テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2016年12月号

2016年MediaBorder話題ランキングに投票しよう!(後編)

2016年12月06日 10:18 by sakaiosamu
2016年12月06日 10:18 by sakaiosamu

昨日に続いて、2016年の話題ランキングの後編をお届けする。(前編を読んでいない方はそちらから読んでください→前編記事

●映画興行、次々メガヒット

今年は7月末公開の『シン・ゴジラ』に続き8月末公開の『君の名は。』と映画興行でメガヒットが続いた。テレビとネットの融合と関係ないようだが、二作品とも東宝の配給ながらテレビ局が関与していない点がエポックメイキングだった。twitterで爆発的に拡散されたこともあり、テレビのメディアパワーに頼らなくても映画がヒットを、しかも『君の名は。』のほうは記録を塗りかえるようなヒットとなったことは、メディア状況の変化を強く思い知らされた。

現在公開中の『この世界の片隅に』はさらに特異で、ミニシアター規模の60館での興行で10億円が見えてきている。こちらに至ってはテレビ局が関与しないだけでなく、東宝・松竹・東映の大手配給ではない。それがこれだけ全国規模で話題になり公開館も拡大しているのは異例だ。そしてこちらも、ソーシャルメディアで拡散されている。

これまでソーシャルメディアがエンターテイメント市場を動かすことはあっても限定的だったのが、マスと呼べる規模を動かしはじめているのは、テレビとネットを考えるうえでも重要ではないだろうか。

●「逃げ恥」現象

特定のドラマのヒットをこのラインナップに挙げるのは本来的ではないかもしれないが、極めてソーシャルテレビ的だと思えるので挙げてみた。

これまでソーシャルテレビ推進会議では、テレビとソーシャルメディアの関係を様々に分析してきたが、twitterの盛り上がりが視聴率を動かすことは少なく、視聴率を左右する数を動かすにはtwitterでは力不足だとしか思えなかった。ところがドラマ『逃げるが恥だが役に立つ』では、「恋ダンス」をフックにしながらtwitterの盛り上がりが明らかに視聴率をアップさせたと言えそうだ。状況証拠でしかないが、恋ダンスが話題になりtwitterで拡散され、それとともにTVerなどで前話が視聴されることで視聴率につながったようなのだ。

そしてこの現象と、ひとつ前の「映画のメガヒット続々」の話は実は同じ現象なのかもしれない。『君の名は。』を映画館で見た時、若い人たちが席を埋めており、こんなにも恋愛物語を求めている人がいるのかと驚いた。若者たちに楽しく美しい恋物語を提供する、そのシンプルな責任をテレビはここ数年果たしていなかったのではないか。上手に提示すれば、若者たちはこんなに心拍数を高めてくれる。また、そのために十分な普及をソーシャルメディアが獲得したのだとも言えるだろう。

「逃げ恥」現象は、実は『君の名は。』のメガヒットと同じくらい価値があるのだと考えている。

●SVODオリジナル番組、続々

昨年はNetflixの上陸で、映像メディア界はSVODにはじまり終わった感がある。今年はプラットフォームの普及についてより、彼らが続々とオリジナルコンテンツ製作に乗り出したことが話題になった。

6月にはNetflixが満を持して『火花』を配信した。彼らの弁によれば世界中で視聴されているとのことだが、正直日本では"滑った"感じがしている。「あれ見た?」という話題には、業界内でも一般の間でもならなかったようだ。

むしろhuluの『ラストコップ』がネットで配信されたあとで日本テレビで新シリーズが放送されたことのほうが、話題として力があった。またAmazonでは仮面ライダーのオリジナル作品など次々に番組が出てきて、つい先日は松本人志の『ドキュメンタル』が配信されたのはインパクトがあった。

またdTVではコンサートがライブで配信された。VRのトライアルも含めて、若者たちにサービスの入口としてアピールできていたようだ。こうしたオリジナルコンテンツの配信は、当面、私たちを楽しませてくれそうだ。

●スポーツ定額配信スタート

SVODのコンテンツとしてスポーツに注目が集まったのも今年の新しい傾向だった。3月にはソフトバンクがスポナビライブをスタートさせた。キャリアとして自社ユーザーへのサービスの意味もあるが、料金は高くなるものの他社キャリアユーザーでも契約できる。秋に再出発したバスケットボールのプロリーグ、B.リーグとがっぷり四つで組んだのもポイントだ。

一方、「スポーツの黒船」とも呼ばれたパフォームグループのDAZN(ダゾーン)が日本でも8月にサービスインした。Jリーグの配信権を10年分2,100億円で獲得したという。はじまったばかりで会員数の情報も何もわからないが、スポーツファンにとっては魅力的なサービスなのだと思う。

こうなるとスカパーがどうなるかが気になる。また、高騰するスポーツ番組の放送権、配信権に放送界全体でどう向き合うかも考えどころだろう。リアルタイム視聴にはいちばんのコンテンツであるスポーツが、テレビとネットの狭間でどうなるのか、注目だ。

●メディアのモラルが問われる

最後の話題は抽象的だが、今年のテレビとネットを取り巻くテーマの中で外せないものだ。テレビが、そしてネットメディアが、様々な局面でモラルを問われた一年だった。それに、まったく総括が為されていないのもどうなのかと思う。

年明けから半年ほど、世間の話題は週刊文春がリードしていた。不倫だ解散だと、文春がすっぱぬいたことをテレビが追いかけ、ネットが沸騰させた。もっとも旧式の媒体であるはずの紙メディアが、電波も通信も振り回していたのだ。

文春のスクープには、魂をかけたようなところがあった。ただし、そのすっぱ抜きは本当に社会的価値があるのか、別の角度から真相に迫らなくていいのか。そんな問題意識はすっとばして、テレビはただひたすら後追いして騒ぎを大きくしていった。ネットではバイラルメディアだのキュレーションメディアだのの名称で何の検証もせずにPVが稼げそうな話題に食らいついていく。

かくして、旧メディアも新メディアも一緒になってイナゴのように新たなネタを襲っては食い尽くし、次の獲物に飛び去っていく行為を繰り返した。

年末に、新旧メディアはそれぞれみっともなさをさらした。ASKAこと宮崎重明の逮捕へのプロセスを全テレビ局が長い時間を割いて放送した。そこには、実は視聴者のニーズはなくあきれ返っていることに気づくメカニズムを失っていた。

ネットではDeNAが運営するキュレーションメディアがいい加減な情報を垂れ流していたことが発覚し、他の分野のものも含めて9メディアを事実上クローズした。これに呼応して、他のメディアでも心もとない記事が大量に削除される事態となった。

メディアのモラルが問われている。最初から最後まで問われた一年だったし、次へ向かうためのビジョンが共有されてもいない。ただ不毛なる場にメディアがなりかねない瀬戸際だと思うが、どうだろう。

さてここまで、今年の話題ランキング候補を解説していったが、以下のリストでもう一度確認してもらおう。10の話題が並んでいるが、その中であなたとして3つを選んでチェックしていただきたい。集計がなされたら、また記事上で報告しよう。ぜひ一緒に選んで楽しんでもらえればと思う。(投票は登録読者のみ)

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