テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2015年12月号

フジテレビが配信サービスFODのデータをさらしてくれた!〜広告価値を高めるには属性データが必要ではないか、という主張〜

2016年01月05日 01:35 by sakaiosamu
2016年01月05日 01:35 by sakaiosamu

この記事は、フジテレビのコンテンツ事業局・野村和生氏へのインタビューを元に書いたもの。野村氏は、同社の配信サービス・FODの現場を引っぱるキーマンだ。

11月に行われたInterBEEで、TVerをテーマにした基調講演が行われた際、パネリストとして参加した野村氏がFODの視聴データをスクリーンで披露したと聞いた。筆者はその講演を聴講できなかったので野村氏にデータを見たいとお願いしたら、見せるというより丸ごとポンと送ってくれた。その内容はいろいろ驚く点があり、そもそもテレビ局の配信サービスでこんなデータが作成されたことに関心を持った。

そこであらためて野村氏に時間をもらい、データを見ながらじっくり話を聞いた、という次第だ。そこには、言ってみればテレビ局が未知なる領域で悪戦苦闘する、産みの苦しみとでも言うべき現状があった。他局の配信サービスはもちろん、いろんな分野の方々に参考になる話だと思うので、ぜひじっくり読んでもらいたい。野村氏の人間味あふれるキャラクターとともに、楽しんでももらえるだろう。

本題に入る前にまず、FODの概要を説明しておこう。他のテレビ局の配信サービスと、FODは基本的なスタンスが少し違う。テレビ局の配信サービスは、普通は放送した自局の番組のネット配信を担っている。FODは、フジテレビが放送した番組の配信だけではなく、ネットオリジナルの番組や、買い付けてきた映画やアニメ、ドラマなど幅広いコンテンツを扱っている。さらに、マンガを中心に電子書籍まで置いていて、映像に限らずコンテンツを豊富に楽しむことができるのだ。

料金体系も、いま注目のADVOD(広告付き無料配信)がありつつ、月額ポイントや個別課金、さらにはSVODの見放題メニューもある。これらをひっくるめて、Ultra-VOD = U-VODと(冗談めかしているのか本気なのかわからないが)称している。

まず聞いたのは、InterBEEでデータをあえて見せた意図だ。これについて野村氏はこう語った。

「アンケートをとっている意義を訴えたかったんです。放送には視聴率があるように、配信にもデータが必要です。それにせっかくインターネットで展開していて、双方向の媒体なのでやろうと思えば全数データもとれるわけですから。広告の単価を上げていくには、こういうデータは必要だと思っています。」

野村氏にとって、昨年行ったイギリスで見聞きしたことも大きいと言う。

「去年の今ごろイギリスに視察に行ってiTVと議論したのですが、彼らは生年月日やメアドまで登録させているそうです。だからとにかく、属性は取らないといけないのではと思いました。そこで4月から属性をとりはじめたのですが、当初は選択式だったもので、1990年1月1日の人がたくさん出てきてしまいました。(選択メニューが最初この日付で設定されていたため)生年月日までとられることに抵抗を感じる人も多かったようです。そこで7月からはリセットして生年月を数字入力で入れてもらい、住所ではなく郵便番号をいれてもらうことにしました。」

つまり7月までのデータを思い切って諦めて、あらためて7月からリスタートしたのだ。ただ、7月クールは月9ドラマ『恋仲』が若者に受けて、FODにもたくさん来てくれたそうだ。そして10月からはTVerがはじまったわけだが、影響はあったのだろうか。

「TVerに加わることで3~4割再生数が伸びています。TVerの影響でFODが減るのではとの懸念もありましたが減らなかったのです。番組への意欲がある人はFODに直接来て、モチベーションの浅い人はとりあえずTVerに入った上で、うちのを選んでくれた人もいたのではないでしょうか。『下町ロケット』のついでに『テラスハウス』も見ようとか、そんな視聴行動でしょうね。」

ではまず、10月のFOD全体の視聴層のグラフを見てみよう。まずは、全体のデモグラフィックデータを視聴率の区分に合わせて円グラフにしたものだ。 

 この構成は非常に興味深い。放送ではあれほど若者が離れていると言われるテレビが、ネット経由になると若い女性中心に変わるのだ。ほとんどF1F2中心と言っていいデータだ。若い女性が多いのは、FODのひとつの大きな特長だという。

同じデータを今度は棒グラフで見てみよう。ただし今度は、3才ごとに区分して表示している。生年月日をとっているので、こういう分析も可能なのだ。こうして見ると、意外に年配の男性も多いことがわかる。

番組によってまったくちがうデモグラフィックデータ

さていよいよ、番組個別のデータも見ていこう。グラフになっているのは、『オトナ女子』『無痛』『巷のリアルタイムTVカミングアウト!』『テラスハウス』の4番組だ。(ここから先は登録読者のみ)

さてまずは『オトナ女子』だ。ひと目でわかるように、ほとんど女性で、しかも意外に若い層も多い。『オトナ女子』は篠原涼子主演の、どう見てもF2を意識したラブコメだが、FODではむしろコアはF1だ。同じコンテンツが、デバイスが変わると違う層にも見てもらえる典型的な結果ではないだろうか。

これを見ると、次に気になるのは視聴者の数だが、野村氏は具体的数字は明かせないまでもこんなことを教えてくれた。

「視聴者数は大まかに言うと二ケタ万人です。どの番組もそれくらいはいきます。そして4月より7月、7月より10月と増えていますね。だんだん増えていっているので、きっと見逃しを去年の初めからつづけている日テレさんはずいぶん多いでしょうね。それから、ある回を見た後でどうしているかを見て行くと、次の回ではプラス7からテレビに行く人がかなり多いことがわかっています。リアルタイム視聴を多少なりとも押し上げているようです。」

どれくらいかはわからないが、見逃し視聴がリアルタイムの視聴率を押し上げているのは、他局でも確認している傾向だ。

次に水曜10時のドラマ『無痛』のデータはこうなっている。

先ほどの『オトナ女子』とはまったく違うのが面白い。年配層中心で実際のテレビ視聴と近いのかもしれない。だが同時に若い層へ広がってもいる。このドラマは視聴率はあまりとれていないが、評価は高く、時間帯的に損をしているだろう。TBS『MOZU』もそうだが、視聴率はそうでもないが評価の高いドラマは最近多い。『無痛』もその部類なのだと言えそうだ。

続いてバラエティで、『巷のリアルタイムTVカミングアウト!』だ。これは毎週金曜日19時台の番組で最近けっこう人気があるようだ。そのデータはこうなった。

これがまた興味深いデータになった。48〜50才の男性に山がある。『オトナ女子』と正反対と言っていい結果だ。おそらく、リアルタイムで視聴経験がある男性が、遅く帰宅した際に見てくれているのではないか、と野村氏は見ている。実際、バラエティは男性中心の傾向が強いそうだ。それに番組によってデモグラがまったくちがってくるという。

最後に『テラスハウス』だが、これまた極端な結果が出た。

完全に若者、しかもティーンが中心だ。女性のほうが多いが、テレビがとりこぼしがちなM1も見てくれている。『恋仲』も同じ傾向で、もっとティーンに寄っていたほどだと言う。こういう番組もあるのだ。

『テラスハウス』は、回を追うごとに視聴者数が増えているそうだ。そこにはこの番組独特の背景もあるかもしれない。前にレギュラーで放送していた時は、23時台に全国ネットで放送されていたが、いまは深夜に関東ローカルで放送されている。だから前に見ていた人が少しずつ気づいて、増えているのではないかと野村氏は分析する。

こうして見ていくと、テレビ放送とは違った視聴のされ方をしているのがわかってくる。非常に参考になるデータだ。

さてこうしたデモグラフィックデータをとることで、FODはどうしていくのだろうか。それについて野村氏はこう語る。

「まだこのデータでセールスしていないですが、広告主の方が目を留めてくれて声がかかったらうれしいですね。視覚的に視聴者が把握できるのは新鮮に受けとめてもらえる気がします。またiTVの話になりますが、彼らはタイムシフトよりネットのほうが単価が高いからそっちに降り切っていくと言っていました。iTVでは3分ぐらいCMを入れています。いま日本ではCM挿入が1チャンス2チャンスが多いですが、イギリスでは5チャンスぐらい入れているのです。そういった手法も含め、iTVは昨年度100億円の広告売上げになったそうです。うちだってそれくらいのポテンシャルはあると思っています。それから、リアルタイムでデータを持っているので、相手によって広告の出し分けもできるはずです。将来的には、男性向けの広告を男性だけに出すなどもやってみたいです。」

ところでこの夏から、それまでのフジテレビオンデマンドという名称をFODと変更している。それはどういう背景からだろう。

「FODという名前にしたのは、フジテレビのものしか置いてないと見られがちだからです。実際にはマンガもあるし映画や海外ドラマもある。フジテレビ以外のコンテンツもありますよ、という意味で”フジテレビ”でなくFにしたんです。それから、系列の皆さんにもっと参加してもらいたいとの思いもありました。FODのFはFNSのFでもあるのです。系列局さんの本店としてやりませんか、と呼びかけるためにFODとしました。テレビ西日本さんなどオリジナル番組を作っている局のコンテンツはいくつかすでに入っています。配信を試してみたいという声に応えたいと思っています。系列は違うけど「水曜どうでしょう」とか入れてもらいたいですけどね(笑。 製作委員会方式のアニメで局が入っていないものはもう扱ってますし。」

筆者も有料会員なのだが、そう言えば何が置いてあるのかちゃんと把握できていなかった。あらためて見ると、SVODサービス同様映画が並んでいたり『ウォーキングデッド』もあったりグラビアものもあるなどほんとうに幅広いラインナップだ。

ただ逆にいろいろありすぎてわかりにくくなっている気もする。

「いろんな経緯ではじめたサービスをワンプラットフォームでやっているので、自分たちでも整理できていないのは否めないですね。今後は見逃しで来てくれる人が増えていく中で、その人たちにどうやって会員になってもらうかが課題だと思っています。月額会員制なので見るものがなくなるとやめられてしまう。だから積極的にコンテンツを増やしています。フジテレビの番組をきっかけに、そこからどう広げるか。有料会員は80万人いて、プラス7のユーザーも合わせると200万人になっています。これからはまず有料会員を100万人まで増やして、動画配信プラットフォームの大手の仲間入りをしたいと考えています。その先にはテレビの新しいビジネスモデルの可能性もあるのではないでしょうか。」

野村氏は大きな視野でテレビの将来を真剣に見据えようとしている。

「日本は、人口ピラミッドがさらにいびつになり、人口も減りますよね。GDPだって減るのに広告収入だけでやっていけるのかとの危機感があります。自社制作の番組だけでタイムテーブルを埋められなくなる懸念だってある。台湾では人口が1500万人で、中国から番組を買って来て放送するそうです。1500万の国内市場では番組を作れないんですね。日本がオリジナル番組でやっていくなら、広告モデルだけでない領域が必要だし、海外も視野に入れるべきだと思います。」

壮大な話ではあるが、実際これから日本のテレビ局が見舞われる課題がそこにはある。だからこそ配信に取り組むのだという野村氏は強い危機感とそれでもテレビマンとしてやり抜こうという決意と野心を表明してくれた。

そう、日本のテレビの、さらに言えば日本の映像コンテンツの未来を考えればこそ、テレビ局のネット配信は注目すべき領域だ。そして各局それぞれの試行錯誤と、その経験の共有が大事だと言える。野村氏がこうしてデータを明らかにしてくれたのもそういう思いがあるのだ。

Media Borderでは、これからもテレビ番組のネット配信に注目していきたい。また取材してお伝えしていこう。


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