テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2015年10月号 vol.5

テレビ局にとって、見せることが最大の価値になる〜新著『ネットフリックスの時代』西田宗千佳氏インタビュー〜

2015年10月21日 16:08 by sakaiosamu
2015年10月21日 16:08 by sakaiosamu

2015年10月16日、都内のあちこちの書店で『ネットフリックスの時代 配信とスマホがテレビを変える』というタイトルの新書が平積みされた。多様な領域で最新動向を文章にしているライター/ジャーナリストである西田宗千佳氏の新著だ。

 西田氏はIT系ガジェット系がベースだが、キャッチしている領域は広く、テレビや広告についても発言している。筆者も自然と接点ができて食事をご一緒したりもした。いつも、いつの間にかキーマンへの取材を済ませて原稿にしていて、筆者はなかなか追いつけないのだが。

そんな西田氏がネットフリックスを入口にテレビの今後について書いた本とあらば、いろいろお聞きしたいことがある。その内容はきっとMedia Border読者諸兄も興味があるものだろうということで、インタビューの時間をもらった。

ネットフリックスをはじめSVODにはどういう特質があるのか、それはテレビ視聴をどう変えてしまうのか、本の中身に添いつつ書かれていない深い部分も含めてじっくりお話を聞いた。キーワードは「イッキ見」。それはどういうことで、どんな影響が出てくるか。見えてきたのは、テレビのみならず映像コンテンツの未来像だった。(なお、Media Borderではふだんは”Netflix"とアルファベット表記しているが、このインタビューでは本のタイトルに合わせてカタカナで表記する)

→インタビューよりさっそく読みたい!という方はこちら

●ネットフリックスについて、というより、今後変化する視聴形態について書きたかった

このタイミングで「ネットフリックスの時代」のタイトルはタイムリーですね。この本の企画の背景を教えてもらえますか?

西田:実は当初のタイトルは「イッキ見の時代」だったのです。SVODのイッキ見によってテレビの視聴の形が変わる話が書きたいと思いまして。ネットフリックスやAmazonも来てるのでタイミング的にもいいですよと企画を持って行ったんですね。ですからこの本の1、2章は各事業者の紹介をする業界地図の話ですが、本題は3章からなんです。 ネットフリックスで切っちゃうと売りやすいけど何年も売れる本になりにくいのではと思っていて、視聴行動の変化の話にすれば長く売れると自分では考えていました。ただ、本を売る側からすると"ネットフリックス"と入っているほうが売りやすいようで。「黒船」も表紙にあるだけで私自身はネットフリックスを黒船だとは思ってないんですけどね(笑)。でも何事も、新しい事業者がやって来ることを語るのは"知りたい”という意欲を持ってもらいやすいものです。電子書籍もAmazonが来る、というのが注目点となりましたし。だから興味の入口として「ネットフリックスの時代」でいいのだろうと自分でも判断しました。

このインタビューでも話の入口に、読者に興味を持ってもらいやすい話題から聞いてしまいますが、続々登場したSVODサービスの中でどこが有力だと思いますか?

西田:"4強"になる、というのが私の考えです。ネットフリックス、Amazon、dTVとhulu。契約者ベースで言うとU-NEXTやGyaOもありますが、業界を変えるようなドライビングフォースの意味ではこの4つでしょう。Amazonは安さが圧倒的ですね。気がつけばプライム会員になっている人は多いので無料感覚で使えるし、フタを開けてみると日本のコンテンツが多かったのも驚きでした。まさか『悪魔のようなあいつ』(TBSの1975年放送の伝説的ドラマ)があるとは思わなかったですし(笑)。この手のサービスはユーザーにとってひとつだけとは限りません。諸外国を見ても多くの人が2つのサービスを使い分けています。その点、Amazonは2つ目に選びやすいサービスでしょう。fireTV(Amazonが発売するSTB)も他のサービスを使える。ネットフリックスやhuluと併せて使ってもらう前提なのだと思います。使ってもらえさえすればAmazonのECもついでに利用してもらえる。 そこがいちばんの狙いなのでしょうね。

huluはコンテンツが格段に良くなりました。通が選ぶならhuluだな、というラインナップを揃えられていますね。テクノロジー的には改善が必要だと思いますが。 dTVはユーザー数の圧倒的な多さが重要です。オリジナルコンテンツを依頼される制作者たちも、ユーザー数が500万もいるならコンテンツを作りたいと思ったでしょう。そこには、市場でのリーダーとしての価値がある。今後の課題は、アクティブユーザーをあげることだと思いますが。U-NEXTはアクティブが少ないし特長が少ないですね。GyaOは無料なのでテレビ局の見逃しの受け皿として有用だと思いますが、際立った面があまりないのが難点でしょう。

TSUTAYA TVは特長がなさすぎますね。店舗と連携してるといっても、店舗に行かない層がSVODに行っているわけです。店舗のほうは、高齢者とマイルドヤンキーのようなITリテラシーが低い人びとが支持層。もうひとこえ頑張って、なぜTSUTAYA TVなのかを見いださないといけないと思います。TSUTAYAの店舗としての魅力が落ちている中で、VODビジネスの配置ができていないのではないでしょうか。一方、GEOはエイベックスと組んだ点が面白い。それを活かせばいけるんじゃないでしょうか。彼らにとってそのやり方が現実的なのだと思います。

●"イッキ見"はテレビと人びとの関係をどう変えるのか。(ここからは登録読者のみ)
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