12月6日夜、5年ぶりという『M1グランプリ』が放送された。久々に漫才を楽しんだ読者も多いだろう。筆者もリアルタイムで最初から視聴し、漫才の醍醐味を堪能した。
審査結果にはひと言申し上げたいところだが、それは置いといてMedia Border的に非常に注目したことがあった。
いよいよ審査結果を発表するという番組のクライマックスのCMタイムで、NON STYLEの漫才が放送された。CMであることは明確なのだが、左肩に「M1グランプリ×ユニクロ」と表示されている。そのままの映像がYouTubeに置かれているので見てもらおう。
※この記事を見るタイミングによってはすでに公開期間が終わっている可能性がある
このCMはよくできていて感心した。NON STYLEの漫才のパターンをきちんと踏まえながら、ユニクロの商品を嫌みなく織り込んでいる。漫才として面白い上にちゃんとした広告にもなっている、ということだ。かなりの完成度だと思う。
NON STYLEもしくは吉本の側で作ったのか、ユニクロもしくは広告代理店側で用意した台本なのか。彼ら自身が作ってくれたとしか思えない出来のよさだがどちらにしろ、おそらくきちんと打合せを経て作られたのだろう。
このCMは視聴者の間でもそれなりに話題になりこういうTogetterもまとめられている。「優勝はNON STYLEではないか」とのTweetもあり、かなり面白がっていることがわかる。
→Togetter「M1グランプリでNONSTYLEが披露したユニクロCM漫才が面白すぎて流石だったと話題に」
ユニクロはCygame、日清食品、ファミリーマートとともに”プレミアムスポンサー”と表記されており、番組のWEBサイトでもそれが明示され、リンクが貼られている。ただ、他のスポンサーが企業サイトへのリンクにとどまっているのに対し、ユニクロは特設サイトがつくられ、そこにリンクが貼られている。
このサイトを見ると、ユニクロのM1グランプリコラボが、NON STYLEの漫才だけではないことがわかる。ページの下のほうまで行くと、これまでM1で活躍した芸人がユニクロの各店を回る催しが10月から始まっていたことがわかる。ユニクロがかなりM1に”のっかって”いたのだ。
プレミアムスポンサーのスペシャルCMは番組途中で中川家が出演するCyGameのものもあったが正直企画として弱く、”あとづけ”の匂いをさせていた。日清とファミリーマートはスペシャルCMはなかったので、ユニクロはプレミアムスポンサーの中でもプレミアムな扱いだったことがうかがえる。
特別なスポンサーについて番組出演者が出演する特別なCMが当の番組の中で流されることはこれまでもあった。だがM1×ユニクロの例は、漫才としての完成度の高さと、放送されるずいぶん前からスタートしていた点で、斬新な仕掛けだと言えると思う。
ちなみにユニクロのYouTubeチャンネルにはNON STYLEのスペシャル漫才の別バージョンも置かれている。テレビで放送されたものとは別のネタで、しかも長いので彼らの面白さを存分に楽しめる。
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漫才動画はもうひとつあるので紹介しておこう。
さてこの一連の番組コラボは、どういう経緯だったかはわからないし、M1の制作著作局である朝日放送がどこまで関与したのかも不明だ。かなり吉本の側が仕掛けたのではないかと、想像してしまう。
いずれにせよ、ここにはテレビ局が、あるいはテレビ番組が持つ価値について考える大きなヒントがあると思う。
吉本の芸人たちが店舗を盛り上げたりオリジナル漫才を作ったりすることがユニクロにとっての価値だ。そこだけなら、「M1グランプリ」とのコラボにする必要もない。だが実際には、芸人が動くだけでなく「M1グランプリ」という番組とのコラボレーションにする必要があった。そこでは”番組というブランド”が機能するからだ。
店舗に行く芸人は”M1戦士”と名づけられていた。NON STYLEの漫才もM1とのコラボだから価値が余計に出てくる。そして何より、番組がこの時期に放送されるから見る側も気分が高揚する。そこには企業が広告予算を投資する価値が出てくる。それこそが番組が持つブランド力なのだと思う。
もちろんそれは由緒あるM1だから、ではある。全国的な知名度と十数年の歴史があるからだ。
だがこれに似たことは、いろんな番組で起こりえる。M1ほどメジャーじゃなくても、ローカル番組であったとしても、その番組が”ブランド”を築けていれば、似た事はあり得る。ブランドとは、有名とか高級とか、そういうことではない。一定の視聴者に対し、その番組が”価値がある”と認めてもらえていれば、それが”ブランド”なのだ。
ユニクロがM1というブランドを活用したいと考えたように、一定のブランドを築けている番組なら、同じような企画は成立するはずなのだ。その時、テレビ局の側が相変わらず「CM枠を買ってください」以上の提案ができなければ、ブランドを最大限利用できずに終わる。だが出演者や番組ロゴ、設定など、その番組が持つ”ブランド資産”をWEBや店舗などの場も使ってフルに活用すれば、CM枠のセールスにとどまらない提案ができるのだ。
こうした事例は今後、増えていくと思われる。新たな事例をまた追っていきたい。
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