テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2023年02月号

もう一度、テレビを発明せよ

2023年02月07日 09:54 by sakaiosamu
2023年02月07日 09:54 by sakaiosamu

 

テレビ番組がダメなのではない

テレビ局が今、窮地に陥っているのは、よく考えるとおかしなことだ。テレビは見られなくなっているが、見られてもいる。放送が不便というだけで、TVerでドラマを毎週見る人は相変わらず多い。バラエティには個人的にいろいろ言いたいこともあるが、総じて若者は嫌ってはいない。何より、政治経済にしても事件や芸能ゴシップにしても、テレビ画面に登場して初めて広まる。これほど影響力の高いメディアはないのだ。
若者はスマホが手放せず、スマホで映像を自在に視聴するが、同じ映像なら大きな画面で見る方がいいと言う。放送が嫌われているというよりライフスタイルに合わないだけで、テレビ番組やテレビ受像機が総スカンを喰らっているわけではないのだ。
番組がダメなのではなく、テレビ業界が放送の不便さから目を背けていただけだ。何らかのイノベーションが必要だったのに怠け続け、居心地の良さに甘えていた。もっと早く、改良に取り組むべきだった。
テレビに今、必要なのは番組の作り方を変えることではなく、番組の届け方を見直すこと。「時間に沿って放送する」仕組みを作り直すことで、言ってみればテレビには再発明が必要なのだ。

放送→VOD→FAST

テレビはすでに、何度か再発明されてきた。時間通りに電波を使って届ける「放送」は、映像に限らず何でも好きなものを好きな時に取り出せるネットによって不便なものになった。
だから「VOD」が発明された。好きなコンテンツを好きな時に視聴できる。放送よりずっと便利なテレビだ。アメリカではDVD宅配という地味なサービス事業者だったNetflixが配信に事業を切り替えた。2007年のことだ。
それが2015年に日本にもやってきて世界を席巻。YouTubeと共にテレビ画面でも徐々に使えるようになり、2020年代に入ると「放送」を明らかに侵食してきた。
2010年代にアメリカではFASTサービスも立ち上がって成長を始めた。VODの大きな欠点「選ぶ面倒」をクリアし、コンテンツをカテゴリーごとにリニアで配信し始めた。感覚としては放送に近くリラックスして視聴できる。それでいてスポーツやドラマやニュースなど、好きな分野を見ていられる。「選ぶ面倒」を解決した配信サービスだ。放送よりVODより新しい。アメリカはFASTも発明したのだ。
その間、日本の業界は誰も何も発明してこなかった。VODはこの10年間ほどでアメリカの発明を真似したり、アメリカの会社を買ったりしてそこそこ成長してきた。やっと日本のVODも整ってきたがNetflixやDisney+には勝てそうにない。無駄に乱立して立ち往生しているように見える。
FASTに至ってはようやく知られるようになってきた段階で、まったく何も始まっていない。
いや、たった一つ「発明」したプレイヤーがいる。サイバーエージェントが始めたABEMAだ。毎年100億円だかの赤字を出しながら平気な顔で続けている。
気づいてみるとABEMAはライブ配信でありVODでありFASTだ。ひょっとしたらテレビ朝日に限らず全キー局、そしてローカル局も含めてABEMAをプラットフォームと考えてみんなで乗っかった方がいいのではないか?
一番先に考えて、一番先に荒野を切り開いた者こそが次の時代の覇者になる。だったらABEMAを勝者と定義づけて、全員でこの船に乗る。検討には値すると思うがどうだろうか。

ただ一つ残る大きなネック「バカな壁」

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