テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2022年09月号

既存メディアにとって、昨日のライバルはもはやライバルではない〜「NHK受信料騒動」を振り返って〜

2022年09月26日 12:01 by sakaiosamu
2022年09月26日 12:01 by sakaiosamu

これまでの枠組みから考え方を変えられない人々は本当に見ていて情けない。ところが、既存メディアの組織では上の方にそういう人が多い。その組織にとっての害悪でさえあると思う。

総務省・公共放送WGの報じ方に表れた新聞業界の不毛

9月21日夕方、総務省の有識者会議「公共放送ワーキンググループ」の第1回が行われ、筆者も傍聴した。これは昨年11月からの「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」の分科会だ。(検討会親会についてはMediaBorderでも何度かお伝えしてきたので過去記事を探ってほしい)

親会の方では、「ネットの時代では様々な情報が飛び交うようになり、アテンションエコノミーやフェイクニュースが問題になっている。インフォメーションヘルスを保つためにも放送コンテンツのネットでの活用・流通が必要」との前提で、制度をどう見直すかがメイン課題だ。

その流れでの公共放送つまりNHKの社会的役割を再度議論し、ネットをどう活用すればいいかを話し合うのがこのWGの目的だ。もちろん、そうした理念的議論をした上で受信料についても議論が進むようだ。だが用意された書面からは受信料の形を決定するには至らなそうだった。

画像 総務省公共放送WG配布資料より

第1回は、そうした会議の意義と目的を確認するに留まり、最後に有識者一人一人にコメントを求めた。それぞれNHKの意義について考えるところを述べたが、注目したのはほとんどの有識者がコメントの後半で受信料についても私見を述べたことだ。例えばある学者は「インターネットに接続する機器を保有しているだけで、受信料支払う仕組みという風にはすべきではないという風に考えます 。」と発言し、他の有識者もほぼ同じ内容をコメントした。これはおそらく、誤解を与えたくないとの意志の表れだろうと感じた。NHKについての議論というと何かと「スマホ持ってるだけで受信料取るつもりか!」と噛み付いてくる人が多い。この会議はそういう趣旨ではないとはっきり示しておきたかったのではないか。実際、親会からの流れでこの会議を傍聴すれば、公共放送のネットでの役割を理念的に議論するのが目的で、受信料はその先の先であることはわかる。

ところが、その夜に新聞社のネット記事が出てきて驚いた。まるでNHKの受信料をメインの議題にした会議が始まったように思える記事だらけなのだ。典型がこの共同通信の記事だ。

この記事はよくできていて、決して嘘は書いてない。だが会議の要素を巧みに都合よく再構成していて、いかにもNHKがネットにぐいぐい事業を拡大していき、そのための受信料を取ろうとするための会議に思える。

もっとも巧妙なのが最後のこのくだりだ。

会合では、テレビを持っていなくてもスマートフォンなどで積極的に放送を見る人については「負担を議論していく必要がある」との意見が有識者から出た。

上記記事より

これは確かにある有識者が発言したことだが、文脈を飛ばしている。実際の発言から受信料に関わる部分を抜き出してみよう。

インターネットで接続する機器を保有してるだけでは、NHKのインターネット配信を受診することはできない。そういう方にまで費用の負担を求めるべきではないというご意見がございました。私も同感でございます。他方、放送を受信できるテレビを持たない方々であっても、パソコンやスマートフォンにソフトをインストールするなどして、自ら放送を受信できる環境を用意してる方々に対する費用負担のあり方については、私は議論していく必要がある思っております。

筆者による会議の発言書き起こしより

ネット機器を持っているだけでは受信料を求めるべきではないが、自ら受信ソフトを入れた人からの受信料は検討する必要がある、と述べているのだ。

共同通信の記事はどう見ても”あえて”後半だけを取り上げている。案の定、ヤフコメには一斉に、特にこの部分を捉えて「スマホ持つだけで受信料を強制するのか!」と誤読して荒れた発言が並んでいる。記事をきちんと読めば「持つだけ」とも「強制」とも書いてないのだが、記事の書き手は意図的に誤読を狙っているとしか思えない。上に抜書きした発言の前半はナシで後半だけ取り出しているので、誤読するに決まっている。

この記事は翌朝ヤフトピ入りしていた。会議で問題視したアテンションエコノミーそのものではないか?2016年のアメリカ大統領選でトランプ氏に有利なフェイクニュースが流されたそうだが、それと大した違いはない。ジャーナリズムが聞いて呆れる。共同通信として恥ずかしくないのだろうか。

ヤフトピ入りしたのを見て筆者はコメントを書いた。Yahoo!ニュース個人のオーサーは専門家として特別な扱いのコメントを書くことができるのだ。

「参考になった」の評価が1万を超えたので書いた甲斐はあったかもしれないが、ヤフトピ入りしておそらく数十万PVくらいにはなったはずなので、焼け石に水だ。ささやかな抵抗でしかない。

併せてこんな記事も書いたがヤフトピには入らず、わずかなPV数で終わった。一矢報いることができたとはまったく言えない。

「NHK 受信料」などでニュース検索をすると、共同通信以外の新聞社も似た記事を配信し、それを受けてネットメディアが「こんな報道があった!」とこぞってNHKネット受信料強制への猛烈な批判記事が続々出ている。火のないところに煙が立ってしまった。

共同通信はまったく巧妙で、NHK受信料が会議で議論されるという記事を出せばヤフトピに入り様々に波及するのがわかっていてやっているのだと思う。過去に何度も同様のことが起こったはずだ。嘘とは言えない書き方も含めて、老獪だ。だがこれがプロパガンダでなくて何なのかと言いたい。

足の引っ張り合いをするうち、互いに沈んでしまう

共同通信の話は問題の一端に過ぎない。この件でいちばん言いたいのは、既存メディアはいがみ合っている場合か、ということだ。

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