」と疑問を持った。だが、質疑コーナーでやり取りさせてもらい、サイトがあれば来るだろうと甘いことを考えているのではなく、みんなで一致団結して人を集める意志を感じて疑問は期待に変わった。これは、頑張ってほしい。
ローカル局が楽天のバックアップのもとで「人を集めよう」と協力すれば、「のぞいてニッポン」が「イマ」になる可能性があると思ったのだ。そうか、だから「のぞいてニッポン」なのだなと得心もした。

メディアはイマであり、イマではないものはサービス

メディアの定義については、考え方によって分かれると思う。私は、「イマ何が起こっているかを伝える」のがメディアだと考えている。新聞は毎日起こっていることを伝えてきたし、月刊誌はその雑誌のテーマに沿って1ヶ月内に起こったことを伝えていた。そしてこれら紙媒体がネットの時代に行き詰まっているのは、紙で届いた時には、そこに載っているニュースをすでにネットで知ってしまうからだ。面白いことに、先にネットでそのニュースを伝えているのも新聞社であることが多く、紙媒体を続ける意味がなくなりつつあることだ。この点は前に別の記事で書いた。
ではNetflixはメディアだろうか。「メディアはイマを伝える」の定義に沿うと、SVODはサービスであってメディアではないことになる。強いて言えば『離婚時代』が配信されているよ!ということにはメディア性があるが、だからメディアかと言えばそうではないことになる。
Yahoo!はYahoo!ニュースの部分をとれば、メディアだ。自分で作っているニュースではないが、それが集まっていてさらに「トピックス」で「これが特にニュース」と示すので、メディアとして利用される。ニュース以外はサービスだが、ニュースが全サービスの入り口として機能している。
では、テレビ放送はどうか。もちろんメディアだ。そしてテレビの強みは、「まあまあどうでもいいイマ」がほどよく伝えられることにあった。なんとなくつけておけば、だらだらイマが流れてくる。受け身でいてなんとなくだいたいのイマが把握できるから最強だったわけだ。
だが、最近のテレビ局はそんなメディアの強みを活かせていない方向に進んでいる気がする。このところのテレビ局はドラマとバラエティに走っている。ドラマは特にやたらと枠が増えている。なぜドラマが増えるかと言うと、放送で見せた後、TVerなど配信で見せるためだろう。TVerではまずドラマ、次にバラエティがよく見られる。昨年フジテレビの「silent」がTVerなどで激しく視聴されて収益的にも大きなプラスになったらしい。それを見て、どの局も「Silent」に続けとドラマ枠を増やして配信での2次収入を狙う考え方に傾いているのだと思う。悪い言い方をすると、TVerに合わせて番組編成をしているように見える。
人々が「放送」の形態からどんどん離れているのだから当然の流れと言えるが、それだけテレビが自らの本質を諦めてしまっているようにも思えてしまう。もっと、テレビの「イマ」の部分を考えなくていいのだろうか。あるいは、テレビの「イマ」を別の形で生かす新しい「イマ」はないのだろうか。

アメリカのFAST人気は「テレビはイマ」の再構成?

FASTが注目すべき新しいサービスであることは、何度か書いてきた。先週もこんな記事をYahoo!で書いたらびっくりするほど読まれた。後半でFASTについて触れている。

FASTについては先日、詳しい方に取材したので近々記事にするが、各サービスで何百チャンネルも展開する中、大まかに言って2種類があるようだ。ひとつは「スタートレック」のような古い番組ばかりずーっと流すチャンネル。もうひとつは、スポーツやローカルニュースなど最新情報のチャンネル。どちらも、既存のテレビコンテンツの再構成だが、前者は過去の再構成。そして後者は現在の再構成と言えそうだ。つまりFASTの半分はイマの新しい見せ方なのだ。
筆者は家でテレビをずっとつけてるタイプだが、7時になると民放で見るものがなくなりNHKニュースを見る。それが終わるとまた見るものがなくなり、BSで報道番組を見る。BS-TBSとBSフジでやっているのだが、両者ともウクライナの現状を詳しく伝えたり、政局についておなじみの政治評論家を呼んで語ったり、毎日だいたい同じだ。すぐに飽きてしまう。そこでたどり着くのが、ケーブルテレビでTBSと日テレがやってる24時間ニュースチャンネルだ。だがそれも、30分ごとに少しずつ変えながらループするのでずっと見てられなくなる。
我が家では何十チャンネルも見ることができるのに、見たいものがないのだ。どこも私好みの「イマ」をやってくれないからだ。
アメリカでFASTが流行るのがよくわかる気がする。ずーっとローカルニュースをやってくれたら、私は見るだろう。FASTは「イマ」を再構成しているから人気が出て広告費を稼いでいるのだと思う。

イマを再構成するプラットフォームがテレビで必要

「のぞいてニッポン」に話を戻すと、いまのところはWEBサイトのようだが、テレビで見られればいいのにと思う。テレビアプリの一つに入って次々にローカル産品や観光地など地元の魅力を紹介したら見るかもしれない。毎日はどうかと思うが、週に二、三度なら見るのではないか。それはそれで「日本のイマ」のはずだから。しかも過去のテレビ放送のように「まあまあどうでもいいイマ」が見れそうだ。番組をテレビで見ながら、ほしいと思った産物や行きたいところへの旅行をオーダーできたら言うことない。
先週7月11日に総務省の有識者会議「放送業界に係るプラットフォームの在り方に関するタスクフォース(第3回)」が開催された。放送業界におけるプラットフォームの可能性をいくつかの切り口で検討する会議だが、そこで鹿児島県の南日本放送の方がプレゼンし、その中のこのページが印象に残った。

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キー局とローカル局のコンテンツは種類が違うので同じプラットフォーム、具体的にはTVerに出せるものは少ない、と訴えている。実際、TVerに載っているローカル局の番組は、数少ないバラエティや周年で特別に制作したドラマになってしまう。
逆に言うとキー局もニュースや生活情報番組はTVerにほとんどない。つまりTVerは現状、あらゆるテレビ番組の中のドラマとバラエティに限定したプラットフォームとして成長してきた。だから「TVer=イマ」にいまひとつなっていない。もしTVerをネット上のテレビにするならニュースや情報番組も載せた方がいいのだろうし、そういう空気のプラットフォームになればローカル局が出せるものも増えるだろう。
だがもう一つの考え方として、ニュース・情報番組の別のプラットフォームが必要という方向性もある。「のぞいてニッポン」はまさにその試みかもしれないし、楽天ではなく別の事業者とのパートナーシップで別のものができるかもしれない。
先のYahoo!の記事でも書いたが、アメリカでテレビ広告市場が再活性化したのはFASTだけでも4つ5つと新プラットフォームが立ち上がりしのぎを削りあっているからだ。
テレビはイマだ。それが正しいとしたら、それを活かせる考え方で何かが生み出せるのではないか。そんな試行錯誤を、どんどんやるべき時が来ていると思う。

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