テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2020年01月号

「この国の放送通信融合は待ったなし」ってどれくらい待ったなしかイメージしてみよう

2020年01月14日 15:25 by sakaiosamu
2020年01月14日 15:25 by sakaiosamu


人口ピラミッド図の出典:国立社会保障・人口問題研究所ホームページ (http://www.ipss.go.jp/

NHK同時配信は本日、総務省の電波監理委員会で認可され実現する運びとなった。認可されれば明日1月15日のNHK経営委員会で予算案が決定され、それが月内には国会で承認される流れだと聞く。4月からNHKはネットでの同時配信をめでたくスタートすることになる。

「NHK同時配信、条件付きで認可へ 高市総務相が表明」(朝日新聞・1月14日)

ただし上の記事にもある通り、予算などの制限がついた。具体的には、予算を受信料収入の2.5%に収めるために、深夜早朝は同時配信を行わないことになるようだ。同時配信を常時できるように法改正されたのに、実際には常時ではない不思議な決着となった。

ここに至る流れはMediaBorderで失望しながらお伝えしてきた通りだ。筆者が印象に残っているのは、年末26日の昨年最後の諸課題検討会で、ある構成員が「制限をかけるのは誤り。今からでもここで議論すべきだ」と強く主張したのを高市総務大臣がさらりとかわし「放送通信融合が待ったなしなのは承知してます」と言ったことだ。だったらどうして待ったをかけたのか。結局、高市大臣も総務省も、そして高市大臣に影響を与えた民放の人びとも、どれくらい待ったなしかがわかってないのだなと受け止めた。

そこでここでは、なぜ放送通信融合が待ったなしなのかを解説したい。

中高年と若者世代でメディア接触は「分断」している

まず上の図を見てもらいたい。国立社会保障・人口問題研究所のWEBサイトにある2020年の人口ピラミッドに、ざっくりした「テレビ世代」「ネット世代」の区分を重ねたものだ。

テレビ世代とネット世代の区分は厳密にはスパッと分けられるものではない。ただ団塊ジュニアは76世代とも重なり、2000年代に初めてネット文化を形成した世代だ。大人になるまでは丸切りテレビ文化に浸ったが、成年と同時にネットを手にした。2ちゃんねるやはてななど日本独自のネット文化を生み出した中心世代だ。だからこの辺りは端境期の世代で、テレビ世代でありネット世代でもある、と言っていいと思う。その下、今の30代になるとネット世代であるとここでは区分している。もちろん30代でもテレビをよく見る人はいるので、実際にはグラデーションがかかっていると受け止めてほしい。

20代になるとほぼネット中心に暮らしている。もちろん20代だってテレビを見ないわけではない。ただ、「つけてはいる」とか「ついている」と言った方が現状に近いだろう。今は若者が見る番組がほとんどないからだ。彼らは積極的にはテレビを見ていないのだ。逆に彼らは上の世代よりずっと能動的にネットに接している。彼らにとってはテレビは親のメディアであり「自分たちのメディア」ではないのだ。

上の図から2つ、感じ取ってほしいことがある。よく団塊の世代が大きいと言われるが、こうして見ると団塊ジュニアもかなりの重量があるのがわかると思う。今のテレビ視聴は、定年後の団塊の世代とともに、現役でかろうじてテレビに馴染んでいた団塊ジュニアが支えているのだ。両団塊世代が今のテレビ視聴のメイン顧客となっている。

世帯視聴率を取るのはまず団塊世代だ。だから高齢者向けの番組が視聴率を取りやすい。そしてそこにはスポンサーから見るとあまり魅力がないのはMediaBorderで何度も記事にしてきた通りだ。

そして団塊ジュニアも重量が大きい。最近個人視聴率が大事だとようやく言われるようになったが、そこで浮上するのがこの層。例えば「イッテQ」のメインはここだ。彼らが見て、その子どもたちが見るので、個人全体視聴率に大きく作用するのだ。注意したいのは、彼らももう40代半ばだという点だ。

感じてほしい2つ目は、ネット世代のボリュームだ。意外に大きくないだろうか?もちろん人数を数えたら団塊世代+団塊ジュニアのテレビ世代の方が圧倒的に多い。だがネット世代はもはや無視できない大きさになっている。若者はマイナーだ、と言われたこともあったが少し違っている。

それは、10年前の人口ピラミッドを見るとよくわかる。


人口ピラミッド図の出典:国立社会保障・人口問題研究所ホームページ (http://www.ipss.go.jp/

同じようで、上とよく見比べると随分違う。2010年ではネット世代は小さい。上の世代を重そうに支える「半地下の家族」のようだ。筆者が言いたいのは、ネット世代がマイナーな存在だと無意識的に我々が感じているのではないか、ということだ。2010年のイメージで現在を捉えると大きな間違いになってしまう。

つまりネット世代はもう、マイナーではないのだ。メジャーなのはテレビ世代の方ではなく、すでにネット世代の方なのだ。

敏感な人びとがいま、テレビからネットへ着々とシフトしている。いつのまにか、著名タレントがYouTubeで配信を始めている。先日の「ワイドナショー」でヒロミがYouTubeチャンネルを持ったと言っていた。少し前はキングコングの西野やカジサックがテレビでは見なくなったがYouTubeで盛んに発信していると伝わってきた。それが今は、テレビを中心に活動しているタレントが並行してYouTubeでもチャンネルを持っているのだ。テレビとネットのハイブリッドな時代に移行した。

企業も敏感に感じ取っているから、スポットを減らしてネットに予算を「移行」している。宣伝部の人びとに聞くと「いやー!今もリーチはテレビが一番ですよ!」と答える。ところが予算はネットにシフトしているのだ。ヒロミだってきっと「いやー!別にテレビに出るのをやめる気はないからね!」と言うだろう。

テレビを捨てたわけじゃない。ハイブリッドになっただけ。そんな動きでも、テレビ局にとっては大きなマイナスに今なっている。 

これが10年後にはどうなっているか。

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