テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2015年10月号 vol.5

Netflixでドラマを作ってみたら、地上波にはない自由を感じた〜プロデューサー関口大輔氏インタビュー〜

2015年10月26日 15:16 by sakaiosamu
2015年10月26日 15:16 by sakaiosamu

Netflixで配信されている日本のコンテンツ、というと、とかく『テラスハウス』に話が行きがちだが、ドラマも配信されている。下着業界を舞台にした桐谷美玲主演『アンダーウェア』がそれだ。このドラマのスタッフリストを眺めていて、筆者は「あ!」と声をあげた。プロデュースの欄に関口大輔氏の名前があったのだ。

筆者は90年代から2000年代にかけてよく映画やドラマのポスター製作にコピーライターとして関わっていた。関口氏はもう20年近く前に何度か映画の宣伝の仕事をご一緒したことがあったのだ。当時は入社したてのまだ20代で、でも元気で愛嬌があって前向きで、誰とでもすぐに仲良くなってしまう魅力の持ち主だった。いまやすっかりヒットメイカーなので、ベテランの域に入っているにちがいない。そんな関口氏がNetflixで製作するとは。久しぶりにお会いして苦労談など聞いてみたいものだと、コンタクトをとってみた。

インタビューはNetflixのオフィスを借りて行った。時間に行ってみると、そこにいたのは20年近く前とまったく変わらない、相変わらずの元気と愛嬌あふれる関口氏だった。タイムトリップしたような気持ちで行ったインタビューは、楽しくもまた貴重な体験談や考え方が詰まったものとなった。きっとMedia Border読者諸氏にも大いに楽しんでもらえ、またためになるものだと思う。長くなるがぜひ読んでもらいたい。最初の部分は、関口氏のプロデュース歴と製作に対する考え方を語ってもらっている。

●気持ち悪い企画と言われても、意地で作った『ウォーターボーイズ』でヒットメイカーに

ほんとうにお久しぶりですね。ぼくは関口さんと『ときめきメモリアル』(同名のゲームを映画化した吹石一恵のデビュー作)のポスターのロケで千葉の海岸でご一緒したのをよく憶えています

関口:ああ、懐かしいですねえ。『ときメモ』はなぜかプロデューサーのクレジットにしてもらえましたけど、入りたてでアシスタントプロデューサーをずっとやってた頃です。自分でほんとに最初からやったのは『ウォーターボーイズ』からで、あの作品から独り立ちしました。

『ウォーターボーイズ』は当初、小品ではないかと言われたら大ヒットしてみんな驚いた作品ですね

関口:企画を出したら、会社からはこんなキモチ悪い作品(男子高校生がシンクロナイズドスイミングをする物語。妻夫木聡はじめ、のちのスター俳優が初々しく出演している)やめろと言われました。さんざん言われて。ぼくももう30才になるのでそろそろプロデューサーとして一本作りたいんですと言ったら、絶対あたらないからダメって言われたんですけど、どうしてもやりたいと言ったら、じゃあ製作費3億を1.5億で作るならいいよと言われました。ほとんどやめろって意味だったんでしょうけど、わかりましたじゃあやります!って言って突き進んだんですよ。

フジテレビとして半分以下しか出資しないと言うので、東宝さんはじめいろんなとこ行って「これやりたいんです」とお願いして回ったら、ずっとAPやってたのを皆さん見ててくれて「関口くんがそう言うんだったら出してみるか」と言ってもらえたんです。

いい話だなあ

関口:ありがとうございます!と、これでコケたらもうやめるしかないなあと思いながら作ったんですよ。当然宣伝費もなくて、コピーも自分で考えたんですよ「男のシンクロ!?」ってやつ。あれはそれまで境さんなんかと仕事した時、何枚もコピー案を紙に貼り出して延々議論したじゃないですか。あの作業を自分ひとりでやって「このコピーはこの側面から見たらどう思われるか」とか考えて作ったんですよ。境さんに頼む予算もないし(笑

でもあのコピーはすごく印象に残ってるし、その通りの映画でしたね

関口:タイトルも自分で考えて、ポスターも最初は自分で撮影して。宣伝もお金ないんで妻夫木君たちもその頃は時間あったので、夕方電話してごはん食べさせるから来てと呼び出して”勝手舞台挨拶”やったりしたらヒット作になったんです。

じゃあもうほんとうに自分でプロデュースしたって胸張れますね。『ウォーターボーイズ』は矢口史靖監督のメジャーデビュー作ですよね。ぼくは『ひみつの花園』を見てこの監督は面白いなあと注目していて。そしたら関口さんと作ってたんでやるなあと思いましたよ

関口:でも矢口監督には二回断られたんですよ。いやだ、そんなキモチ悪い映画、って(笑

え?じゃあ男の子のシンクロの映画って矢口監督じゃなくて関口さんの企画なの?

関口:ぼくと、アルタミラピクチャーズの桝井さんとで。二人でその前に『がんばっていきまっしょい!』を作っていて、そのあとなにやろうって話していたら、たまたまテレビに男子高校生のシンクロが出てきて、これやろう!と二人ではじめた企画だったんですよ。で、矢口さんにやりましょうよと持ちかけて。でもヤダヤダって言うんでもう羽交い締めにして、とにかくやりましょう!これはイルカのショーだと思ってくださいと説得しました。

そうなんだ!観るほうは『ひみつの花園』からつながってるなあと勝手に思ってました

関口:もちろん、矢口さんの手で彼らしい面白さになってますよね。ぼくらは男の子のシンクロを映画にしたら面白い、ってとこまでです。企画決まってからは実際にやってた川越高校のシンクロ部のみなさんにこってり取材しました。だからあの映画のストーリーは細かい実話の積み重ねなんですよ。

あれがヒットして、矢口作品を続けて作りましたよね

関口:矢口さんとは年も近いのですごく仲よくなって。二人で一緒にDVD借りたりとかプライベートでもつきあうようになったんです。もともと彼は女の子のジャズの映画をやりたいって言ってたんですよ。『ウォーターボーイズ』がヒットしたのでそれやりましょう、となりました。あらためて矢口監督が『ジャズやるべ』ってタイトルで持ってきたんだけどそれじゃ当たんないって言って『スイングガールズ』にしました。そこからは矢口さんとあちこちリサーチして回りましたね。あれは実際に大阪の高砂ってとこにある高校の話がもとなんですけど、東北訛りの女の子たちにしようと、二人でレンタカー借りて回ったんです。地元の高校生の訛りを聞いて回って、たどり着いたのが置賜(おきたま)弁っていって、山形の方言だったんです。それで舞台を山形にしました。

『スイングガールズ』の次は『ハッピーフライト』ですよね

関口:ぼく飛行機が好きなんで、『スイングガールズ』の次はそういう映画やりましょうってことになり、そこから二人で二年半ですね。羽田から成田からボーイング社からいろんなところに取材に行って、その二年半の取材をまとめたのが『ハッピーフライト』なんです。二人ですごい悩んで苦しんで作った作品ですね。

プロデューサーと監督が出会って二人で積み重ねてきた、いい話ですね

関口:友だちでもあるのでお互い言いたいこと言うし、「矢口さんのわけのわかんない発想は一般の人は理解できないよ」とか思ったこと言っちゃうし、ぼくが例えば合成について「ルーカスフィルムに頼んで本格的にやりましょうよ」と言うと矢口さんは「手づくり感のあるミニチュア模型でやりたい」とか言うし、お互いに言いたいこと言い合いながらやってきました。『ハッピーフライト』も、矢口さんいつもタイトルが変で最初は『安全には支障ありません』ってのを出してきて、それ絶対当たんないから、って『ハッピーフライト』にしたりとか。

『ハッピーフライト』のあと、ぼくはドラマ部に異動になってしまって。矢口さんはまたうちと『ロボジー』って作品やったり、TBSで『WOOD JOB』やってますけど、いまも時々会ったり連絡とりあってます。もう彼は巨匠になっちゃいましたけど、ぼくとは相変わらず友だちみたいな関係です。

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