テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2021年12月号

これからのテレビ番組作りに絶対に参考になる2つのセッション(INTER BEE CONNECTED 12月17日までの公開)

2021年12月02日 17:04 by sakaiosamu

前回の記事に続いて、11月17日〜19日に開催されたInter BEEより、特別企画INTER BEE CONNECTEDのセッションをレビューしたい。今回は私がモデレーターを務めた2つのセッションについてだ。

ひとつは18日の「テレビは変わった!テレビはどうする?」

もうひとつは19日の「ダイバーシティが広げる、テレビの可能性」


※それぞれの画像を押せばセッションのアーカイブページに飛べる

まったく別々のセッションだが、実は私の中では大きな一つのテーマを据えていた。これからのテレビはこうすればいい、という指針を2つの角度から示しているつもりだった。

自分が伝えたいことに共感する人々と深く繋がる

ひとつめの「テレビは変わった!テレビはどうなる?」では、テレビ東京で「シナぷしゅ」を作っている飯田佳奈子氏、名古屋テレビで「ハピキャン」を作る大西真裕氏が登壇。この2つの番組はMediaBorderで取り上げている。

「シナぷしゅ」は番組というより、育児を支えるツールにしたい〜テレビ東京・飯田佳奈子氏への取材

「ハピキャン」は番組DXのモデル事例になる?試行錯誤の末に何が見えたか

この2つの番組は今後のテレビ番組づくりのモデルになると考え、前々から一緒に登壇してもらおうと機会を探っていた。それをやっと、今年のINTER BEE CONNECTEDで実現できたというわけだ。

せっかくの機会なので、さらにもうひとり登壇者をお迎えした。みなさんご存知、「水曜どうでしょう」の北海道テレビ・藤村忠寿さんだ。なぜ藤村さんをお招きしたかが、このセッションのポイント。2つの新しい番組と、「水どう」には共通点があるからだ。

それが何かは、ぜひセッションを動画で見て、自分なりに解釈してもらえればと思うが、ここでは私として重要と思ったことを書きとめておきたい。

1:誰のための番組かを明確にする
2:視聴者とつながりファンを育てる
3:放送以外の出口をフルに活用する
4:それらにより放送収入以外のマネタイズを図る

1で言うと、「シナぷしゅ」は赤ちゃんのため、そしてその母親のための番組。「ハピキャン」はキャンプ初心者のための番組。「水どう」で言うと、藤村氏が出演者たちとともにやりたいことをやるのを面白がってくれる人たちのため、となるだろう。

テレビ局は番組づくりで「ターゲット」を意識するようになってきたそうだが、「F1」とか「子供のいる家庭」のような漠然としたことではターゲットと言えなくなっていると思う。もっと狭く捉えないと、誰も見てくれなくなる。今の人々とテレビの関係はそういう状況だ。

そして大事なのは、作り手が「こんな人たちにこれを伝えたい、共有したい」という思いを持っていることだ。飯田氏は「自分が経験した子育ての大変さを番組で少しでも解消したい」と思っている。大西氏は「自分が子供とキャンプをやる楽しさをみんなと共有したい」と考えている。実はそこが大事なのだ。個人の思いを番組に反映させないと、見てもらえない。

だからファンとのコミュニケーションが重要だ。藤村氏は「水どう」を作りながら、掲示板に来た書き込みにすべて返事をしていた。あの絶大な人気は、そこに原点があるのだ。同じように飯田氏はInstagramの書き込みにすべて返事をしている。

放送だけで終わらないことも重要だ。「シナぷしゅ」は最初からYouTubeチャンネルを作り小さなコーナーを再構成して「子供が泣きやむ動画」などの再生リストを作っている。「ハピキャン」は番組スタートと同時に同名のWEBサイトを立ち上げキャンプ情報を発信した。さらに1年後にはYouTubeチャンネルに番組を丸ごと置いてみたら何百万回も再生された。

そしてそれら放送以外の発信が放送以外の収入の場にもなっている。番組収益のポートフォリオ化ができているのだ。これは「水どう」が放送収入よりDVDや配信、イベントなどの二次収入・三次収入のほうが大きくなったことと似ている。

セッションで語りきれなかったこととして「IP」というキーワードがある。飯田氏は立ち上げ時から「番組のIP化」を意識していた。それは番組のキャラクターという意味のIPではなく、番組そのものをIPと捉える考え方だ。この後の放送事業を考える上で重要な発想だと思う。

「生きづらさ」がブルーオーシャン

ふたつめの「ダイバーシティが広げる、テレビの可能性」は「女性登用」と「障害がある人びと」とテレビの関係を入り口にダイバーシティを考えるセッション。前に取材した民放労連(日本民間放送労働組合連合会)女性協議会副議長の岸田花子氏に登壇を依頼した。所属はフジテレビだが、民放労連の肩書きでのInter BEE登壇者は初めてだろう。岸田氏が行った、民放の女性役員数調査についての記事がこれだ。

テレビ局のダイバーシティは番組の多様性にもつながるはずだ〜民放労連の女性役員数調査の背景

そしてもうひとり、NHKで「バリバラ」の立ち上げに関わり、今もディレクターとして番組作りをしている空門勇魚氏にも登壇してもらった。空門氏は「車椅子ディレクター」を名乗り、自らも障害者であることを表明しながら様々な場で発言している。

NHK「バリバラ」番組ページ

そしてこのセッションには一見ダイバーシティと関係なさそうなヒットメーカー、テレビ東京「モヤさま」で知られる伊藤隆行氏にも登壇してもらった。ここがポイント、という点でひとつ目のセッションと似たキャスティングとなった。伊藤氏にお声がけしたのは「池の水ぜんぶ抜く」の作り手だからだが、今年こんな番組をやっていたことが大きい。

テレビ東京「巨大企業の日本改革3.0〜生きづらいです2021〜」番組ページ

加藤浩次氏がメインで、伊藤氏も顔出しで一緒に出ている。二人で大企業が一つの場所でイノベーションにチャレンジする様子をリポートする番組だ。テレ東がタレントを起用して経済番組を放送する。そのこと自体は珍しくないかもしれないが、副題に「生きづらいです2021」とついている。実際、新事業に取り組む大企業の社員たちに事業とともに「あなたの生きづらさは?」と聞くのだ。

これが私は気になっていた。なぜわざわざ「生きづらさ」なのか?その答えは、セッションを見てもらえばわかるだろう。

ダイバーシティセッション画像

非常に面白かったのが、まったく違う活動をする3人の登壇者がだんだん何かを共有していったことだ。「生きづらさ」がそのキーワード。最後に「生きづらさはブルーオーシャン」と岸田氏が言った、そこにすべてが集約されている。

もはや「誰が旬のお笑い芸人か」とか「次にキュンキュンする女優は誰か」とか、そんなことばかり追い求めて番組作りをしていても逆に取り残されかねないのではないか。そんなことより、自分や誰かの「生きづらさ」に目をとめ、その先に番組作りを構想していく。そんなことが必要なのではないか。「バリバラ」がまさにそうだし、「巨大企業の日本改革3.0」もそうだった。「女性の生きづらさ」でいうとすでに”生理”をテーマにした番組が出てきている。

さらにその考え方は実は、「シナぷしゅ」や「ハピキャン」もそして「水曜どうでしょう」も同じではないか。「生きづらさ」とは言えないかもしれないが、個人が持つ強い思いが新たな視聴者を開拓した。そういう視聴者は「ファン」になりずっと番組を支えてくれるし、配信でもイベントでもついてきてくれることを「水どう」が証明した。

自分が感じた強い思い、不満、悩み、逆に喜び、心地よさ。そこには新しい番組のヒントがあり、市場になったりターゲットが明確になったりする。これからの番組を作る大きな方向性がそこにはある。あなたの中にブルーオーシャンがあるのだ。そこに気づけば、テレビの新たな未来が拓けてくる。2つのセッションからそれをぜひ、感じとってもらいたい。

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