テレビとネットの横断業界誌 Media Border

2015年11月号

「番組のオムニマーケティングを考える時代へ」InterBEE Connected:もっとも刺激的だった小池良次氏の講演から大事な部分をお届けする

2015年11月24日 16:28 by sakaiosamu
2015年11月24日 16:28 by sakaiosamu

InterBEEが先週、11月18日〜20日の三日間の期間を終えた。筆者は取材のためInterBEE Connectedのオープンセミナースペースと展示会場に張り付いていたので、正直他の会場はほとんど回れなかった。取材したことはInterBEEの公式サイトに記事として近々に掲載される予定なので楽しみにしてもらいたい。

ここでは取材した中でも19日午前の「米国放送界最新事情:大手TVネットワークのOTT戦略とその波紋」と題して行われた米国在住のジャーナリスト小池良次氏のセッションからお届けしたい。InterBEE Connectedのセッションはそれぞれ非常にタイムリーで濃い内容だったのだが、その中でも小池氏の話は、今後の日本の放送業界にとって大いに参考になる話が詰まっていた。放送に限らず映像に関わる方々にとって、あるいはメディア業界全般に携わる方々にとっても、ヒントにしてもらえる話だと思う。

例えば「分散型メディア」の概念とも関係するし、前回の民放大会シンポジウムでの藤村忠寿氏と「水曜どうでしょう」の話とも関連付けて考えると面白いと思う。

筆者のかなり勝手な受けとめ方、解釈とともにお届けしたい。 

まず前提として、「大手TVネットワークのOTT戦略」とは何かを知っておくべきだろう。アメリカには日本でいう民放地上波としてABC、CBS、NBC、FOXの四大ネットワークが存在している。そして日本とは違って基本的に多チャンネルだ。アメリカ国民のほとんどはケーブルテレビか衛星放送に加入していて、何十何百ものチャンネルに囲まれて暮らしている。そのためにはケーブルテレビに月50ドルから100ドル以上を支払う。「アメリカのテレビは有料だ」と言われる所以だ。そして四大ネットワークは日本ほど視聴率が高くない。日本では最近になってドラマが一桁台の視聴率になって下がった下がったと言われるが、アメリカではヒットドラマの視聴率が7%だったりする。ヒットの概念が違うのだろう。

その分、アメリカではシンジケーション市場と呼ばれる、テレビ番組の2次市場が発達している。ヒットしたドラマは、最初の放送以降、あちこあちの放送局で何度も何度も放送される。日本では今BS放送で、昔ヒットしたドラマが流されているが、それに近いことがこれまで普通に行われてきた。ハリウッド映画でよく、子どもが古いアニメをテレビで見ていたり、老夫婦が昔の白黒のドラマや映画を見ている場面が出てくるが、ああいう日常なのだろう。

そんな中、日本でも『セックス&ザ・シティ』が一部で話題になったりいまだと『ウォーキング・デッド』がマニアックな人気を博しているが、これらはケーブル専門テレビ局のオリジナル制作ドラマだ。日本のWOWOWオリジナルドラマとポジションが似ている。ケーブルテレビの契約者にオプションチャンネルとして自局を売り込むために、『セックス&ザ・シティ』はHBOが、『ウォーキング・デッド』はAMCが製作した。月に1000円程度の追加料金が必要なこれらのチャンネルは、選んでもらうために"うちでしか見れないドラマ”が必要だったのだ。

そんな中でインターネットが登場し、これまでのやり方が問われ始めている。 まずテレビの視聴時間が急減している。そこは日本も同じだ。そしてケーブルテレビの費用を減らしたり、いっそ契約を止めたりする人が結構な数で出てきている。その代わりにNetflixのようなVOD事業者が登場した。好きな時間に定額でドラマや映画を見放題。こうなると放送じゃなくてもいいなあ、というのが今の気分だろう。

そこでCBSは、CBS All Accessというサービスを新たにはじめた。 どんな内容か、WEBサイトにはこう書いてある。

" Over 7,500 Episodes On Demand, New Episodes On CBS App Next Day, Watch Live TV"

つまり、7500話をオンデマンドで視聴できる。新しいエピソードは翌日Appで視聴できる。テレビ放送をライブで視聴できる。とにかくスマートフォンやタブレットで、好きな時間に見る、新しい番組を見る、放送を見る、ということができるのだ。

これが大手TVネットワークのOTT戦略。CBSはもっとも大胆な手法だが、ここまでじゃないにしても放送局、番組を作る側が直接OTTに乗り出したことが今年の大きな動きの核になっているのだ。

CBSと、このところ日本で話題のNetflixやAmazonとはどういう関係なのだろう。ちゃんと整理しないと頭がこんがらがりそうだ。小池氏は、こんな図を示してくれた。

 いちばん右がOTT-STBとなっている。テレビにつないでOTTを楽しむための機器のグループで、AppleTVやプレイステーションなどが並ぶ。Rokuという日本にはない端末もアメリカでは売れているらしい。

右から二番目には、いま日本で話題沸騰の一群がいる。NetflixにHulu、ここにもリンゴマークがあるのはiTunesStoreの運営者としてのAppleだ。小池氏はこのカテゴリーを”クリアリングハウス"と呼んでいた。権利を次々クリアしてどんどん配信するのでそう呼ばれるらしい。

その次に、というより図の真ん中でどんと存在感を発揮しているのがコンテンツプロバイダーダイレクト、と括られている一群。CBSなどテレビ局が中心だが、ディズニーもいる。これまでのコンテンツ供給者だった事業者が自ら直接配信に乗り出した、ということだ。

いちばん左はネットワークOTTとなっており、Verisonなどがいる。タイムワーナーケーブルもいる。携帯キャリアやケーブル事業者などもともとネットワークを持っていた連中が配信もやっている、ということのようだ。

こうなると、コンテンツプロバイダーはクリアリングハウスと協業相手だがライバルでもある、という不思議な関係になる。では何をどう考えていけばいいのだろう。その答えを、小池氏は「番組のオムニマーケティング」と言っていた。それはどういうことなのか。(ここから先は登録読者のみ)

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