テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2019年08月号

スクープが現実を変えてしまう〜「NHK、TVerに参加」と報じられた奇妙な影響〜

2019年08月09日 13:07 by sakaiosamu

8月2日、共同通信から以下の見出しでニュースが配信された。

「NHK、TVerへ参加 今月にも8番組程度で」

一瞬、おお!と思った。いかにもスクープ風の報じられ方だったからだ。実際、スクープ的に受け止められてYahoo!ニュースでも配信されたし、大手新聞のみならず地方紙のネット版でも配信された。「一大事だ!」というニュアンスだった。

だが考えてみたら、NHKがTVerで番組を配信することはわかっていたことだ。総務省の「放送を巡る諸課題に関する検討会」でも、NHKが同時配信を実施する際の条件のように民放との連携が"約束させられて”いた。そこにはTVerというサービス名がはっきり書かれている。NHKはそもそも、今年度にTVerに参加しなければならなかったのだ。→諸課題検討会3月のNHK資料(P5を参照)

だからここで突然決まったかのように報じられるのが不思議だった。強いて言えば、8月にいよいよ番組が配信されることは新しい情報かもしれないが、3月の書類で「新年度から参加できるように具体的調整に入る」とあったので、妥当な時期ではある。あまりびっくりすることでもない。

共同通信はその前の7月30日にも以下の見出しでニュースを配信している。

「民放キー局が同時配信実験へ ネット、NHKに追随」

これも、つい私はおお!と思ってしまったが、よくよく考えるとキー局が連携して同時配信の実験を行うのは過去2回あったので、スクープ的に報じるのは奇妙だった。この見出しだと、実験を機に一気にキー局が同時配信になだれ込むように思えてしまう。

NHKのTVer参加も、キー局の同時配信実験も、スクープとして報じる類いのものではないと思うのだが、見出しの作り方がスクープ調なのと、この手の話題にナーバスな地方紙が一斉にキーッとなってと配信したので、世の中が「なんだと!」という空気に覆われてしまった。NHKぎらいなネット民の間では「NHKがTVerで受信料を取るのか?」と身構えたり「NHKがCM入れるのか?金儲けするな!」と怒るなど、勘違いと早合点が錯綜している。スクープ風なニュースの伝え方が世の中に混乱をもたらしたのだ。

そしていま、私に伝わってきた情報によれば、NHKのTVer参加は予定していたより遅れるらしい。いつになるかはまだ知らないが、共同通信のニュースにある「8月下旬から」がずれ込む可能性もあるだろう。遅れる原因もまだはっきりしないが、共同通信のスクープ(?)の影響の可能性は高い。もしそうなら、スクープが現実を変えてしまったことになる。タイムマシンで過去に戻ったら現在が変わってしまうような、不思議な現象が起こりつつある。いったいこれはどういうことだろうか。

スクープには2種類ある、という話を最近聞いたことがある。本来のスクープは権力や企業が隠して表に出したくない後ろ暗い事柄を暴くもの。一方で、近々発表になることがわかっていることを先出しするもの。後者には時折、スクープしたことと実際の発表が違うこともあり、そうなると誤報になってしまう。今回の「NHK、TVerへ参加」は誤報にはならないまでもスクープによって参加時期がずれ込むとしたらどこか問題がないだろうか。

スクープに2種類あるという話は、先日配信した「メディア酔談」で語られたことだった。

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