テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2023年09月号

「やまだかつてないニュース」という報道番組があってもいいと思う

2023年09月25日 08:40 by sakaiosamu
2023年09月25日 08:40 by sakaiosamu

久しぶりの『AbemaPrime』で山田邦子さんと”共演”?

9月19日(火)夜のABEMAの番組『AbemaPrime』に呼ばれて出演した。「報道番組に芸能人は必要か?」というテーマで専門家として意見を言って欲しいという趣旨だった。
『AbemaPrime』にはABEMAが立ち上がった2016年に数回出て、しばらく間があって去年も一度出演したことがある。その時はまだコロナ禍が落ち着いてなかったので私はZoom出演だった。今回は久しぶりのスタジオでの出演。
『AbemaPrime』は毎日、テレビ朝日のアナウンサー、平石直之さんが仕切っている。錚々たるメンバーによる、時にはハラハラする過激なテーマの議論を、発言をうまく切ってぐいぐい進めている。毎晩やってるなんてスゴいなといつも感心してしまう。昨年はInter BEEのプレセッションで登壇いただいたので面識がある。
そして火曜日のMCは田村淳さん。最初の依頼の時点で淳さんがMCの回なら出たいと思い、受けることにした。自分の主張はしっかり押し出した上で人の意見も聞く人だなといろんな番組で感じていて、安心できると思ったのだ。
そしてこの日は、山田邦子さんが出ると聞いて、びっくりした。80年代に20代を過ごした身としては、彼女のスーパースターぶりをずっと見てきた。同世代のヒーローだとも感じていた。聞いたところでは、山田邦子さんの方から報道的な番組に出たいとオファーがあったそうだ。
『AbemaPrime』は2部制で私が出たのは後半。前半を控室でチロチロ見ていたら、乳がんを患ってピンクリボン運動に関わったそうで、社会的な運動の広げ方について意見を述べていた。言いたいことがあっての出演なのだなと理解した。

一方で、サービス精神も旺盛。1部と2部の間で「葉笛」を披露したり、2部の最後ではお天気お姉さん穂川果音さんとからみ、懐かしいバスガイドネタを披露していた。松田聖子を見て「ぶりっ子」という言葉を作った話もしていた(みなさん知ってるかな?)。
番組終了後、恥ずかしげもなく(いや、恥ずかしかったが)山田邦子さんにサインをお願いしたら「写真も撮ります?」と言ってくれたので撮ってもらったのがトップの写真だ。記事に使ってもいいですかと聞いたら、いいですよーと言ってくれた。いただいたサインも自慢しよう。

著名人に色紙にサインをもらったのは長嶋茂雄さん以来だ

「報道番組」は転機を迎えている

さてここからは番組で言ったことに、言えなかったことも加えて「報道番組に芸能人は必要だ」という話を書きたい。
とりあえず番組での議論を見てみたい方はYouTubeでどうぞ。

パックンがあえて「芸能人は要らない」立場で頑張り続けるのがえらいなと思った。パックンも”芸人”なのに番組を盛り上げるためにその立場を取ったのだ。そして平石さんが思わぬところで熱弁したのも面白かった。
錚々たるメンツの激論が続く中、なかなか主張するタイミングを掴めなかったのだが、最後の方でやっとまとまってしゃべることができた。
まず「報道番組」にもいろいろあって、芸能人を入れない方がいいものもある。いつだったか『クローズアップ現代』にコメンテーターとしてカンニング竹山さんが出たことがあり、これは違和感ありすぎだった。竹山さんも困りつつ喋っていたように思う。さすがに『クロ現』にはもう出なくなったが、NHKは芸能人を出しすぎだ。
私が言いたいのは、夜の帯のニュース番組に、毎回新聞社や通信社のえらい人が出ることへの疑問だ。テーマごとに”専門家”が出るならわかるが、なぜ新聞の人たちなのか?あるテレビ誌編集者にこの日の出演に備えて聞いた情報だが、帯のニュース番組に新聞社のコメンテーターがついたのは『ニュースステーション』の小林一喜氏が最初だったようだ。それ以来、ニュースには中年のキャスターと新聞社のコメンテーター、そして若い女性アナウンサーがアシスタントのようにつく、という構図ができあがったのではないか。
それが崩れたのはごく最近で、日本テレビ『News zero』は明らかに違うパターンを編み出して成功した。もう、いままでのニュース番組のやり方を変えるべき時なのではないか。そうしないと、若い世代から見離されかねない。
さらに言うと、テレビは2016年ごろからの数年間、おかしかった。文春砲が取り上げた「悪者」をネット世論と一緒になって叩きまくった。「悪者を見つけては叩く」のがパターンになり、森友問題もタレントの不倫も一緒くたに叩きまくった。ギスギスした空気が朝から昼、午後、夕方、夜までテレビに漂って、見てられなくなった。ワイドショーだけでなく、当時は報道番組も同じような空気に流されていたように思う。
それからコロナ禍を経て、ずいぶん報道番組のトーンは変わった。朝ギスギスした空気を各局がこぞって放っていたワイドショーがいくつかなくなり、残るワイドショーもずいぶん穏やかになった。
報道番組は変わろうとしているのだ。また、ワイドショーはもうなくなりつつあるか、長年のワイドショーとは別のものになろうとしている。

課題解決を「話す」のがテレビの役割

そんな流れの中で私が言いたいのが、こういうことだ。『AbemaPrime』でボードにしてくれた。

『AbemaPrime』配信画面よりキャプチャー

報道の使命について、いの一番に挙がるのが「権力監視」だ。それは必要なことだと思う。例えば24日(日)に放送されたNHKスペシャル『”冤罪”の真相』はまさに公安の不当な逮捕の裏側を炙り出す素晴らしい番組だった。報道機関の面目躍如というところ。
一方で、やたら政治や行政のアラを探し、いろんな問題をそのせいだと言いたがる姿勢に陥りがちな報道番組もあると思う。そうなると、共感を得られない。一部の番組は、放送されるたびに「偏っている」とSNSが荒れる。
批判だけ聞くのはもう飽きた。だってそれでは何も解決できなかったではないか。少子化について政府の批判ばかりしていても解決できない。日本の給与水準が上がらないのは、政治の責任もあるが、批判してるだけでは上がらない。
課題の解決は、私たち自身で見出すしかないのだ。政治家なんかアテにしても仕方ない。だからと言って、一人では解決できない。いろんな人の知恵を集めて「話す」ことが大切になっている。一度や二度話すだけでは解決できないが、何度も話すことで解決の糸口が見えてくる。あそこに出口があるのではと希望を見出すことができる。
そして何より「話す」様子を番組を通してたくさんの人たちと共有することができる。共有することそのものが、解決に向かう潮流を作る。少なくとも解決しなきゃという空気を作ることはできる。
「話す」時に欠かせないのが上のボードに書いた(楽しくね)の部分だ。これがないと、共感されないし広がらない。議論はともするとギスギスしがちで、それでは広がらずに閉じてしまう。「そうだそうだ!」と激しく言い合うだけでは賛同者同士で閉鎖的になるだけだ。
(楽しくね)が議論への入り口を作る。共感のきっかけができる。それができるのがテレビで「話す」ことに慣れた芸能人たちだと思う。「話す」ことにはテクニックが必要で、私が田村淳さんや山田邦子さんを相手にしゃべれたのも、テレビの真似をしているからだ。
実は日本のテレビ番組は「話す」技術をずいぶん磨いてきたのだ。作り手も同じで、だからどのテーマにだれを呼べばいいか、どう進めればいいかもわかっている。
山田邦子さんをメインにした報道番組があってもいいのかもしれない。彼女は「言いたいこと」を持っているからだ。『やまだかつてないニュース』と名づけてどこかでやってほしいと思う。世の中が動く番組になるのかもしれない。テレビが培ってきたものは、これからそんな方向で成長するのではないか、と私は思うのだがどうだろう。

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