テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2021年07月号

TOKYO2020で、ようやく放送と通信は融合したが・・・

2021年07月28日 11:34 by sakaiosamu
2021年07月28日 11:34 by sakaiosamu


※画像はテレビ画面上のTVerのオリンピックページより(肖像権著作権に配慮し、一部にぼかしをかけています)

オリンピック真っ盛りの7月下旬、コロナ禍で家に閉じこもり、朝から晩まで各競技を観戦する人も多いだろう。筆者も、家での作業で一息ついたらテレビをつけ、夜は各種競技をザッピングしては「メダルの瞬間」を探し回っている。

この「瞬間の共有」こそがオリンピックを放送で見る醍醐味だと思う。筆者は正直、スポーツ観戦には興味が薄い方だが、それでもオリンピックのために時間を割くのは「瞬間を見たい、共有したい」からだ。「女子ソフトボール日本チームが13年ぶりに金メダルを取る瞬間」を見逃すまいと、ほぼ勝利が決まった試合の最後を見届ける。数分後のハイライトで見てもいいのを、その瞬間をライブで体感しようとするのだ。

そんな視聴者の欲求に応えるべく放送はオリンピックに対してあらゆる努力をする。民放は通常のプログラムを放り出して割り当てられた競技を放送するし、NHKはEテレやBSまで使ってマイナーな種目も放送する。

そしてまた、オリンピックのために放送は進化してきた。放送がオリンピックを発展させてきたし、その逆でもあった。またそこから利権も生まれてきた。両者は一体となって20世紀を走ってきたのだ。国家と国民の意識を形成してきたし、世界にどんな国があるかも知らしめてきた。時には政治対立が反映され、国際関係を知る場にもなった。

そんなオリンピックと放送の濃厚な関係を、新たな局面に導くのが配信だ。

TOKYO2020は、長い間進むのか進まないのかはっきりしなかった「放送と通信の融合」を一気に本当のスタートに至らしめた。

もちろん、これまでもオリンピックはネットでの配信を進めてきた。gorin.jpを舞台にして、またNHKも独自に、オリンピックが「ネットでも見れる」環境を作ってきた。ネットならではの多様な視聴法も提供してきた。

それでも今回のオリンピックが「本当のスタート」だと筆者が書いたのは、おそらくかなりの数の人々がテレビでの配信を視聴しているはずだからだ。

2020年はテレビ受像機が配信に解放された年だった。電通・奥律哉氏の言う「一周まわってテレビ」が多くの家庭で起こったのだ。テレビのネット結線率は5割を超え、家のテレビでYouTubeやNetflixやHuluを見るのが当たり前になった。コロナ禍でステイホーム生活が続く中、結線されたテレビで配信サービスを見る時間は、放送を見る時間の1/4にまで達するようになった。

その状態でオリンピックに突入し、見逃した競技を「そうだ配信で見れるはず」と直感した視聴者は多いだろう。そして実際、TVer上でgorin.jpのコンテンツを視聴することができた。筆者も見逃した柔道の金メダルの瞬間や、注目していなかったサーフィンのメダル獲得シーン、そして彼ら彼女らへのインタビューをTVerで見ることができた。見るたびにいきなりCMが流れて当初面食らうが、そういうものだと認識すれば15秒だか30秒だか待てばいいと割り切れる。

「放送と通信の融合」にはプロセスがある。まずは放送された番組をネットでいつでも視聴できるようにする段階。これは「見逃し視聴サービス」の形で2010年台半ばから実現されるようになった。その次が、その見逃しサービスをテレビで視聴できるようにする段階。本来はこれも同じタイミングで実現すべきだったのだが遅れていた。それが昨年のコロナ禍が後押しし、またようやく見逃し配信サービスが一部のテレビ受像機でデフォルトで使えるようになり、実現が始まった。その完成形が、TOKYO2020だったのだと言える。テレビは放送後でも、ネットでもテレビでも視聴できる。そういう状態が確立され、多くの人がそう認識した。

「放送と通信の融合」のプロセスを書いたが、次にもう一つ、重要なステップが残っている。放送されている番組を、ネットでも同じタイミングで見ることができる段階だ。いわゆる同時配信のステップ。見逃し視聴については、テレビとネットでほぼ同じことができるようになった。放送そのものもテレビとネットで同じにならなければ「融合」は完成しない。

すでにNHKは同時配信を行なっているわけだが、民放もこの秋にこぞって同時配信をスタートさせるとのもっぱらの噂だ。そこまで来れば「放送と通信の融合」は完成される。

だが気になるのは、この完成は関東圏だけの話だ。同時配信を行うのが在京キー局だからだ。関東以外では、時間帯によってはテレビと違う番組がネットで配信される。ということは、融合の完成は関東だけの話で、それ以外のエリアでは「放送と通信の非融合」になってしまう。せっかくネットでテレビが見れるようになったのに、天気予報で東京が晴れだ雨だと言われても青森の人には役立たずだ。

この秋の民放の同時配信は、関東以外の視聴者は置いてけぼりで始まってしまう。これはキー局、ローカル局、双方の怠慢と言われても仕方ない。オリンピックについては、ネットを取り込んでさらに進化したテレビが、奇妙な進化を遂げようとしている。

 

 

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