テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2017年02月号

テレビ局がデータを駆使すれば、視聴率アップに役立つかもしれない。セールスに使えるかもしれない。

2017年02月03日 13:32 by sakaiosamu
2017年02月03日 13:32 by sakaiosamu

この記事では、1月19日に行ったSSKセミナー「視聴データから見えるテレビの価値」の内容を元に、様々に登場している視聴データについて書いておきたい。

昨年10月にタイムシフト視聴の調査が始まってから、様々な視聴データとその分析について語られるようになってきた。テレビ局自身も、これまでの世帯視聴率に加えて多様なデータの分析に取り組み始めたようだ。

プレゼントキャスト社が運営する映像メディアに関しての情報発信サイト「Screens」に先日、TBSマーケティング部が「逃げ恥」について視聴率とタイムシフト視聴率、総合視聴率にTVerなど見逃し配信の再生数を重ねたグラフで分析に取り組んだことが記事になっていた。

→「『逃げるは恥だが役に立つ』配信数と各種視聴率の推移」(Screens/1月20日)

この中でTBSマーケティング部の吉田裕二氏は「少なくとも『逃げ恥』では、キャッチアップ配信の視聴がRTを阻害するのではなく、『最終回の11話をいち早く見たい』というリアルタイム視聴意向につなげた……と考えられます」と語っている。見逃し配信はリアルタイム視聴と”カニバる”のではないか、と言う人がいたが、”少なくとも”と言葉を選びつつだがむしろリアルタイム視聴を促進することがデータから見えたと言っている。当たり前のようで、明確にこういう発言がなされた意義は大きいと思う。

さてここでは、データ分析から「見逃し配信をプロモートすればリアルタイム視聴に繋がるかもしれない」ということが見えた。私は、データ分析の効用は大きく2つの可能性があると考えている。

上記のように視聴率を上げるために役立つ可能性。そしてもう一つは、スポンサーへのセールスに使える可能性だ。この2つの可能性を考える上で、パーチェスファネルの考え方が有効だと思っている。

広告コミュニケーションでは、最初に「認知」した商品について「興味関心」を持ち、「比較検討」して実際の「購入」に至る、という整理ができる。徐々に数が減っていく様子が「漏斗」状に見えるのでパーチェス(購入)ファネル(漏斗)と呼ばれる。これまではテレビで「認知」させ、新聞・雑誌で「興味関心」「比較検討」してもらって、店頭やネットで「購入」に至っていた。 だが今、新聞雑誌の広告媒体としての役割が後退しており、そこもネットが担う方向性にある。

このファネルを頭に置いてもらった上で、実際のデータを見ていきながらもう少し具体的に考えてみよう。

視聴データ分析から視聴率アップ戦術を考えられる?

テレビがネットとつながり、各メーカーはパーミッションを得たユーザーの視聴データを集めて販売しはじめている。「視聴ログ」と呼ばれるこれらのデータは、テレビ視聴のビッグデータであり、放送と広告の分析に今後、大いに使われるようになりそうだ。

東芝映像ソリューションでは、REGZAの購入者が、テレビや録画機を通じてどの番組を見たかのデータを収集し分析している。その成果をWEBで公開したり、セミナーなどで発表したり積極的にアピールしている。

視聴ログからは、これまで我々がテレビの見方について勝手に考えていた固定観念とは違う視聴の姿が見えてくる。例えば、ある番組の世帯視聴率が上がっていくと、単純に視聴者の数が増えていったのだと捉えがちだ。だがそう単純ではないことが、視聴ログからわかる。

東芝企業サイト内「TimeOnブログ・2016秋ドラマ集計」より

この表は、大ヒットとなったTBS「逃げるは恥だが役に立つ」の第1話を見た人(台)がその後の回で何を見たかを示している。かなり驚きではないだろうか。視聴率が少しずつ上がっていったのだから単純に上乗せされたと思いがちだが、実際には第二回は半分が”逃げて”いるのだ。残りの半分のうち多くは他局を見ている。さらに2000人(台)以上はそもそもテレビを見なかった。

視聴者とは実はこんなにうつろう存在なのだ。自分のテレビ視聴を考えると当然で、いかに「逃げ恥」が面白くても、11回欠かさずリアルタイム視聴するのは、働く者なら無理だろう。

この視聴ログをビデオリサーチの視聴者パネルに丸のまま当てはめることはできないが、大まかには同じような傾向があるだろう。結局は、同じドラマを次回も見るかどうかは、在宅かどうかや、ザッピングした結果や、他局の番組に大きく左右されるのだ。

テレビ番組のプロモーションは、新しく始まる時に告知して、あとは番組の魅力次第という展開になるのが普通だと思う。だが視聴ログを見比べることで、視聴者の「出入り」がわかる。固定的な視聴者が多いのか、出入りする視聴者が多いのか。それによって、途中でプロモーションすることで効果をもたらす可能性もある。

「コンテンツマーケティング」という広告戦術が最近よく言われるが、「逃げ恥」の恋ダンスはまさに、番組とは別の動画によるコンテンツマーケティングの最たる例だったと言える。であれば、他の番組でも”スピンオフ”的なコンテンツを切り出してネットで見せることで、視聴率を活性化する戦術も成り立つのではないだろうか。

もう一つ、「逃げ恥」の例で重要なのがTVerはじめ見逃し配信で非常に多く視聴されたことだ。

私は別の記事でこういう図で説明したのだが、「逃げ恥」では恋ダンスを起点にこんな経路で視聴率が増えたと考えている。つまり、TVerを受け皿にしたプロモーションを展開することで視聴率アップに結びつく可能性を、「逃げ恥」は示したと言えるのだ。見逃し配信の再生数データを分析することで、この方向性も効力が出てきそうだ。

またこうした複数のデータの相関性を見るには、「シングルソースパネル」と呼ばれるデータが必要になる。特定の視聴者がTVerを見たあとテレビを見たのか、などを「シングルソース」単位で追う調査形式だ。ビデオリサーチは「VR CUBIC」というサービスでそれを可能にしている。またインテージは「i-SSP」というシングルソースパネルでの調査を提供している。使ってみると、視聴者の「うつろう」行動が見えてくるだろう。

以上も「ひとつの考え方」に過ぎないが、大事なのは、視聴データを分析することで視聴率アップの方策を議論することができる、という点だ。世帯視聴率とは"結果"なのだが、その結果に結びつけるヒントが、ビッグデータには見出せる可能性がある。

スポンサーへのセールスに視聴データが役立つ

テレビ番組の視聴率は例えばゴールデンで5%だと「悪い」と言われてしまうだろう。だが、5%の世帯を毎週集めている番組は本来マーケティング的には非常に大きな価値があるはず。単純計算して(日本の世帯数をざっくり5000万世帯とすると)250万世帯を毎週集めるなんて、ネット上で考えると途方もないことだからだ。

さらに、その250万世帯がどんな世帯かがわかると、スポンサー企業にとって非常に魅力的な”見込み顧客”である可能性も出てくる。

スイッチ・メディア・ラボは”もう一つ別の視聴率”を提供する事業者として登場した会社だ。「SMART」と呼ぶ視聴データ分析サービスは、契約すればWEB上でデータを閲覧できる。関東のみだが約2000世帯のサンプルを持ち、視聴率を最短2分後に表示する。

だが彼らの最大の強みは、サンプル世帯をあらかじめ属性分析してあることだ。家族構成や年収から価値観や恋愛観に至るまで160項目であらかじめ集計区分してあるという。「〇〇〇〇な傾向を持つ人」がどんな番組を見ているのか、ある番組をみる人にはどんな傾向があるのかがわかるわけだ。

スイッチ・メディア・ラボ企業資料より

例えばこの図は、ゲームをよくする人がどの局のどの時間帯を見ているかの、いわゆるヒートマップだ。NHKが薄いのはいたしかたないとして、意外にフジテレビが非常に濃い。これを見ればゲーム会社はCMをこの赤いところを中心に打ちたくなるだろう。

一方TSUTAYAを運営するCCCグループのCCCマーケティングでは、Tカードの購買データと東芝の視聴ログを組み合わせた分析サービスを提供している。どんな人がどの番組を見て何を買ったかが示せるのだ。こちらもスポンサーへのセールスに活かせそうだ。

ある商品のCMをどんな枠で流したかと、その商品がいつ購入されたかが一目瞭然になるのだ。

こうしたデータは視聴率が今一つの番組のタイム枠や、売りにくい時間帯のスポット枠のセールスに役立つ可能性がある。

これまでテレビ局は「世帯視聴率」とさえ向き合っていればよかった。だがこれからはその世帯視聴率と向き合うためにも、新たな視聴データが必要になってくる。世帯視聴率が直接売上に結びつく指標だとすれば、その売上を上げるために見るべきデータがあるということだ。

番組づくりにデータは役に立たない、とよく言われる。それはひとつの覚悟だと思うが、それとは別に企業活動にはデータが欠かせない時代だ。どんなデータがあるのかだけでも、知っておいて損はないと思う。

 

※各データサービスの概要とお問い合わせはこちら

→東芝テレビ視聴データ分析サービス

→スイッチ・メディア・ラボ

→CCCマーケティング(それゆけテレビ探偵団)


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