
『この世界の片隅に』を読者のみなさんは見ただろうか。戦時中に、広島から呉に嫁いだごく普通の女性の日常を、素朴なタッチで丁寧に描いたアニメ作品だ。小規模な公開でスタートしたが徐々に上映館が広がり、興行収入10億円が見えてきた。『君の名は。』の空前のメガヒットがあった一方で、規模は違うがこちらも異例の大ヒットとなっている。
この映画の製作は株式会社ジェンコ、プロデューサーは同社社長真木太郎氏がクレジットされている。実は筆者は真木氏を前々から知っており、興行面が見えてからインタビューしようと思っていたら、この映画にどうやら各マスコミはかなり注目したようで、監督だけでなく真木氏のインタビューも続々出てきた。
出遅れてしまったが、あらためて真木氏にインタビューをお願いした。この映画は製作委員会の出資者を集めるためのパイロットフィルムの費用をクラウドファンディングで募ったことも話題になった。聞きたかったのは、それが製作や宣伝にどう影響したのかだ。今後のコンテンツビジネスを考えるうえで、大きなヒントがそこにあると筆者は感じている。そんな思いで、ジェンコのオフィスを久々に訪れた。
真木氏とは旧知の間柄なので、友だちに話す感覚で私にしゃべってくれている。そのライブ感をできるだけそのまま文章化したくて、会話をあえて丁寧体に直していない。かなりの長さだが、ぜひじっくりお読みください。
---今年は『シン・ゴジラ』『君の名は。』と、ソーシャルメディアが大きな役割を果たしたヒット作が続いて、『この世界の片隅に』もひょっとして同じ流れで"来る”のかな?と見ていたら、ホントにそうなりました。
真木:昨日もある人と話していて、あとで振り返って「○○元年」になるのではと話してたんだよね。ひとつは作家性がヒットを生んだ元年。庵野さんも元々はアニメ系、新海さんはインディペンデントでアニメをやってきた。片渕監督(『この世界の片隅に』の片渕須直監督)も含めて、強い作家性を持つ監督の作品が立て続けに話題になった。もうひとつは映画でのソーシャル元年。はからずも作家性の強い三人が口コミ、アナログの口コミも含めてぜんぶソーシャルメディアで括っていいと思うんだけど、その口コミに支えられたという共通点があるでしょう?
---そういう声が広がるようになったんですね。人びとの声が興行を大きく動かすようになった。
真木:『この世界の片隅に』と他の二作とは、ヒットの桁が違うから一緒に並べるのはおこがましいけど、そういう気がします。
---『この世界の片隅に』は、何をすることでヒットしたんでしょう?(ここから先は、登録読者のみ)
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