テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2021年03月号

都会のテレビ制作者の苦境と地方の衰退、二つの課題を解く鍵「大山モデル」:前編〜脇浜紀子氏寄稿〜

2021年03月12日 09:07 by sakaiosamu


※大山チャンネルのオフィスの入り口を飾るパネル

Introduction
京都産業大学教授、脇浜紀子氏とはFacebookで繋がっているのだが、鳥取県の大山(だいせん)町でケーブルテレビチャンネルを取材している様子を投稿していた。どうやらかなりユニークな取り組みのようで、脇浜氏の興奮が伝わってくる。地域における放送の役割を、読売テレビのアナウンサー時代から考察してきた脇浜氏が何にそれほど興奮したのか。お願いして寄稿してもらった。テレビの作り手とテレビの役割の両面から参考になる話だと思う。前後編に分けてお届けする。


書き手
脇浜紀子
京都産業大学 現代社会学部教授

「ローカルテレビ」を研究対象としている筆者にとって、ここ数年目が離せない存在になっているのが貝本正紀さん率いる大山チャンネル。去年夏に大山屈指のオシャレスポットに新オフィスを移転したと聞いて、2月に1年半ぶりに訪問してきた。本稿では、大山チャンネルについてこれまでにリサーチした情報をまとめて、皆さんと共有したい。

大山チャンネル2
※大山チャンネルの新オフィス

<超住民参加型・大山チャンネルとは?>

今や地域メディアの旗手である鳥取県米子市のケーブルテレビ局・中海テレビを知らない人はここの読者にはいないだろう。中海テレビは、8つあるコミュニティチャンネルのうち113chを放送エリア内の6町村にそれぞれの地域専門チャンネルとして割り当てている。そのうちの一つが大山町の大山チャンネルだ。他の5町村が、役場職員か地元のNPOまたは地元制作会社が番組制作を行っているのに対し、大山チャンネルが異彩を放っているのは、東京に本社がある制作会社に番組制作を全面的に委託している点だ。

米子駅から車でわずか20分、人口1万6000人ほどの鳥取県大山町では、2005年の3町合併を契機に、約30億円を投入し、光ファイバー網を整備した。その際、ハードのインフラは中海テレビに委託したが、ソフトのコミュニティ・チャンネル番組制作は町職員が担い、行政情報発信や議会中継を行なっていた。年間1,100万円ほど(当時)を支出する番組制作に対して、どれだけの効果があがっているのか、つまり、町民が実際に視聴しているのかが町議会などでも問題となっていた。文字情報が中心となる、凝った編集はできない、人手が足りない、誰も見てくれない・・・。小さな自治体のコミュニティ・チャンネル運営では定番ともいえる悩みだが、どうしてそこに東京の制作会社が関わることになったのか。

映像制作会社アマゾンラテルナの母体であるアマゾンは、元テレビマンユニオンの倉内均氏が1988年に創立し、数多くの東京キー局の番組を制作している。映画製作では、島田洋七さん原作の「佐賀のがばいばあちゃん」のヒットを記憶している人も多いだろう。2010年にラテルナと合併してアマゾンラテルナとなり、現在は、NHKの番組を中心に、バラエティ、ドキュメンタリー、ドラマと幅広い分野のコンテンツを手がけている。

このアマゾンラテルナのディレクターである貝本正紀さんが大山町を訪れたのは2014年9月のこと。かねてから番組取材を通して交流があったコミュニティデザイナーの山崎亮さんが「大山町未来づくり10年プラン」策定に取り組む様子を現地取材する中、役場職員から上記のケーブルテレビの悩みを聞き、面白い番組制作なら自分たちの本業ではないかと、当時の町長に企画提案すると、とんとん拍子に話が進み、翌2015年4月にはアマゾンラテルナ鳥取大山オフィスが設立されたのだ。

大山チャンネル3&4
※2020年6月に移転した新オフィスは国道沿いのカフェレストランの2階

話はそれるが、この大山町の取材は、当時、NTTぷららがアプリで展開するオンラインコミュニティサービス「部活DO!」で展開されていた「山崎亮の地域創生部」のために行われている。この経緯は、山崎亮さんのnoteに詳しいので参照されたい。2014年8月から2018年3月までというわずか3年7カ月ほどで終わった「部活DO!」だが、有料会員を募る仕組みもがあり、今のオンラインサロンの走りのようなものだったようだ。なお、現在は、Facebookグループの「山崎亮のコミニティデザイン部」として活動を続けている。

さて、かくして、東京の制作会社アマゾンラテルナが鳥取県大山町という小さな町のケーブルテレビ番組制作を全面委託することになったわけだが、大山チャンネルが異彩を放つのはさらにここからである。 

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