テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2018年05月号

放送改革論議に、「人びと」の視点はあるか?

2018年05月18日 10:12 by sakaiosamu


※テレビ放送は我々の日常にすっかり溶け込んでいるが・・・

暴走する官邸、傍観する総務省

先月もこってり書いた「放送改革論議」だが、その後も情報収集を続けている。これまでも書いた通り、規制改革推進会議の電波割当見直し議論の中で、放送界は「電波を使い続ける意義」を問われるようになってきた。放送の社会的役割や公共的価値が問われ、その存在意義は将来的にもあり続けるのかを示す必要に迫られていた。

ところが3月にそんな議論の流れとはまったく別に、4条撤廃や外資規制撤廃、果ては民放不要論まで含んだ「放送法改革案」が取り沙汰された。これに対し新聞社と在京キー局は一斉に反発。テレビ局よりもむしろ新聞社のほうが強い反応を示して3月後半はメディア界が騒然とした。

4月16日に規制改革推進会議が出した方向性は、この非公式な改革案とはほぼ関係ない内容で、一部では「マスコミの反発でトーンダウンした」と言われた。だが同会議のメンバーは、その改革案は我々が作成したものではない、と断言した。

筆者はその後、ある会合で規制改革推進会議で電波割当の議論を扱う投資等ワーキンググループの原英史座長とお会いすることができた。原氏によれば、例の改革案の出現にはほとほと困り、世間から誤解されてしまった、とのことだ。この言葉通りなら、改革案は規制改革推進会議とは別のメンバーが作成したと考えてよさそうだ。

長らく放送業界と霞が関の関係を観察してきた人なら、本当の構造はわかるのだと思う。20年前の省庁再編、10年前の放送法改正の時がそうであったように、今回も「放送業界も監督下に置きたい経産省」の野心が背景にあったようだ。そこに安倍首相の意向が混ぜ込まれた結果が「4条撤廃を含む放送法改革案」になった。

安倍首相は官僚主導の政治から脱却しようと、財務省などの官僚は遠ざけている。ただ経産省だけは信を置き、重用している。そのため官邸は経産省からの出向者が中心で動いているという。

規制改革推進会議が電波割当の議論に入ったタイミングで、安倍首相が放送と通信の融合に強い興味を示したのを見た経産出身の官邸スタッフが、放送法改革を文書化した、というのが真相のようだ。

では経産省のどの部署がこの動きをバックアップしたのか、そもそも明確な集団として存在するのかはよくわからない。

一方、こうした動きに対し、はっきり言って総務省は主体的に対処できていない。大騒ぎの現実を目の前にしながら、オロオロと受け身でやり過ごしてきた。これは、一昨年秋以降の諸課題検討会でも同様で、同時配信についても議論をどこに進めたいのかリーダーシップを発揮しなかった。キツイ言い方をすると傍観していただけだ。

総務省が、放送界の将来を引っぱろうとしてこなかった、そのスキを官邸と経産省がついてきたのが今回の騒動だとも言える。これから、巻き返して存在感を示すのかどうかには注目したい。

コンテンツ産業の視点だけでいいのか?

一方、規制改革推進会議は連日のようにヒアリングを行い、着々とアウトプットに向かっているように見える。各回に詳しい議事録もついているので読むと、なかなかヘビーな議論が展開されているのがわかる。推進会議の委員は、放送業界の当事者ではないので、外から見た率直な疑問や意見をぶつけている。

とくに4月26日にNHKと民放連を呼んだ回は総務省の会議では出ないような”つっこみ”が多々あり、民放連幹部も真摯に回答しており読み応えがあった。また4月24日には著作権について文化庁や権利者団体を呼んでおり、推進会議の委員もこの問題のハードルの高さが理解できたのではないか。ネット配信にせよ海外輸出にせよ、この問題をクリアできなければ進まない。規制改革推進会議が踏み込むとしたら、著作権問題の解決ではないだろうか。内部だけで議論しても行き詰まるだけのこの問題にはぜひ取組んでもらいたいものだ。

ただ、規制改革推進会議が放送業界の今後について議論する際、コンテンツビジネスのみに傾いているのが筆者は気になっている。テレビは「情報」と「娯楽」を提供してきたが、コンテンツビジネスはほぼ「娯楽」のほうの話だ。その日のうちに消化されて終わる「情報」は二次利用も海外輸出もできそうにない。

そしてコンテンツビジネスについてはもう回りだしている、というのが筆者の印象だ。すでにAmazonやNetflixで、あるいはテレビ局自ら立ち上げたサービスで、最新のものから昔のものまで多様にドラマが観られる状況だ。Paraviなら「8時だよ!全員集合!」だって視聴できる。ある程度、構造が見えているのではないか。

だが「情報」を届けるほうのテレビの役割は今後どうなるか。そして広告モデルとしての未来像はどうなるのか。さらにそこでローカル局は何を担い、どう収益を立てるのか。そして収益が立てられないと消えていくしかないのか。本当に難しいのはそういう議論だと思う。いまのところ、規制改革推進会議は「全国で情報を伝え広告収入を得る」ほうのテレビの未来には踏み込んでいないように見える。

筆者は、テレビ局のそっち側の役割は今後ますます大事になるし、ローカルでテレビ局のあり方を確立する方法論こそが、未来のテレビを議論するうえで欠かせないと思う。そして見出せるはずだと考えている。規制改革推進会議の議論は前提として2040年ごろの未来をイメージしている。政府が科学技術政策として掲げるSociety5.0がその時代を想定しており、AIとIoTが活発に使われる社会で電波が足りなくなるかもしれない、というのが規制改革議論の出発点なのだ。この点を理解していない人が多いと思う。

2045年までに人口は2000万人減少し、地方では3割減るところも多いと予測されている。そんな中で必要なのは、一方はコンテンツビジネスかもしれないが、深刻な事態に見舞われているだろうローカルでの情報インフラの未来像だ。そこにテレビの役割はあるのか。成立するのか。はっきり言うが、放送法4条より外資規制よりずっと重要な問題だ。成立しないなら4条もへったくれもないし外資も買わないだろう。ではどうするのか。ビジネス視点と同じくらい、人びとの視点で考えねばならない。なぜなら、それは、必要だからだ。そこに暮らす人びとには、きっと必要だ。筆者はそう思っている。

そういう議論も、規制改革推進会議に期待したいところだ。

同会議は、5月中には第3次となる答申をまとめると聞いている。そこから6月にかけてが、ひとつのポイントになりそうだ。まさか3月の議論が蒸し返されることはないと思うが、引き続き注視したい。

なお、6月下旬にこのテーマのセミナーをいま準備中だ。もろもろ固まったら本誌読者にはお伝えするので、どうぞお楽しみに。

 

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