テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2019年09月号

交渉力なし?駆け引きできない?ツッコミどころ満載のNHK上層部〜第24回諸課題検討会を傍聴して〜

2019年11月29日 09:44 by sakaiosamu

※2019年9月12日付の記事を登録読者外も全文読める形で再掲しています。

開催前からわかりにくい情報が出ていた諸課題検討会

9月11日、第24回になる総務省「放送を巡る諸課題に関する検討会」が開催された。今回は参議院選挙での「N国旋風」が吹き荒れたあと、何かとディスられ気味のNHKが「常時同時配信」について報告する点が注目された。かく言う筆者も現代ビジネスで2回に渡ってNHKを"ディスる"記事を書いている。

「NHKから国民を守る党」が、本気でNHKを激変させてしまう可能性(8月1日:現代ビジネス)

NHKが〈TVer〉進出で陥る、受信料の「どうしようもない矛盾」(8月28日:現代ビジネス)

くれぐれも言っておくと、筆者はNHKの同時配信を待望してきた。同時配信についてNHKを援護したい気持ちでいっぱいだ。それでもツッコミどころ満載のこのところのNHKの振る舞いに呆れ果てて上のような記事を書いてしまった。そんなこともあり私もこの「諸課題検討会」は注目していた。

すでに前日9月10日にはこんな記事が配信されていた。

NHK、ネット業務費拡大へ 国際放送、ローカル番組配信など別枠に(9月10日:毎日新聞)

NHKはもともとインターネット事業は「補完業務」であり、受信料収入の2.5%を超える費用は使わないとしていた。同時配信をスタートするに際してもこの「2.5%キャップ」は守るように民放側から釘を刺されていた。記事を読むと、インターネット事業の中でも「公益性の観点から積極的な実施が求められる」4業務については「2.5%キャップ」から除外する方針を打ち出したらしい。わかったようなわからないような話だ。

そして11日の諸課題検討会で、具体的な説明を聞くことができた。直接聞いても、わかったようなわからないような話なのは変わらなかった。

そもそもこの「2.5%キャップ」は同時配信を実行するにあたって守れるの?との疑問は"諸課題検討会ウォッチャー"の間でも沸き起こっていた。同時配信をやる前からこのキャップはあった。その範囲でインターネット配信をいろいろとやっていたわけだ。そこに同時配信が加わるのだからキャップを外したいとどうして言わないのか?ずっと前からみんなが気にしていたことだ。

それについて今回ようやく言及したわけだが「キャップを外したい」ではなく、「よく考えたらこの4つはキャップの外でした」という説明を今になってし始めた。NHKの同時配信を応援したい筆者から見ても、理解しづらい説明だ。そもそも、NHK上層部には交渉力とか駆け引きするとかができないのではないか。ツッコミどころがあったら指摘してやると虎視眈々と待ち構えている民放側に、ダメ出しの材料を与えるようなものだ。また不要ないざこざがNHK同時配信の進行に起こるのだろうと呆れてしまう。

もう少し詳述しよう。

民放連にツッコミどころ見せまくりのNHKの説明

11日の検討会終了後、日経にこんな記事が出た。

NHK同時配信「市場競争阻害しないで」 民放連(9月11日:日本経済新聞)

この記事に登場する民放連の永原専務理事は、昨年11月の諸課題検討会で”シャンシャンムード”の中、一人だけ断固とした態度でNHKに釘を刺した人物だ。12月のMediaBorderのこの記事にも出てくる。 

不思議の国の同時配信〜諸課題検討会の不毛を憂う〜(2018年12月5日:MediaBorder)

日経の記事を読むと、検討会直後に取材陣に”囲まれた”様子だ。質問に対し永野専務はこう言ったとある。

「8項目の全てが重要なチェックポイントだ。(2.5%の上限など)どれか一つに着目して議論するのではない」と主張した。「意見書で求めた既存業務の大胆な見直しによる事業規模の適正化や、受信料のあり方の見直しはいまだ手つかずだ」として、NHKや総務省に引き続き対応を求める考えを示した。

民放連が出した、NHKの同時配信に対する「8項目の意見書」というのがある。2.5%キャップを守るべし、というのも入っているのだが、「それだけじゃなく8項目全部大事だからな!」とあらためて言っているのだ。「怪気炎を吐いた」というやつだ。それはそうだろう。去年釘を刺しておいたらNHKはまんまと刺した釘をほったらかしただけでなく、さらに大きな釘が刺せるスキをいっぱい与えたのだから。永原専務はきっと、ほら見たことかと得意満面で記者たちに語ったのではないか。

諸課題検討会の後で、NHKに対し民放側と意見交換の場が予定されていると聞いた。きっとその場で怪気炎どころか、炎を吐きまくるのだろう。

検討会でNHKが提示した書類は誰でも読めるのでざっと見てもらうといいと思う。(→「常時同時配信の準備状況について」)

その中の「キャップ外し」を説明したページがこれだ。

左側の「基本的業務」が「2.5%キャップ」に含まれるもの。こっちの分はちゃんとキャップを守ります、ということだ。右側に4つ並んでいるのがキャップから外していいと彼らが判断したもの。「公益性の観点から積極的な実施が求められる業務」とある。これは普通に読んでも意味がわからない。なぜ「公益性云々」だとキャップから外していいのか、そこになんら論理性がないのだ。

公益性云々より「みなさんがやれとおっしゃるので仕方なくやる業務」と読み替えれば理解できそうだ。つまり、自分たちとしては既存のNHKオンラインに加えて常時同時配信をやりたいのだけど、他の4つはみなさんがやれとおっしゃる分野なので、やりますけどやれと言われてやるのだからキャップから外しましたからね、と言っているのだろう。

客観的に見てかなり無理がある言い分だ。「屁理屈」と言っていいと思う。

そもそも2.5%キャップが無理なのは最初からわかっていたはずだ。なぜ今頃になって無理な屁理屈をこさえて言い出すのだろう。いけしゃあしゃあとはこのことだろう。

私が言いたいのは、2.5%キャップを外すとは何事か、民業圧迫だ!ということではない。無理な説明になるのがわかっていたことを、なぜもっと早く言い出さなかったのか、ということだ。2.5%キャップの制限をうまい言い方で切り抜けるのではなく、堂々と「2.5%キャップは無理なので外させてほしい」と主張するべきだったのだ。今になって屁理屈でかわそうとするやり方は、大人の交渉としてあまりにも稚拙だ。そんなやり方で永原専務が黙るはずがないし、逆に攻撃される材料になってしまうだけだ。なぜそんなこともわからないのだろう。

そうこうしているうちに、総務大臣に再び高市早苗氏が任ぜられた。また「ニーズはどうなの?」とかき乱されかねない。どうするんだ?

2.5%を超えると民業圧迫になる、という迷信

NHKの同時配信には様々な誤解があると筆者は感じている。この2.5%の制限もそのひとつだ。民放側は「NHKが同時配信に無制限に予算を使うと民業圧迫になる」という理由でこの上限にこだわるのだが、そもそもそこが迷信なのだ。NHKが同時配信にどんどん予算をかけても、民業圧迫にはならない。

もしこれが、NHKがNetflixばりに莫大な費用をかけてネット限定のドラマシリーズを展開する話なら、民業圧迫になる可能性はあるだろう。だが同時配信はあくまで放送と同じ内容をネットで配信するサービスだ。配信に必要な費用以上にかけるべきコストはない。もしかして莫大な広告費をかけて宣伝したとしても、同時配信の視聴者は大して増えやしない。だって放送と同じ内容なのだ。NHKの放送は主に高齢者が見ている。彼らに莫大な予算で宣伝をかけたら同時配信をスマホで見るだろうか?あるいは若者たちに大宣伝をしたら、NHKの番組をネットで大喜びで見るだろうか?もしそうなら、すでに放送でもっと見ているはずだ。テレビ離れしている若者たちは、NHKについては離れもしてない。もともとほとんど見てないのだから。

NHKが莫大な予算を同時配信に費やしたら、他のネットメディアにも脅威になる、だから民放だけでなく大きな意味で民業圧迫だ、と某新聞が論陣を張ったこともある。そんなの強迫観念だ。はっきり言えば迷信を信じているに過ぎない。いや、もっと言えば、そんな理屈でNHKのネット進出を阻止したいだけなのだ。もう一度同じことを書くが、放送で若者に見られていないNHKの番組がネットでそのまま流れるのだから、莫大な費用で宣伝をしても一気に視聴が増えたりはしない。民放にも、他のネットメディアにも圧迫になど間違いなくならない。

冷静になってほしい。客観的に議論してほしい。NHKが民放や新聞社に突っ込まれてる間に、Netflixは会員を300万にまで伸ばし、Appleは月4.99ドルの低価格で新たなSVODサービスを始める。日本のメディアとして、その状況にどう対処するかを議論する時だ。

きちんと議論を、正々堂々とやるべきなのだ。NHKはつまらない逃げ口上をいまさらやってる場合ではないはず。2020年以降にテレビはどんな形にトランスフォーメーションするべきか、垣根を超えて落ち着いた議論をしてほしいと思う。・・・と言ってもまあ、いまの各社各団体の上層部には無理なのだろうけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

関連記事

同時配信ストップ、NHKの大幅譲歩に総務省はどう出るか?

2019年12月号

InterBEEで細かすぎて伝わらなかった「それぞれのイマ」を頑張って伝えてみる

2019年11月号

AppleTVはNetflixと勝負する気はさらさらなさそうだ

2019年11月号

読者コメント

バックナンバー(もっと見る)

2019年12月号

どうしようどうしよう、とオロオロしていてもはじまらない。いままでのやり方で...

2019年11月号

メディアはすでに、次のステップへと走り出した。そう実感させられることが次々...

2019年10月号

メディアの風は変わり目を迎えた。これからどこへ吹くのか、見定めねばならない...