2015年6月20日放送の『新・週刊フジテレビ批評』に、日本でのサービスを秋に開始すると発表した動画配信サービスNetflixの日本代表、グレッグ・ピーターズ氏が出演した。Media Borderの境治がインタビュアーに指名され、じっくり話を聞いた。放送に入り切れなかった部分も含めて、この誌面で再録を掲載しよう。Netflixの正体に、境はどこまで迫れたか?

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※対談は、同時通訳を介して行われたため、通訳の日本語を読みやすく整えている。 

渡辺アナ:今日のテーマはこちらです。「Netflixは日本のテレビを変えるか」をテーマに対談していただきます。

境:Netflixは急激に成長されていますが、これまでの成功の理由はどこにあるとお考えでしょう?

グレッグ・ピーターズ氏(以下グレッグ):シンプルな答えだと思いますが、新しい機能を人びとが求めていて、それを我々が提供できたということです。利用者が、見たいデバイスで好きな時間に好きなコンテンツを見ることができる。つまりパーソナライズできている。それが利用者個々人に対して提供できているということではないかと思っています。

境:いろんなデバイスで見ることができる中で、アメリカではどのデバイスでいちばん見られているのでしょう。

グレッグ:利用者はマルチなデバイスを使っています。家の中ではテレビで、外ではモバイルデバイスで。子どもたちはタブレットで自分の部屋で使っているし、リビングルームで家族と一緒にも見ます。テレビはスクリーンが大きいので映画やドラマへの適性が高いです。

境:いちばん多いのはテレビですか?

グレッグ:テレビ、そしてテレビとつながっているデバイスを通して利用されます。多種多様なデバイスで使われているのが特長です。

境:ネット出自の企業はコンテンツを作らなかったりユーザーが作ったものを利用するところが多いですが、Netflixは自分たちで作っているのが面白い。それはどういった考え方、理念なのでしょう。

グレッグ:我々はもちろん技術の会社です。でも同時にコンテンツの会社でもあると自負しています。この二つの要素を組合せて利用者に提供するのです。つまり技術の会社がコンテンツに手を伸ばす、あるいはコンテンツの会社が技術に手を伸ばす、ということです。双方から歩み寄りがあり、両方とも重要だと思います。

境:『ハウス・オブ・カーズ』の制作ではデータを分析してスタッフやキャスティングを決めたと聞いています。意地悪な質問ですが、何もかもデータで決めるのは、ネットフリックス自身に何かを作りたい意志があまりないんじゃないかと言う人もいる。

グレッグ:50:50だと思っています。コンテンツがしっかりしていることは大事で、だからこそ人びとは見たいと思ってくれるのです。クリエイティブな要素とテクノロジーの両方が大事で必要なのです。

境:グレッグさんも映画やドラマはお好きですか?

グレッグ:私は映画もドラマも大好きです。大学では物理専攻でしたが、二つ目の専攻は映画でした。

境:50カ国に進出しているそうですが、国によってアプローチや戦略を変えているのでしょうか。

グレッグ:もちろん国によって文化に違いがあります。そして我々のアプローチをそれぞれの国に合わせていくことは重要です。コンテンツについては、国によって好まれるものとそうではないものがあります。ローカリゼーションも必要です。統一のもの、ローカライズしたもの、言語の壁も越えなければいけません。中にはどの国でも受け入れられるものもあるんですね。ワクワクすること、新しい出会いなどにどこの国の人びともときめきを感じるようです。

境:アメリカ以外でも順調に伸びていますか。

グレッグ:アメリカで成長しましたが、いまは海外で伸びています。グローバルコンテンツサービス企業になりつつあると言えます。

西山アナ:そしていよいよ日本へということなんですが・・・

境:意地悪な質問ですが、ネットフリックスは黒船だと言われてもいます。自分もそれに近いことを書いたのですけどね(笑)。そう言われることをどう思いますか。

グレッグ:クロフネ(そこだけ日本語でグレッグ氏は言った)と言われると我々が意図するところとズレてくるかもしれません。我々のビジョンは、新しい機会を創造すること。日本の皆さんに新しい機会を提供させていただくことです。そして日本の消費者が素晴らしいコンテンツにアクセスできるように、その手段を提供させていただくこと。そうしたことは、より若い人たちに受け入れられやすいと思います。また日本のコンテンツは世界で受け入れられるものが多くあります。実際にそうした例もある。そうした価値の創造、市場の拡大、に寄与したい。クロフネではありません。

境:この秋にいよいよサービスをはじめるということですが、いつ来るのかと私もずっと待っていました。なぜ今年なのでしょうか。

グレッグ:いろいろな国々で足場を固めてきました。カナダや、ヨーロッパにも展開しました。グローバルでプレゼンスができてきたと思います。アジアに進出する状況が整ったと考えました。そして日本は素晴らしい市場になると思います。我々にとってたくさんの要素が開けている。利用者の方たちも楽しめると思います。タイミングとしては好機だと思っています。

渡辺アナ:日本にもすでに同様の動画配信サービスがあります。ネットフリックスと同じ月額定額制ではdTVとhulu。さらにフジテレビを含めたテレビ局の動画配信サービスも各局スタートさせています。さらには無料サービスとしてGyaOもありますね。様々なサービスがある中で、このタイミングでの日本上陸となっていますが・・・

境:日本のサービスも優れているし会員を獲得できています。そこにあえて打って出るのは勝算があったのでしょうか。

グレッグ:日本は技術的なリーダーシップをとってきた存在として意識していました。そしてインターネットテレビは日本ではまだまだ浸透が足りないと観察しています。我々が力を合わせることによって利用者を新たなコンテンツの世界に導くことができると思います。そしてSNSやその他のエンタテイメントに時間を費やしている人たちに、こちらをみればもっと素晴らしいコンテンツがある、そしてその潜在性を感じていただきたい。

境:そうすると他のサービスと一緒にVOD全体が伸びていくと考えているのでしょうか

グレッグ:そうですね。協力、協業といったことが重要だと思います。そして利用者をうまく啓蒙していくことが大事でしょう。もちろん日本はこれまで技術の最先端を歩んできました。そういった意味で先駆者です。そしてこれからやれることというのはたくさんあると思うんです。ですので、利用者に対してしっかりと啓蒙していく、正しい知識を伝えていくことだと思います。

境:dTVやhuluのリーダークラスの方たちと交流がありまして、ぜひお引き合わせしたいですね。

グレッグ:もちろんです、ぜひ。

境:日本ではどういう料金体系ではじめるのでしょうか。

グレッグ:まだ調査中で、発表できる数字はありません。金額については決まったら最初にあなたにお伝えします(笑)。

西山アナ:無料サービスはどうお考えですか。

グレッグ:無料サービスがあり、一方で定額サービスもある。これは利用者の異なるニーズに応えるものだと思います。我々が提供するコンテンツが好きであれば、広告がないこともビジネスモデルとして受け入れられているものなんですね。定額でもファンがいると思う。重要な点としては、両方が共存できること。片方どちらかに集約しなくていいということです。

渡辺アナ:ただ日本はアメリカのように多チャンネルという環境にまだ慣れていない人が多いですが・・・

G:日本はある意味幸運だと思います。無料で地上波が見られる環境にある。日本の視聴者はこれに関して満足してきました。ただ、すべての視聴者が満足しているでしょうか。地上波は素晴らしいがそこに新たなケイパビリティを加えていくことはできます。地上波ではできないこと制限されていることも、インターネットテレビではできるのです。さらにコンテンツを世界の各地から載せることができる。

境:では、テレビはネットフリックスにとって敵なのでしょうか、それとも味方なのでしょうか。

グレッグ:友だち、親友であることを願います。テレビがこれから消えていくという未来像は私は一切持っていません。我々が提供するのは、これまでのテレビとは別のニーズに対するひとつの答え。既存のテレビとは協業していくことができます、フジテレビはその好例です。新たなストーリーを日本の利用者にもたらすことができると思います。

境:フジテレビとの協業を発表されましたが、そんな風にいろんなテレビ局と組んでいくのですか。

グレッグ:まずはフジテレビとの提携を行うことが2つの作品で決まっています。『テラスハウス』と『アンダーウェア』。視聴者がすでに大好きなコンテンツ。大変楽しみです。

境:この2作に続いてフジテレビと次々に作品を作って行く計画でしょうか。

グレッグ:もちろんそう願っていて、他の番組を作ることについても話をしています。

西山アナ:テレビ局がコンテンツを作り出す能力はどう思ってらっしゃいますか。

グレッグ:テレビ局のコンテンツ制作は何十年もやって来たことで、大変な力を持っていると思います。さらに、放送に携わる人びとは視聴者の傾向もとらえている。どういったコンテンツが求められているかも知っている。これは強い組合せです。我々は、グローバルな利用者の傾向や、配信の仕組みについて知っている。それを両方合わせることで素晴らしいことが実現できるでしょう。

境:日本のコンテンツメイカーと協業する際、どういった組み方になるのでしょう。制作費はネットフリックス側で負担するのか。ある程度出し合うのか。

グレッグ:具体的には個々の状況によると思います。取引条件は個々に異なるのですが、大きな機会を私たちが提供することが重要。グローバルな視聴者が作品を見てくれます。

境:今回のフジテレビとの協業でも、一定期間ネットフリックスで配信した後はフジテレビで放送や配信してもいいそうですが、基本的にそう考えているのか。

グレッグ:はい。先ほどからのお話と同じになりますが、コンテンツを多様なデバイスで配信することが重要。どのデバイスで見るかは利用者が選ぶことです。

境:いわゆる著作権は双方で持ち合うのでしょうか、フジテレビが持つのでしょうか。

グレッグ:もちろんケースバイケースなのですが、今回のフジテレビとの協業では、制作著作もフジテレビが持ちます。我々としてはグローバルな利用者に見てもらうことを楽しみにしています。

境:グレッグさんは別のインタビューで「すべてのコンテンツをローカライズする」と答えていました。そうすると、日本のコンテンツも世界中でほぼ100%見られるようになるのでしょうか。

グレッグ:もちろん世界のすべての国でサービスを提供してはいませんが、かなりの国で見ることができます。それからローカリゼーションでは、市場がどういったものを求めているかが大事です。求められるもののコンビネーションは市場によって異なりますから。

境:グレッグさんから見て、日本のコンテンツは世界市場でも力を持つと思いますか。世界中の人がテラスハウスや今度のドラマをみてくれるでしょうか。

グレッグ:私自身は日本のコンテンツの大ファンで、日本の作品が世界で見られることについて自信を持っています。何よりアニメです。クリエイティビティ、創造性、総合的に見て素晴らしい。比類の無い存在で、地球上にファンがいます。熱狂的なファンが、です。非常に質が高い。そのよさを日本から世界中に引きだしたいと思います。世界で利用者を増やしたい。そしてコンテンツはストーリーをどう伝えるかで魅力が変わってくるので、最大の効果を出せるよう考えていきたいです。

渡辺アナ:日本ではテレビを見る人が減っていると言われます。電波かネットかは別にして、画面の前で待っている日本の視聴者にぜひメッセージをお願いします。

グレッグ:ここには大きな機会があります。質の高い時間の過ごし方を提供できるのです。若い人には人気が出ると思います。映画やドラマ、ドキュメンタリーには素晴らしいストーリーがある。これを伝えていきたい。それは喜ばしい体験となっていくでしょう。それがコンテンツの素晴らしさです。人びとは血が沸く思いをすると思います。

境:すみませんが、聞きそびれた質問をさせてください。テレビメーカーと提携して、リモコンにネットフリックスボタンがつくそうですが、これはレベニューシェアなのでしょうか。

グレッグ:長い時間をかけてテレビメーカーと協議してきました。ネット機能をどのようにテレビに内蔵させるかを議論してきたのです。パートナーシップの問題ですね。リモコンにボタンがつくことを通して、我々が利用者にメッセージを伝えられます。それは価値。つまりテレビがこれからどういう役割を持つデバイスであるかを変えていけると思うのです。ボタンひとつ押すと素晴らしい体験がそこに開けるのですから。

境:アメリカではレベニューシェアが成立しているが日本ではそうではないという噂を聞きましたが。

グレッグ:日本の電機メーカーとのパートナーシップは素晴らしい。ですので、市場が変わってもパートナーシップは変わりません。


最初に「どこまで迫れたか」と書いたが、我ながら「核心に迫れなかった」と反省しきりだ。質問が、少しずつ空振りに終わった感は否めない。この時の印象としては、質問をうまくはぐらかしながらそつの無いことをいうグレッグ氏に、なんだか日本人みたいだなあと思ったものだ。だがその後、他のメンバーへもインタビューしてみて感じたのは、はぐらかしたというより、決まってないことを言わないだけなのだということだ。また、日本について市場としてだけでなくコンテンツにも多大な期待を寄せていることがよくわかった。ひょっとすると来年あたり、日本の作家のアニメ作品が世界中でヒットしている可能性は十分あるだろう。これに続いて、他のメンバーへのインタビューも近々記事にしていくので待っていてほしい。

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