テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2023年03月号 vol.94

「NHK受信料の研究」を研究してみた

2023年03月02日 15:22 by sakaiosamu
2023年03月02日 15:22 by sakaiosamu

新潮新書から「NHK受信料の研究」という本が出たのでさっそく買ってみた。私の周囲では特に話題になっている感じはないが、読んでみると大変面白く、また貴重な情報満載だった。NHK、そしてメディアの今後について考えてみたい人は一度眼を通しておくべき書籍だと思う。受信料に限らず「NHKってなんでここがこうなんだろう」とちょっと気になっていたことが「そういうことだったのか」と理解できる。おそらくNHKの人でさえ知らないことがたくさん書かれているんじゃないか。
また、文章の端々に、筆者・有馬氏のNHK嫌いがあからさまに滲み出ているのも面白い。この点はNHK関係者には不愉快だろう。私は、そういう部分はにやにやして読んでいた。ああ、有馬さんはよほどNHKが嫌いなんだなあ。そんな人間味が漏れ出ているのも、この本の魅力の一部になっている。

NHKは「私設無線電話施設者」からはじまった

NHKはラジオ局としてできた東京放送局、大阪放送局、名古屋放送局の3つが合体して日本放送協会になった、というところまではメディアを考える人なら知っているだろう。そこでふと、あれ?じゃあ最初は公共放送だったの、そうじゃなかったの?と思う。思うけど、まあいいやと素通りする人がほとんどではないか。
有馬哲夫氏はそこを詳しく教えてくれる。電波は元々国が使うもので軍事目的が主だった。それを民間でも使っていいことにして、「私設無線電話施設者」ができた。それが3地区の放送局だったのだ。この時、海外でのラジオ放送の成功を知って数多の事業者が手を挙げたが、営利目的の企業を排除して公共目的に限定し、3地区で1つずつに集約したという。公共放送がそこに生まれたのだが、「私設無線電話施設者」という分類はなんだか微妙だ。ユーザーの側も無線電話を購入した。それがラジオだ。これを使うにはまず、電波管理局に受信許可を願い出る。この際には住所氏名と設置場所、受信機の名称と製品番号を提出した。軍事的に重要な電波を、国として管理するためだ。BBCの受信料がライセンスつまり許可料と呼ばれるのは同じ理屈だろう。
次に日本放送協会と契約する。これは実は任意だった。無線電話は理屈ではいろんな使い方があるからだ。でもラジオを買うのはラジオ局の放送を聴くためなので、日本放送協会と必然的に契約を交わす。受信料の誕生だ。そしてここにすでに受信料の微妙な立ち位置が生まれている気もする。

GHQの理念が薄まり吉田茂が電波監理委員会を葬った

この本で一番面白く、またその労力に頭が下がるのが、戦後のNHK再出発の顛末を丁寧に取材して明らかにしていることだ。
NHKは上記のような成り立ちもあり、戦時中は軍と政府のプロパガンダ機関になってしまった。GHQは同じことが起きないようにNHKの解体も検討したが、全国に一気に情報が伝えられるのは便利だと、逆に自分たちの統治に利用した。そのため戦前に築いた全国ネットワークはそのまま残った。
GHQとしてはそれもラジオまでの話で、テレビを視野に放送法の体系を作る際は地域ごとに民間が自由に放送局を運営することを理念に据えた。ところが逓信省の官僚と日本放送協会の職員たちは、受信料を国民から徴収する公共放送のやり方を固持しようとした。GHQとしてはアメリカと同じように公共放送はお金を出したい人が出す代わりに大きな規模ではないものでいいと考えた。駆け引きの末、受信料を強制徴収する公共放送としてNHKは残りテレビも開局した。一方、民放はGHQの意志に沿って手を挙げる事業者に免許を与えて自由に運営することになった。これが世界でも珍しい「NHKと民放の二元体制」になったのだ。アメリカでは民放が強く、公共放送は細々やってる。ヨーロッパでは公共放送が強く、民放はその次の存在感。両方とも頑張っちゃってる二元体制は逓信省とGHQのせめぎ合いの結果なのだ。
もう一つ、テレビ局が始まる頃までは日本にも電波監理委員会があり、アメリカのFCCのように政府とは独立して放送を管理していた。テレビ開局の準備期間までは機能していた。ところが1952年、なくなってしまった。吉田茂が潰したのだ。
1951年に連合軍司令官がトルーマン大統領と朝鮮戦争の方針で対立したマッカーサーからリッジウェーに交代した。彼はGHQが定めた諸制度を、日本の都合に合わせて修正して良いとした。そこで吉田茂は、電波監理委員会をなくして、NHKをいわば総務省直轄にしたのだ。
これを知ると、自民党にはNHKを意のままに使おうとするDNAが刻み込まれており、NHKもその構図に従うことがトラウマ的に刷り込まれているのが仕方ないと思える。でももちろん、今のNHK職員がどう考えてどう振る舞うかは別だ。
ただ、NHKにはそもそもの制度的問題が体内に異物のように残っており、いずれ取り去る必要があると考えてしまう。

メディア公社と日本版FCCのススメ

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