テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2021年08月号

何をしたいテレビ番組なのか、何をしたいテレビ局なのかが、これから問われる

2021年08月19日 16:09 by sakaiosamu


※トップ画像は8月15日放送TBS「サンデーモーニング」のキャプチャー画面。肖像権に配慮しぼかし処理をしています。

TBS「サンモニ」の謝罪に対する驚き

8月15日放送のTBS「サンデーモーニング」を見たらびっくりした。ご存知の通り、前の週の放送でレギュラー出演者の張本勲氏の女子ボクシングについての発言が問題になっていた。日本ボクシング連盟から抗議があり、TBSが書面で回答していた。

TBSからの謝罪文受理について(報告) 日本ボクシング連盟(2021年8月12日)

これを受けて番組の中でどう謝罪するかが気になり、久しぶりにチャンネルを合わせたのだ。あれだけ話題になったのに簡易な謝罪だったことに驚いた。しかも謝ったのは唐橋ユミというフリーランスの女性アナウンサーで、司会の関口宏氏はその補足的なコメント、張本勲氏本人は「今回は言い方を間違えて反省してます。以後気を付けます」と述べている。

私が驚いたのはそれぞれのコメントもだが、TBSの人間が誰も謝罪しなかったことだ。関口氏や張本氏の問題というより、これは制作者の問題、局の問題だと思う。

番組制作者はこの1週間の間に関口氏や張本氏のもとを訪れて、どう謝罪の意思を表明するか話し合ったのだろうか。その上で、制作者自身もしくはTBSのアナウンサーなりが自分の口からも謝罪の意思を表明するように準備すべきと考えなかったのだろうか。

というのは、この番組は「権力批判」を売り物にしている。そんなつもりはない、と制作者は言うのかもしれないが側から見るとそうとしか見えない。売り物かは置いておいても過去に政治家の失言などがあればここぞとばかりに追及してきた、はずだ。毎回見ているわけではないのでどこまで正確かやや心許ないが、そういう番組だったと思う。

自らのレギュラー出演者の失言に対してこんな曖昧な、謝ったのかどうかもよくわからない謝罪の仕方をするようでは、金輪際政治家の失言を批判などできない。この日の放送でもそれに続くコーナーで広島での被爆者追悼式典で菅首相が大事な部分を読み飛ばしたことに触れていたが、どの面下げて言うのだろうと感じた。もっと重大な政治家の失言があった時、どんな顔で批判できるだろう。

せっかく掲げたブランドステートメントが・・・

ただ、私がここで言いたいのはこの件で誰が悪いのかを探すことではない。この件を題材に、これからのテレビ番組は「何をしたいか」が問われることを語りたい。テレビ局としても「何をしたいか」から逃れられない。それを明示し、社員全員で共有できないと、その局は社会での存在意義を問われる。場合によっては退場を迫られる。

TBSは実は、それをいち早く明示した局なのだ。

着目していた人がどれくらいいるかわからないが、TBSはここ数年でブランドのリニューアルを成し遂げている。それがブランドステートメントの形できれいにまとめられている。

TBS企業サイト「ブランドステートメント」

大事な部分をキャプチャーさせてもらう。まず「企業理念」としてこんなステートメントを掲げている。

TBS理念

「TBSブランドステートメント」より

その上で、「ブランドプロミス」として以下を掲げている。

TBSプロミス

「TBSブランドステートメント」より

「理念」が最上位概念であり、それを具体化するための言葉が「プロミス」だ。そしてTBSはこれに続く形で「グループVISON2030」を発表している。これは経営計画のベースとなる考え方。理念(→プロミス)→VISIONがあって経営計画を立てるのが本来の経営計画だ。その通り、美しい流れができている。

ちなみに「VISION2030」ではこんなステートメントも掲げている。

放送の枠を超えコンテンツを無限に拡げよう あらゆる「最高の"時”」へ

「VISION2030」のファイルでは冒頭に理念とブランドプロミスを「コーポレートブランドの刷新を果たしました」と表示し、同時に新しいブランドロゴも示している。この時、それまでは事業会社はTBSテレビだったのに持株会社が東京放送ホールディングスだったのを、TBSホールディングスと改称し、すべてを「TBS」のブランド名に集約している。

「放送の枠を超え」とある。だから「東京放送」の名称から脱却する必要があった。「TBS」に集約しロゴを改めたのはそんな背景もあるのだと思う。正直、これまでのロゴがあまりにも”勢いで作った”感のあるあまり良いものではなかったので、いいブランディングができていると個人的に評価していた。

議論を重ねた跡が見え、考え方がしっかりあって、美しいブランディングに至ったと感心していた。このところ様々な面で好調なのも、このブランディングが背景にあると見ていた。

だからこそ、今回の件に注目していたのだ。そしてがっかりしてしまった。ブランディングが台無し、というより、せっかくのブランディングをまったく生かせていないではないか。

TBSのボクシング連盟への謝罪文の中に、ブランディングを意識したと思われる部分が1箇所だけある。

私どもとしては、コメンテーターの発言も含め、番組の姿勢が「多様性を否定する」かのように受け止められることのないよう、一層留意しながら番組作りを進めて参ります。

ボクシング連盟への謝罪文より

ここに気づいた時に、私はさらに情けない気持ちになった。TBSの新しいブランディングについてはけっこう褒めていたのだが、逆にこの件でブランディングがいかに「とってつけた」ものだったかがわかってしまった。謝罪文に「多様性」とまさしくとってつけている。

15日の放送で、TBSの肩書きの人物が画面に出てきて「TBSは多様性を目指すと企業理念に掲げているのに、先週の放送内容は真逆になっていた。関口氏張本氏ともよく話し合い、多様性がいかに重要かを一緒に再認識できた。今後はこのようなことはないように誠心誠意努める。」と言うべきだった。必要だったのは謝罪というより、考え方の再認識だった。こんな話が先にあれば、張本氏が「言い方を間違えて反省してます」と言ってみんな納得したはずだ。

それができなかった今、「サンデーモーニング」は番組としての存在意義を問われることになる。関口氏や張本氏のせいではもはやない。番組の作り手、そして局の責任として「存在できるか」が問われる。あの発言が問題だったのではなく、あの発言に責任を持った対処ができなかったからだ。

今からでも遅くはない。この際トップが「サンモニ」制作スタッフと、関口氏張本氏唐橋氏らと今回のことについてきちんと議論しないといけない。「私たちはこんな理念を掲げています。どう思われますか?」そんな議論をすべきだと思う。それくらい深刻なことだと私は考える。

個人にも問われる「何がしたいか」

なにもブランディングとの帳尻合わせをしろと言っているわけではない。ブランディングがこれからどの局にもどの番組にも重要になるから、せっかく決めたステートメントを社内に浸透させ、その精神を共有し、今回のような緊急事態にむしろ生かせるようにならねばダメだと言いたいのだ。そうしないと、もはや生き残れないのだ。

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