テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2019年01月号

メディアとは何かが、もう一度問われる2019年がはじまった

2019年01月07日 11:51 by sakaiosamu

新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

2019年のはじまりだ。今年はメディアの世界にとって様々な意味でスタートの年になりそうだ。それはもちろん、例えばNHK同時配信のことであり、視聴率調査「P+C7」の拡大のことである。ただそれだけでなく、もっと根本的な領域で“新たなスタート“になる気がする。

そもそもメディアの世界ではここ何年もの間“終わり“が続いていたように感じていた。テレビがオワコンと言われはじめたり、新聞が購読者数でも広告売上でもどんどんポジションを下げていたり。だからと言ってネットがマスメディアのポジションを奪うかというと、逆に深刻な問題点をさらけだしたり。どこかみんなして”おしまい”に向かっていたように思ってきた。その節目は、2016年だったと勝手に感じている。2017年4月に、筆者はAdvertimesにこんな記事を書いている。

広告業界は「特別な場所」だという幻想を、そろそろ捨てる時だと思う

ここでは広告業界の話として書いているが、2016年に電通が社員の自殺で散々叩かれたこととSMAPの解散宣言を重ねて“大きなおしまい”を書いている。広告業界がおかしかったのは、特別な場所だから働き方も特別なのだという論理で激務をみんなで当然のこととしてきたことにあるのではないか。そんな時代も終わらせるべきなのだろうし、広告業界が特別な場所だという思い上がりを捨てようと書いている。広告業界とあるが、つまりは“業界全体“に当てはまることだ。それまでの“業界“の常識は、ひいては業界を支えてきた構造や理念は2016年で終わったのだ。

2017年から2018年にかけては“胎動“の時期だったと言えるのではないか。いろんなことが水面下で、時に表にも顔を出しながら議論されたり検討されたり試されたりしてきた。2019年はそれらが胎動の時期を終え、いよいよスタートする年になるのだと、やや強引ながら定義づけている。

2019年の正月に、「はじまり」を感じさせることがあった。NHKが毎年正月二日に放送してきた「新春TV放談」の中でだ。今回はテレビ朝日「おっさんずラブ」を送りだした貴島彩理プロデューサーの出演が目を引いた。まだ20代の初々しさでこれまでのTV放談の空気を清新なものにした。そして「おっさんずラブ」が視聴率は普通だったのに大いに話題になり映画化にまで至ったことが取り上げられた。そこには「視聴率で評価するのはもういいんじゃないか」とのある種の“合意”が生まれたように思う。もう、あの数字に振り回されていては価値を生み出せないのではないか。その好例として「おっさんずラブ」が語られた。

これまでも、ドラマがネットで話題になったことは数多くあった。2016年の「逃げ恥」がその代表例だ。だが「逃げ恥」は視聴率もぐんぐん上がった大成功例だった。だがそれに続く「ネットで話題になったドラマ」は視聴率的にはさほどでもなく「成功例」としては扱われてこなかった。

「おっさんずラブ」は、ネットで話題になり、視聴率が高くなくても「成功例」として語られる初めてのドラマだと思う。そういう時代になってきたことを強く感じさせてくれた。気のせいか、毎年「あの頃のテレビよ、もう一度」の気分が漂っていていささか辟易しかけていた「新春TV放談」が、今回は前向きな空気を漂わせていたように思う。「おっさんずラブ」と貴島氏が、長年続いた番組の空気を一新したのかもしれない。

今年の「はじまり」のある種の核がそこにあると思う。視聴率だけで番組を評価する時代ではなくなった。スタートするのは、いくつかのデータを用いた多角的な評価なのだ。視聴率という一本の線の上で番組を比べていたのが、もっと多様な価値観に対応した数種類のモノサシを駆使して測るようになる。視聴率はもちろんその重要なモノサシとしてあり続けるだろうが、それと別の要素を組み合わせることになるはずだ。「日報に一喜一憂」する時代ではもうなくなるだろう。

それはつまり、テレビで言うとGRP取引の比重が下がることであり、ネットメディアで言うとPV数取引の減少である。どちらも、どれだけ大きな数かが大事だったのが、必ずしも多ければ多いほど価値になるとは限らないということだ。量は、量でしかない。量とともに質が大事になる。いや、先に質が重視され、その量が問われる、ということだ。2019年からメディアの世界で何がはじまるかというと、そこに集約できると思う。

GRP取引だったからこそ、すべての番組が視聴率を何より問われた。朝5時の番組も夕方4時の番組ももちろんゴールデンタイムも、一様に“少しでも高い視聴率”を求められた。GRP取引が“まとめ売り”だったからだ。その比重が下がると、必ずしも高ければ高いほどいい、ことにならなくなる。それよりも、どんな視聴者が見ていて、それをスポンサーがどう評価するかが大事になる。だから「先に質、次に量」になるのだ。「すべてが量」での評価と180度とは言わないが90度は違う。90度違うと、物事はかなりこれまでと別の方向に進むことになる。メディアの世界にこれから起こるのは、そういうことだ。

そんな2019年がはじまった。だから今年は“面白く“なるのだと思う。何がどう面白くなるのか、MediaBorderとともに見定めていただければと思う。

 

 

 

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