テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2016年03月号

SVOD戦国時代第二幕のカードを握る?U-NEXTの正体とは〜株式会社U-NEXT取締役・NEXT事業本部長、堤天心氏に聞く〜

2023年03月09日 09:15 by sakaiosamu
2023年03月09日 09:15 by sakaiosamu

U-NEXTの名前は、MediaBorder読者ならご存知だろう。だが他のSVOD事業者に比べると、知識が薄いのではないだろうか。おそらく業界内でのユーザー数も少ないだろう。表にその存在があまり出てこなかったと思う。

だが、実はSVOD界でもっとも早くサービスを起ち上げた事業者のひとつであり、市場の中でも大きな存在となっている。先日のGEM Partnersの記事で、市場の推計を紹介したが、それによるとU-NEXTは3位なのだ。

これはU-NEXTの月額料金が1990円と他の倍程度だからだ。料金が約半分のHuluの次につけているのなら、会員数はHuluの半分以上だと見てよさそうだ。

一方、気になる情報としてTSUTAYAと共同で映像の企画制作を行う新会社を設立したニュースもある。オリジナルコンテンツを共同で作るということらしいが、それだけだろうか?

→CCC子会社とU-NEXT、マイシアターD.D.が共同でオリジナルドラマ/アニメ制作会社を設立(AV watch 2月2日)

先日のゲオチャンネルがスタートした際の速報記事でも書いたが、どうやらSVODは昨年巻き起こった戦国時代の、第二幕がはじまろうとしているようだ。その中でもU-NEXTはこれまで目立たなかったが逆に、重要なプレイヤーになる気がしている。そこで、同社のキーマン、取締役NEXT事業は本部長・堤天心氏に話を聞きに行った。そもそもU-NEXTはどうスタートしたのか、基本的なところからうかがったので、じっくりお読みいただきたい。(ここから先は登録読者のみ)

株式会社U-NEXT・取締役NEXT事業本部長、堤天心氏

堤氏が、U-NEXTのもともとの運営会社であるUSENに入ったのは、母体となったGyaO NEXTの起ち上げ直前だったと言う。

USENがまず、2005年に無料の動画配信サービスGyaOをスタートさせた。USENとしては、VODとしてショウタイムを楽天と共同で運営していたが、都度課金モデルでは伸び悩んだため、無料モデルとしてGyaOをはじめた。さらに、定額有料にも方向性を見出し、2007年にスタートさせたのがGyaO NEXTだったという。2009年には名称をU-NEXTに変更した。

「その後、USENが事業再構築をする中でGyaOはYahoo!に、ショウタイムは楽天に売却され、U-NEXTは2010年にMBOする形でスピンオフしました。GyaO NEXTの時代から考えると、SVODのかなりの黎明期に起ち上げていたことになりますね」と堤氏は振り返る。

いまになってSVOD市場は多様なプレイヤーが参加して盛り上がっているが、日本での草分けはU-NEXTだったのだ。

面白いのは、U-NEXTがテレビ向けのSVODサービスとしてはじまった点だ。

「当初はUSENの固定回線とのバンドル販売が主で、STB(Set Top Box)で見てもらうサービスでした。2011年からはマルチデバイスで見てもらえるようになっています。いちばん早くからテレビに取り組んでいた自負はありますね」

SVODサービスの多くはネットではじまり、あとでテレビでも視聴できるようにしてきた。U-NEXTはその逆で成長してきた珍しい存在だ。

マルチデバイスのサービスになった今も、テレビを中心にしたユーザーは多い。視聴時間で見ると半分強はテレビでの視聴だそうだ。またユニークユーザー数の4割は、テレビを中心にした利用者だという。テレビでの視聴を軸にしたマーケティングを組み立て、それに見合った結果が出ている。

「1990円と他社さんより高額ですが、SVODとTVOD(都度課金)の両方のサービスを利用してもらえます。本当に映画やドラマが好きな人は、新作を都度課金で見たい人が多いので、両方楽しめるのは使いやすいでしょう。料金の半分の1000円分はポイントとして都度課金に使ってもらえるので、実際には他社さんと変わらない料金だと言えます。」

本当の映画好き、ドラマ好きに対して、良質なコンテンツを届けたい。テレビを重視するのもその表れだと言う。

「本当に映画やドラマをじっくり視聴するならテレビでしょう。スマートフォンはどこでも使えて便利ですが、作品をじっくり見るには向いていない。私たちは”1990円の付加価値”を常に考えています。言いにくいですがアダルトも2000本見放題ですし、雑誌70誌の読み放題もついています。コンテンツが本当に好きな人のためのサービス充実を図っています。」

考えてみれば私自身も、SVODを使っていても、本当に見たい新作は入っておらず結局iTunesStoreなどの都度課金で見ることも多い。確かにコンテンツ好きにはかえってリーズナブルで使いやすいかもしれない。

「映画館とのアライアンスも、そうしたコンテンツを楽しみたいお客さんを意識してのことです。イオンシネマさんと提携していて、U-NEXTのポイントを映画館でも使ってもらえます。T-JOYさんとも同様の提携をしていますし、映画館の皆さんとはアライアンスを広げていきたいですね。」

堤氏は他の事業者をどう見ているのか。とくに気になるのはどこか、聞いてみた。

「いちばん気になると言えばAmazonさんですね。見ていると、短期的に儲からなくてもいいと、間尺に合わないことをやっていますよね。Netflixさんも、5年くらい粘るみたいなので、いろんなことやってきそう。怖いですね。普通だとどうしても、採算が求められますから。」

さて、質問をいちばん気になるところに向けた。TSUTAYAとの制作会社設立については?

「もちろん共同で作品を作っていく会社ですが、いろんな議論は進めていて、具体はこれからです。SVODではやはりオリジナルコンテンツが重要なファクターになりますから。これまでの配信事業は二次使用のウインドウでしたが、Netflixが配信もファーストウインドウになりえると証明してくれました。これもテレビがポイントで、やはりモバイルだとファーストウインドウにはなれないと思うんです。テレビでの視聴が中心だと、オリジナルコンテンツが大事になる。」

制作会社というと、プロデューサーやディレクターがいて、ということになるのだろうか?

「いえいえ、企画をしたにしても制作会社さんと相談して作っていきます。いい企画があれば、持ち込んでいただいてもいいですよ!」

さらに、もっと気になるTSUTAYAとの関係についても聞いてみた。制作会社の設立のあとには、もっと深い提携があるのではないだろうか?

「CCCの増田さんと宇野(宇野康秀社長)とは十年以上の交流があり、USENはTSUTAYAの加盟店でもありましたから、もともと縁遠かったわけではないのです。ゲオさんがゲオチャンネルをはじめたいま、TSUTAYAさんもいろいろ考えてらっしゃるんじゃないでしょうか。日本人がエンタテイメントに触れる場所は映画館、そしてレンタル店ですから、そこをテコに配信を考えるのは当然だと思います。Netflixさんも、郵送レンタル会員がベースで配信をはじめていますしね。」

そんなTSUTAYAと、もっと深い組み方をするのでは?と、さらに突っ込んでみた。

「いろんな可能性はありますから、すべての可能性はゼロではないですよね。ただ、これから配信業界もあと数カ月くらいでプレイヤーが揃うんじゃないかと。そしてこれから5年間くらいで決勝戦じゃないですけど、淘汰もはじまるかもしれませんし、再編もあるのでしょうね。当然我々も勝ち残りたいと思っていますしね。」

結局最後まではぐらかされた形だが、何かを進めていることは感じとれた。しかも、これから数カ月の間のようだ。

U-NEXTの具体的な動きはいまはなんとも言えないが、とにかくSVOD界では明らかに第二幕が開こうとしていることがよくわかった。年初に、SVODは静かに進むと書いた私だが、完全に見誤っていたようだ。今年も、SVOD界の動きからは目が離せそうにない。

 

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