テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2020年11月号 vol.66

「鬼滅の刃」の記録的ヒットはメディアの下剋上の結果である

2020年11月30日 11:13 by sakaiosamu
2020年11月30日 11:13 by sakaiosamu


「鬼滅の刃」公開日の映画館。長蛇の列が30分ごとにできて吸い込まれていった

筆者は毎週のように映画館に行く。10月16日もヴェネツィア映画祭で黒沢清監督が銀熊賞をとった「スパイの妻」が公開されたのでさっそく見にいった。受賞でさぞかし賑わっているだろうと映画館に着いたら意外にも親子連れが列をなしており、よくよく見ると別のアニメ作品の行列だと気づいた。「スパイの妻」を見終わるとまた新たな長蛇の列。そのアニメ作品はシネコンのいくつものスクリーンを使って30分おきのペースで上映されている。こんなタイムテーブルは今まで見たことがなかった。

それが「鬼滅の刃」だった。劇場側がヒットを予感している。前売券の売れ行きなどで上映回数を決めるのだがおそらくとんでもない売れ方だったのだろう。どこの劇場もこんな感じで信じられない回数のタイムテーブルで公開日を待ち構えていた。劇場の期待以上に人びとが押し寄せ、みなさんもよくご存知の記録的ヒットになった。

11月は放送関係の業界イベントがInterBEEに限らず多数開催された。ある調査会社のイベントの中でも「鬼滅の刃」が取り上げられた。「鬼滅の刃は映画館で観客動員数2000万人だが、フジテレビで放送された時の接触者数の方がずっと多い」との主張だった。なんて情けないことを言うのかと悲しくなった。

映画館にわざわざ出かけて1900円払って映画を見た人の数と、家のテレビで無料で見た人数を比べるなんて。テレビの方が多くて当たり前だ。そんなことまで持ち出さないとメディアパワーが表現できないほどテレビは弱くなったのかと呆れてしまった。そもそも「鬼滅の刃」は製作にテレビ局は関与しておらず、フジテレビ(実際には関西テレビ)はそのコンテンツパワーに頼った形だったはずだ。

では「鬼滅の刃」のヒットにテレビは役立たずだったかというとまったくそうではない。むしろテレビとネットを融合させるととんでもないパワーになることが証明された事例でもある。どういうことか、もう少し説明したい。

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