テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2018年03月号

テレビCMのオンライン送稿、10年前からの課題がようやく具体化しはじめた

2018年03月19日 14:28 by sakaiosamu
2018年03月19日 14:28 by sakaiosamu


※Group IMD社プレゼン資料より

テレビCMは制作されたあと、オンエアされるまでどんなプロセスを経るか。意外にみなさん知らないと思う。そもそもそんなことに興味もないのが普通かもしれない。

CMはどんなプロセスでオンエアされるか?あらためて想像してもらうとおそらく、デジタル時代なんだからファイルで送るんじゃないの?みなさんそう答えるにちがいない。

だが正解は、「これまでずっとテープを放送局に運んでいた。去年の秋からようやくデータによるオンライン送稿に移行しはじめた。」というものだ。いまどきまだテープだったの?驚くというか呆れてしまうと思うが、そうなのだ。

筆者はある時期映像製作会社に在籍しCM制作の現場を見てきた。10年ほど前からCM送稿のオンライン化は「近々そうなる」と言われ具体的に業界団体でも議論されてきた。制作会社にとってこれは脅威だ。なぜかは後述するが、痛手を負うが時代の流れ上致し方ない。CM業界ではそんな空気だった。

それから10年。不思議なことに、業界は覚悟していたのに具現化していなかったのだ。そのオンライン化がようやく形になりつつある。

Group IMD社は、そのテレビCMのオンライン送稿のシステムを担う会社のひとつだ。7社ほどがひしめきあうこの業態にあり、イギリスを本国とする外資企業として日本市場に参入している。その強みなどを取材した。

そもそもCMオンライン送稿はどんな流れなのか。CMdecoという受け入れ側のシステムがある。これは公式というか共通で、代理店が共同出資した会社が運営する。このCMdecoにつながって搬入するためのシステムを持つ会社が数社あり優位性を競っている状況だという。イギリスはじめ海外で実績のあるGroup IMD社は一歩先んじている存在だ。

オンライン送稿にするとどんなメリットがあるのか。何よりまずコストパフォーマンスが挙げられる。テープの時代は放送局別に原版からコピーを作成し、物理的に運んでいた。デジタルの世の中なのに、「モノにして運ぶ」というプロセスを取っていたのだ。それがオンライン化されることでコストの無駄を省き、不要な手間もなくなる。

その際、品質の問題も出てくる。CMには画質や音声に「オンエア基準」があり、放送局によってちがったりもする。それをクリアするには、原版作成前にポストプロダクションでの最終チェックが必要だった。Group IMD社では、この品質チェックもソフトウェアにより自動的に行っているそうだ。

またGroup IMDでは海外での実績もあることから、日本企業が海外で展開するCMについてもオペレーション対応できる。逆もまた同様で、現時点でシステムを指定するスポンサーは日本で展開する外資企業が多いという。

彼らはさらに、オンライン送稿の延長線にあるものとして「アドオーケストレーション」の概念を唱えている。

CMの映像は通常、完成したらオンエアまでに新たな要素を加えることは物理的にできない。だがGroup IMDではオンライン送稿を利用して完成版に映像や情報を付加する手法を海外で実現している。例えばCM完成後に、タイムリーにTwitterからキャンペーンについての人びとのTweetを採集し選んで、CMの映像に重ねて見せることもできるのだ。さすがに交差やチェックもあるのでリアルタイムでは表示できないが、オンエア10時間程度前なら十分可能で実績もあるという。

さらにその効果をオンエア中に解析もできる。タイムリーな形でCMを展開し、すぐに解析して次のアクションにつなぐようなやり方も可能になる。まさにテレビとデジタルをリンクさせたキャンペーンが実現できるのだ。

さてところで、オンライン送稿をCM業界は“脅威”と受けとめていたのだろうか。これについては非常に特殊で不思議な業界慣習があったのだ。

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