テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2022年03月号

次は「ネットのテレビはバラバラでいいのか問題」

2022年04月18日 15:58 by sakaiosamu
2022年04月18日 15:58 by sakaiosamu

 

同時配信を号令に、テレビ局の新しい取組み続々

TVerでのキー局揃っての同時配信が始まった今月、テレビ局による様々な新しい取組みが続々スタートしている。
TBSが本日始動させたニュースサイト「TBS NEWS DIG」は大きな動きとして注目だ。

これはMediaBorderで昨年取材したフジネットワークのFNNプライムオンラインのJNN版だ。TBSの人は嫌がるかもしれないが、これがいちばんわかりやすい説明だと思う。

FNNプライムオンラインはなぜ月間1億PVを達成できたのか

FNNプライムオンラインと同様、JNN系列のテレビ局が配信したニュースがNEWS DIGでも読むことができる。日本中のテレビ局が届けたニュースがエリアと関係なく読めるので、福岡県出身の私も福岡のニュースがわかるのは大変素晴らしいことだ。

一方、本日スタートしたテレビ局の新サービスでもう一つ注目すべきなのはKBC九州朝日放送が独自に同時配信を始めたことだ。こちらはその告知ツイート。

KBCは「アサデス。」という朝6時〜8時の帯番組を放送してきたが、そのアプリ上で同時配信を開始したのだ。これは意欲的な試みだと思う。ミヤギテレビの同時配信を取材した時、ローカル局は夕方の情報番組を配信すべきだと書いた。同様に朝の番組も同時配信のニーズはあるはずだ。人により朝家を出る時間は違う中で、8時まで地域の情報を摂取できるコンテンツとして、「アサデス。」をライブ配信することで助かる、という人は多いだろう。時間はかかっても徐々に受容されるのではないだろうか。

どこで何ができるか、どんどんわからなくなる

TVer同時配信を機に、各テレビ局による新しい取り組みはますます活性化しそうだ。それは大変喜ばしく歓迎すべき状況で、ユーザーに利便性をもたらすことで新たなビジネスの可能性も生まれる。こうした動きを筆者をはじめテレビに期待する人々は待っていたことだろう。

だが待てよ、と思う。こうした新サービスの多くはネットでのものだ。テレビ局はネットを活用すべしと主張していた私から見て戸惑いも感じる。それぞれどこから入ればいいのか、という問題だ。
冒頭に掲げた画像をもう一度見てもらおう。

画像 筆者のスマホのキャプチャー画像

これは筆者のスマホの3ページ目のアプリ画面だ。なんとなく動画サービス関係を並べている。いかに「ひしめき合って」いるかがわかるだろう。そして動画サービスはこれだけではない。iPhoneの一つの欠点だと思うが、画面上のアプリの整理が非常にやりにくい。こうして一つの画面にまとめるのは一苦労だし、新しいアプリを落とすと後ろの方に置かれてしまい、それをここに持ってくるのはまた一苦労だ。面倒でここに持ってきていない動画アプリはたくさんある。
こんなにひしめき合った状態でアプリを引っ張り出さないといけない。いまNHKで大河ドラマ始まってる!と思うとNHKプラスを出す。今民放のどこかであの野球の試合をやっている、となるとTVerだ。だがTVerで同時配信をやっているのは夜だけだったりする。
どのアプリで何ができて、それは何時から何時だ、なんて覚えてられるはずがない。テレビを便利に楽しんでもらうために各局がそれぞれ頑張ったら、便利に使う作業が不便になってしまった。よく言われるように、日常的に使うアプリは片手で数える程度だ。テレビアプリが増えるほど、どれもこれも片手に入れてもらえなくなる。

テレビは今からまとまらないと間に合わない

だからそろそろ、アプリを日本の放送業界でまとめることを考えていく時だ。放送を受信する際にNHK用のテレビと民放用のテレビと分かれていたら、「2元体制」は成立しなかった。アンテナさえ立てれば同じテレビでチャンネルを操作すればどのチャンネルも気軽に楽に視聴できた。だから普及したのだ。
だったらTVerとNHKプラスなんて分けてやってる場合ではないだろう。テレビは若者から見放され大ピンチだからネットで配信するのではないのか。とっとと同じアプリに統合するべきに決まっている。
同様に有料サービスもhuluだParaviだFODだと別々にやってる場合だろうか。ただでさえNetflixとAmazonプライムビデオのユーザー数が国内事業者を圧倒している。筆者も申し訳ないが国内テレビ局のSVODはhulu以外解約してしまった。この辺で一つにならないと、全員が損することになりかねない。真剣に考えるべき時なのだ。

「FNNプライムオンライン」は良い取組みだと思っていた。だがここへ来て「TBS NEWS DIG」がスタートすると、これ2つも3つも必要なのか?と感じてしまう。ネットワークごとのニュースサービスをそれぞれ進める意義は何だろう?インナー的意味しかなく、ユーザーからすると「どっちでもいいけど」というのが本音だと思う。「報道のTBSだから」などと今さら言う人はどれくらいいるだろう、いや、いない。

一方、最近強く感じることがある。ニュースとして括られて届く記事の質があまりにも違うことだ。筆者はスマートニュースを使っているが、迂闊にテレビ番組に関する記事を開いていたせいか、テレビに関するどうでもいい記事ばかり並ぶようになった。Yahoo!ニュースには”女子アナ”の結婚だけでなく妊娠の記事まで頻繁にトップに出てくる。そんなのニュースでも何でもないだろう。世の中にはロクでもない記事がいかに多いか、スマホを使うようになって思い知った。

一方、一時期はローカル局がスマートニュースの仲間入りしたことが喜ばしげに伝わってきた。だがFNNオンラインに加えてTBS NEWS DIGまで登場したら、スマニューとは別にテレビニュースのポータルを作ればいいのにと言いたくなる。そうしたらスマニューやYahoo!ニュースに飛び交う、スポーツ紙のコタツ記事を目にする必要がなくなる。なんなら新聞社の記事も加えて、真っ当なニュースだけが載るアプリを作ってくれないだろうか。
別にスポーツ紙は世の中に不要だと言ってるわけではない。筆者の預かり知れないところで流通してくれるのはかまわない。ただ、「ニュースをまとめる」動きにようやくテレビ局が取り組みはじめたのなら、スマニューやYahoo!にまともなニュースを提供する必要なんてないんじゃないのと言いたいのだ。「うちのニュースもスマニューに載る事になりました!」そんなことで喜ぶ前に、テレビ局で力を合わせて真っ当なニュース空間を作ればいいのにということだ。もはや、プラットフォーマーの力など借りなくても、ネットに出る覚悟ができたのなら自分たちがまとまってクローズなプラットフォームを作ればいい。それが評価される時代になりかかっていると思う。

と、前向きな主張を書いてみたが、実際にそんなことになるにはまた5年も6年もかかるのだと思う。なにしろ同時配信でさえ、議論が始まって5年も6年もかかってNHKと民放キー局が別々にはじめて、なおかつローカル局がどうするかは誰も何も決めていないのだから。そうやって互いに競争し合っているつもりで、実際にはより大きな競争相手が眼中に入らず後退していくことになる。これまでのあらすじをもとに考えると、そう考えざるをえない。

とたいそう後ろ向きなことを書いておいて、極めて前向きに放送の未来を考えるウェビナー、いよいよ今週開催だ。よかったらご参加ください。

申し込みは、こちら。

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