テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2022年02月号

放送ネットワークは誰のためのものか

2022年02月18日 10:08 by sakaiosamu
2022年02月18日 10:08 by sakaiosamu

放送ネットワークは新聞社のものなのか?

今回は書籍の紹介をしたいのだが、その前に余談から入ろう。
2月16日に総務省の有識者会議「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会・第5回」が開催された。この会議はインターネットが情報流通の主戦場になってきた時代にふさわしい放送制度を議論するのが目的だ。この前の「放送を巡る諸課題に関する検討会」(2015年〜2020年)は事実上NHKの同時配信を議論する会議体だった一方で、主催者である総務省のナビゲーションに主体性がなく、大臣の突然の発言に振り回されたり各業界団体の意向を気にしすぎたりで、進まないどころか右往左往した挙句何がなんだかわからないまま終わった感がある。それに対し「デジ放検」(今筆者が勝手に作った略称)は運営に主体性を感じる。構成員(参加する有識者のことをこう呼ぶ)たちも、情報がネットだらけになっていいのか、民主主義のためには真っ当な情報発信を行う機関として放送局は重要ではないか、との問題意識を強く持っていることが感じられる。

参考に、構成員のメンバーはこのような面々だ。(PDF最終ページ)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000777183.pdf

MediaBorderではこれまでの様子を岩井義和氏のレポートでお届けしてきた。またNHK放送文化研究所の村上圭子氏は文研ブログでこのようなまとめ記事を書いているので参考にされたい。

 

2月16日は事務局が議論を整理し、まとめに入っていくのが主題だったが、前半で日本新聞協会による意見陳述の時間があった。これに私は呆れ返った。

Webexを使ったリモート会議なのでPC画面に発言者の顔が映るのだが、新聞協会の発言の間中、なぜか顔が映らず「日本新聞協会」の文字だけが表示され続けた。発言の際はカメラをオンにする、というリモート会議の基本を知らないのだろうか。

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社内会議ならともかく、行政主催の公の会議なのにと失礼に感じたが、デジタルに疎いおじさんたちが担当として出席しているのだろうから仕方あるまい。どこかの通信社の社名を名乗ったように思う。新聞協会の意見は前もって会議の「配布資料」としてpdfが公開されていた。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000793872.pdf

「日本新聞協会」の文字を見ながら、彼らの意見を聞くことになる。幸い私は外部モニターを併用しているので、そっちにpdfを映して見ながら聞くことができた。展開されたのは、既得権益者が自分の業界をいかに守るかのみに立脚したチェック事項だらけに思えた。これでは保守党の保守派議員が自分が利権を守るための演説と大して変わらない。
中でも、以下の一文には卒倒しそうに驚いた。

NHKのネット活用業務の「法的位置付け」の論点に関し、一部有識者から常時同時配信の本来業務化について言及があり ましたが、「三位一体改革」が十分に進んでいない現状では、 議論する段階にないと考えます デジタル時代における放送制度の在り方に対する意見 日本新聞協会P6より

「三位一体改革」とは、先述の「放送を巡る諸課題に関する検討会」で、NHKが同時配信を進めるための条件として出ていたものだ。NHKの「業務の見直し(ネット配信の位置付け)」「受信料の問題」「ガバナンスの問題」を3つともクリアせねばならない、ということで3つセットだから三位一体と表現している。
そもそも「三位一体」という大時代的な表現に「うぷぷ」となるわけだが、これはずいぶん前の議論だ。この「デジ放検」ではNHKも民放も同時配信を始めた前提で、もっと大きな議論をしている。やっと文明開化に至ったのに、江戸時代の鎖国はどうしたと言っているようなものだ。
しかも「一部有識者」と、調べれば誰かがわかる名指しの書き方で、要するに「あんたは知らんだろうが、本来業務にする話は三位一体改革が終わってからなんだよ」といちゃもんをつけているも同然だ。これを「日本新聞協会」のテキストだけを画面に表示したままで言ったのだから、度を超えた失礼さだった。「こんな社会人がいるのか!」と本当にたまげた。
その後の質疑の時間に有識者から新聞協会の面々に質問や意見が浴びせかけられたのは当然のことだった。
「諸課題検討会」と同じように、自らの立場のみに立って言いたいことが言える場だと勘違いしたのだろう。これまでのこの会議を予習していない証拠だ。日本の民主主義を守るための情報環境をどうするかの議論をしているのに、NHKは敵だ!という自分たちの感情を丸出しにする態度は甚だみっともないものだった。ここではNHKも民放も含めてどう制度設計をすれば国民にとって良いのかを議論しているのだ。

悪口が長くなってしまったが、ここでも露わになったように新聞業界は民放テレビ局を自分たちのものだと考えている。だから余計にNHKは大敵だという前提で、こういう会議で発言する。公益や国民の権利よりも、NHKが憎いことがまず一番大事だと間違いなく考えているのだと思う。

なぜ新聞社がテレビ局を自分たちのものだと考えるのか。テレビ局黎明期には新聞の力が必要だったからだ。

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