Introduction
脇浜紀子氏は現在、京都産業大学・現代社会学部の教授だ。その前は、関西キー局である讀売テレビにアナウンサーとして勤務していた。アナウンサーでありつつもネットを駆使した新しいコミュニケーションの試みにも取り組んでいたし、忙しい仕事の傍らメディア研究にもいそしみ学位を取得。そこにあった問題意識は、地域に寄り添うメディアとは、というものだった。その脇浜氏に寄稿を依頼したところ、ちょうどアメリカで開催されたオンラインジャーナリズムのイベントに行って来たばかりとのことで、そのレポートをまとめてもらった。脇浜氏ならではの視点で、世界のメディアの課題を伝えてもらう。もちろんそれは、日本のメディアの悩みと相通じるにちがいない。ぜひ読んでもらいたい。
書き手
脇浜紀子
京都産業大学 現代社会学部教授
写真右は、会場となった、テキサス・オースティンのJW マリオットホテル
「ローカルジャーナリズムにおいて”市場の失敗”があります」
はるばる出かけて行ったのは、アメリカ・テキサス州・オースティン。音楽やテックの一大フェスティバルSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)の開催地としても最近はよく知られている街だ。今回開かれたのは、オンライン・ニュース・アソシエーション(ONA: Online News Association)の年次カンファレンス、ONA18。デジタルテクノロジーがメディアランドスケープを大きく変える中、1999年に発足した同組織のカンファレンスは19回目で、ジャーナリスト、技術者、研究者、IT企業人など、2500人余りが参加し、9/13から3日間にわたり、100を超える講演、パネル、テーブルトークが行われた。筆者自身は初参加で、「ローカルニュース」と「映像」に関わるセッションを中心に聴講したが、本稿では、「ローカルニュース」についてのセッションから、私なりの解釈も交えながら報告したい。
プレセッションの登壇メンバー
左から、ギャラップ社のブランドン・バスティード氏、ナイト財団のジェニファー・プレストン氏、USAトゥデイネットワークのミゼル・スチュワート三世氏、テキサストリビューンの設立者のジョン・ソーントン氏
前日のプレ・セッション(Trust, Media and Democracy)で、のっけから明言されたのが冒頭の「ローカルジャーナリズムの市場の失敗」という言葉である。米国では、デジタル化が伝統メディアにもたらした広告不況と景気後退の影響で、地方新聞が経営困難となり、記者の大量解雇や、休刊・廃刊が相次いだ。また地域放送においては、ローカル局のオーナーシップの集中が加速し、複数の地域で「看板」だけ付け替えた同じ番組が放送されるということが起こっている。要するに、「ローカルニュースがペイしなくなった」メディア環境にどう対処していけばよいのか、皆の知恵を持ち寄って考えるというのがこのカンファレンスの意義の一つなのである。
初日の基調講演に登場したマイクロソフト・リサーチの主任研究員デイナ・ボイド氏は、「メディアの情報操作、増幅、責任」(Media Manipulation, Amplification and Responsibility)というテーマで、実に幅広い分野を網羅しての弾丸トークを繰り広げたが、"Capitalism(資本主義)"というパートで、次のように指摘した。
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